第9話:初恋と弱気

「じゃあまずは龍が知っている龍族の所に案内してちょうだい。

 ああ、まずは私が知っている龍族の居場所を言っておくわ。

 その中から、強い順に回って欲しいのよ」


 黄金龍は自分の強さを聖女マリーナにアピールしたくて、同族を皆殺しにして、その強大な魔晶石を手に入れて戦力を高める心算だった。

 だが、その考えは聖女マリーナに一蹴されてしまった。

 なんと聖女マリーナは、龍族と従魔契約するというのだ

 黄金龍の常識では、人間が龍を従属させる事など絶対に不可能だった。

 だが聖女マリーナはとても頑固で黄金龍の話に耳を貸さない。

 それもそのはずで、黄金龍が考え付かないような秘策を持っていた。


「分かった、それならば成功すると思う、思うが安全策をとろう。

 龍ではなく竜から、それも弱い順にやって行こう。

 それならば、従魔にした竜の力を借りる事もできるし、何かあった時には盾にもできるから、な、そうしよう」


 一気に性格が逆転したような話し合いになってしまった。

 恋した黄金龍は、聖女マリーナに関することになると、とても憶病になっていた。

 聖女マリーナが提案したように、黄金龍の魔力で支援すれば、魔術の効果は飛躍的に、それこそ数百数千倍の効果になる。

 大魔境の強大な魔獣を大人しくさせた聖女マリーナを、黄金龍が支援すれば、確かに龍すら魅了して従魔にすることが可能だろう。

 黄金龍も頭では分かっていたのだが、恋心が慎重にさせてしまっていた。


「何を言っているの、龍の力をもってすれば、格下の龍を魅了するくらい簡単よ。

 まだ時間はあると思うけれど、想定外という事もあるわ。

 神が龍の事を気にして監視している可能性もあるのよ。

 できるだけ強い龍から従魔にしていくのが最善策なのよ、何考えているのよ」


「いや、そのだ、だって、でも、心配だから……」


 聖女マリーナにも、黄金龍が何を考えて誰を心配しているか分かった。

 自分などが想像もできないくらい長い年月を生きてきた黄金龍が、まるで初めて恋した男のようにモジモジとしているのに、激しく母性本能を刺激された。

 アンリに母性本能を増強させられている聖女マリーナの、ツボに入ったと言えるかもしれない。


「もう、しかたがない子ね、分かったわ、最初の数竜だけよ。

 もう大丈夫と思ったら、竜から龍にするのよ、いいわね!」


 聖女マリーナは最初とても優しく甘やかすように包み込むように話していたが、最後にははっきりと言い切った。


「うん、分かった、分かったから、最初は竜からだ」


 恋する男というのは、それも初恋と言うのは、ここまで男を弱くするのかと思われるほど、黄金龍は弱々しい話し方になっていた。

 

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