第8話:駆け引き

 黄金龍は直ぐに神界の乗り込もうとした。

 今まではこの世界で受けて立っていたが、神界の場所を知らない訳ではない。

 乗り込む方法を本能的に分かっていた。

 だが、それを聖女マリーナが止めた。


「まだよ、まだ少し早いわ、もっと準備をしなければね。

 私が調べて範囲では、神が天罰を下すまでには時間がかかるわ。

 その間に、確実に勝つために必要な物を用意するのよ」


「なに、俺の言葉が信じられないのか、準備など不要だ」


 黄金龍はプライドを傷つけられて怒っていた。

 今までこの世界の人間、いや、全ての生物に負けた事などない。

 同族の龍であろうと、竜や精霊であろうと、黄金龍を見ればこそこそと隠れてしまっていたので、面と向かって遮られた事がない。

 喧嘩相手の神も、黄金龍が一方的に戦いを挑んでいただけだ。


「あら、私を無防備で神との戦いの場に連れて行くつもりなのかしら?

 それはあまりにも思いやりがないのではなくて。

 漢気を見せるというのなら、私のための準備してくれるのは当然でしょ」


 黄金龍は心底聖女マリーナの言葉に呆れかえっていた。

 聖女とは、神がその性格を気に入って力を与えた存在だ。

 表だって敵対すれば、力を奪われ、ただの人間に戻ってしまう。

 そんな聖女が、ノコノコと黄金龍と神の戦いの場に行けば、敵対していることが明白になり、力を剥奪されてしまうだろう。

 いや、それ以前に、聖女ごときの力で黄金龍と神の戦いの場にいたら、激突する力の渦に巻き込まれて、一瞬で消滅してしまう。


「なにを馬鹿な事を言っている。

 聖女ごときが私達の戦いの場にいられる訳がないだろう。

 私が勝つまでこの世界で隠れていろ」


「あら、それは無理な話だわ。

 私は貞淑な女なの、単に戦いに勝っただけの人を惚れたりはしないよの。

 実際に戦いの現場を見て、私のために命を賭けた所を見なければ、心を動かされたりはしないの。

 それに、私のために命懸けで戦う人がいるのに、隠れているなんて、そんなことができる訳がないわ。

 当然私も、龍が勝つことを信じて、命を掛けさせてもらうわよ」


 黄金龍の初恋が、病と言っていいほど高じたのは、この時だったのかもしれない。

 自分を信じて、死を覚悟して神との戦いの同行してくれるという。

 いや、自分のために、勝つための努力をしてくれるという。

 実際には、愛しいアンリのためなのだが、恋する男の妄想は激しい。

 思い込みとしか言えないのだが、黄金龍には、聖女マリーナが自分を勝たすために、自分を寝室に誘うための言い訳に、勝たそうとしているように聞こえた。

 これが聖女マリーナの計算なら、悪女である。

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