第7話:初恋
龍はずっと孤独だった。
竜と龍は明らかに違い、力の差は格段で、比較するのもおこがましい。
龍はこの世界にほとんどいないのだが、一人だけという訳でもない。
だがその同族の龍の中でも、黄金龍は別格で、普通の竜と龍の差以上の力差があり、とても友人やパートナーとできる相手ではなかった。
この世界で冠絶した力を持つ龍にとって、唯一対等の相手と言えるのは、喧嘩相手の神だけだったのだ。
だからこそ、神が天罰を下そうとするたびに、迎え討って戦ったのだが、その神とは全く違う次元で、龍の興味を引いたのが聖女マリーナだった。
マリーナをからかうために、人型、それも男の姿を取ったのが悪かったのかもしれないが、一瞬で心惹かれてしまった。
時に身勝手、傲岸不遜ともいえる態度をとりながら、子供のアンリの事を話す時には、溢れんばかりの母性を全く隠さない。
卵から孵り、冠絶した力ゆえに、ずっと孤独に生きてきた黄金龍には、その姿が神々しいまでに魅力的に見えた。
衝動的な生殖本能に突き動かされ、その場で聖女を押し倒したい激情に駆られたが、先に聖女が言った言葉がその行動を思いとどまらせた。
「私に子供を生ませたいのなら、私を惚れさせなさい。
私を惚れさせるくらいの漢気を見せたなら、言われなくても私から寝室に誘ってあげるわよ」
もう黄金龍には他の事は考えられなかった。
聖女を自分の魅力で惚れさせて、寝室に誘わせる。
これほどの喜びはない、と本気で黄金龍に思わせていた。
これを計算でやっていたとしたら、マリーナは聖女ではなく悪女と言える。
いや、本能的にやっていたのなら、天性の悪女だ。
聖女であり悪女でもあるのが、マリーナなのかもしれない。
女の中には、聖女にも悪女にもなりうるモノが眠っているともいえる。
「誰に言っているのだ、聖女マリーナ。
俺様は黄金龍だぞ、この世界どころか、神界にだって怖いモノなどない。
いいだろう、神界に乗り込んで、今度こそ神との戦いに決着を結着をつけてやる。
二度とこの世界に手出しできないように、神を完全に滅ぼしてくれる。
ああ、だが、いいのか、そうなればお前は俺様に惚れるぞ。
そ、そうなれば、ほ、惚れたら俺様を寝室に誘って、子供を生むことになるぞ。
本当にそうなる覚悟があるのか?!」
「ふっふっふっ、そうね、そうなったら、私は卵産むのかしら?
龍が私が惚れるほどの戦いぶりを見せてくれたら、それもいいわね。
アンリにも妹や弟がいた方がいいだろうしね。
でも、本当にできるの、私が惚れるような戦いを?」
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