第4話:安住
王都で凄惨な殺し合いが行われている頃、愛息アンリと転移した聖女マリーナは、以前から用意していた安住の地、大魔境の奥深くで休んでいた。
聖女マリーナの周りには、凶暴なはずの魔獣が集まり甘えた姿を見せています。
他の場所でなら、凶暴な魔獣は殺し合い喰らい合うのだが、聖女マリーナの前でだけは、借りてきた猫のようにおとなしかった。
魔境にある何かが、魔獣を凶暴にさせるのかもしれない。
聖女の力が、それを打ち消しているのかもしれない。
「おんぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ」
聖女マリーナとシャルルの間に生まれた子供、アンリが激しく泣きだした。
王城内で行われている阿鼻叫喚の惨劇を感じているのだろうか。
虎型の魔獣、魔虎が心配そうにしている。
いや、魔虎だけでなく、魔狼や魔猫までは心配そうだ。
「大丈夫よ、お腹がすいただけ、さあ、たくさんお飲みなさい」
聖女マリーナがドレスの上半身を脱いで、自らの母乳をあげようとする。
アンリが聖女マリーナの左乳房を含み、無心に飲み始めた。
王家が乳母をつけると言ったのを、頑として拒否した聖女マリーナだ。
魔獣達が見ていようと、いや、人が見ていようと気にはしない。
母が愛する子に乳をあげる事を、性的な眼で見る方がおかしいのだ。
授乳とは子供を育てるための聖なる行いなのだ。
「貴方達はここにずっといて、アンリを護ってね。
神が何と言おうと、護り通してね、お願い」
聖女マリーナは、神の怒りをとても心配していた。
神と人間では情愛の基準が違うので、天罰を下す一族から誰かを特別に除外したことがなく、シャルルの一族を皆殺しにすると決めたら、アンリまで殺してしまうかもしれないのだ。
こうなる可能性を考えて、以前から神の目を誤魔化すための安住の地、幾重にも隠蔽の魔法を重ねた聖地を創り出していた。
「私は龍に協力を頼んでくるから、お願いね」
聖女マリーナは、アンリを護るために、神に匹敵する力を持つ、伝説の龍に助力を求めると心算だったが、アンリを連れて行くわけにはいかなかった。
龍が聖女マリーナを殺そうとして襲いかかってきた時、アンリがいては逃げる事もできなくなってしまう。
龍の性格は不可思議で、何怒りを感じ、何に喜びを感じるのか聖女マリーナにも全く分からないのだ。
それでも、正面から戦って勝ち目がない相手、神と龍を比べて、どちらに頭を下げれば助けてくれるのかと考えれば、無慈悲な神よりはまだ龍の方が可能性がある。
そう聖女マリーナは考え決断したのだ。
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