第3話:内紛

 離婚を宣言し、破滅を言い渡した聖女マリーナを、もう誰も追えなかった。

 いや、追いたくても、転移魔法でどこかに行ってしまった。

 呆然としていた王族達だが、直ぐに互いを罵り合いだした。

 ある王族は、シャルルをあのように育てた国王と王妃を罵った。

 国王と王妃は、自分に非はなく、本人が悪いと罵り合いだした。

 別の王族はシャルルと一緒に売春宿に行っていた王族を罵った。

 そこで全員が聖女マリーナの言葉を思い出し、ハッとした。


「うっわあああああ」


 身に覚えのある王族が逃げ出した。

 慌ててシャルルと一緒には、売春宿に行っていない王族が追いかける。

 彼らは、シャルルと一緒に売春宿に行った、シャルルを唆した王族を皆殺しにすれば、神から許してもらえるかもしれないと考えたのだ。

 

「助けてくれ、許してくれ、俺は誘っていない、俺はシャルルに誘われた、ギャッ」


 ある傍系王族の令嬢が、廊下に飾ってあった花瓶を振り上げて叩きつけた。

 別の傍系王族の貴婦人が、素手で繰り返し倒れた男の顔を叩く。

 叩ている手の皮が破れ血が噴き出しているのにも気がつかないでいた。

 誰もがみな神の怒りから逃れたい一心で必死だった。

 眼の前であれだけの惨劇を見せつけられたのだ、当然と言えば当然だった。


「俺よりシャルルだ、シャルルを生かしていて、何故俺だけを殺す。

 国王と王妃だ、これはシャルルを助けようとする、国王と王妃の陰謀だ。

 先に国王と王妃を殺さないと助からないぞ!」


 追い込まれたある傍系王族の男が、助かりたい一心で叫んだひと言が、虐殺劇の流れを一気に変えてしまった。

 自らの殺人行為に興奮し、血の臭いの酔い、狂気に囚われていた王族達の目が、一緒に殺人を繰り返していた国王と王妃に向けられたのだ。


「「う、ヒッィイイイイイイイ」」

 

 国王と王妃は、今度は自分達が標的にされたと感じ、恐怖に息を飲み、悲鳴ともつかない呻き声をあげながら、脱兎のごとく逃げ出した。

 その後を一瞬遅れて王族達が追いかけていく。

 聖女マリーナの前で土下座したいた時の半数以下、三分の一程度のなっていた。

 このままでは、天罰が下る前に王族が殺し合って死に絶えてしまう。

 聖女マリーナの最後の言葉が、それをもくろんだモノである事を、誰も気がつかず、操られて殺し合いを繰り返すのだ。


「いやあああああ、やめてぇええええ」


 ついに追いつかれた王妃に、傍系王族の振りかぶった椅子が振り下ろされる寸前、近衛騎士の制止が間に合った。


「なにをなされます、これ以上の無礼は王族の方でも許されませんぞ!」

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