一週間の同居生活⑬
明希の家は、電気が消えて静まり返っていた。 何となく一度締め出された時のことを思い出していた。
―――あの時は、一人早く帰っちゃって、鍵を持っていなくて。
今は借りた鍵を持っている。 だから家の中に入ろうと思えば入ることができる。 なのに真依は庭の方へと歩き、椅子に座った。
―――ここで課題をやっていたら寝ちゃって、明希が起こしてくれたんだっけ・・・。
明希のことを学校で見た時は、明るくて社交的だと思った。 ここへ来て、暗くて冷たいと思った。 そしてこの椅子から起こしてくれた時、そのどちらも明希の姿でないと思った。
この一週間、長かったような短かったような期間で色々なことがあった。 それを思い出しているうちに、いつの間にか机に伏したまま寝てしまっていた。
「・・・」
身体を静かに揺すられて、真依は目を覚ました。
「鍵を持っているはずなのに、何でこんなところで寝てんの?」
顔を上げてみれば、立っていたのは明希だった。 顔には影が差し、その表情は見えない。
「明希を、待っていたんだよ」
「涎垂らしてか?」
「・・・え、嘘ッ!?」
慌てて口元を擦ってみるが、乾いていて涎の跡はなかった。
「嘘だよ。 あの時に比べて、少しは成長したみたいだな」
からかわれたのだと分かり、ジワジワと恥ずかしさが込み上げていく。
「私は明希が好き!」
だから、その恥ずかしさを勢いに変えて言った。
「え、ちょっと待て」
「私は明希が好きでした! 終わり!」
「は・・・。 え? 過去形?」
「明希にその気がないのは分かっているし、家に入ると言えなくなると思ったから言った! 過去形じゃなくて、現在進行形!」
湊の言葉が正しいなら、本気でないから自分から離れていったということだ。
「現在進行形・・・。 で、俺が好き?」
「そう! 好きだよ! って、おい、どうしてまた言わせるの! 恥ずかしいんですけど!」
真依の中で、明希に受け入れられるとは思っていない。 ただ湊とのこともあり、けじめはつけたかった。 それは酷く自分勝手な理由だとも思ったが、膨れる想いは止められない。
―――でもそう言えば、どうして私は明希が好きなんだろう?
そう思っていると笑顔を向けられて、その笑顔が好きになったのかと思いドキリとした。
「その気がないわけじゃない。 寧ろ逆、だから真依の言葉は嬉しかった」
「へ・・・? じゃあ、どうして私を拒絶していたの?」
「だから逆だって。 真依のことを大切に思っちまいそうだったから、手を引いたんだ」
意味が分からなかった。 好きなら近付き、嫌いなら離れる。 真依はずっとそう思っていた。
「真島に『真依のことが大切か?』って聞かれて、気付いたんだ。 俺は真依のことを、大切に想い始めているということに。 だけどまだ俺は、過去を克服できていないというのも否定できなかった。
俺が好きになると、また失ってしまうんじゃないかって、すげぇ怖かった。 失うなら、遠ざけた方がいいんじゃないかって。 ・・・情けないよな、本当に」
「・・・ううん、情けなくなんかない。 それが普通だよ。 すぐに過去を、克服できるわけがないじゃん。 ・・・ねぇ、ズルいことを言ってもいい?」
「・・・何?」
「私は明希が好きだから、明希のことは大切だよ。 だからフラれたら、大切なものを失った感覚になるの。 明希は私に、自分と同じような気持ちにさせてもいいの?」
「・・・本当に、ズルい奴」
「ふふ、ごめんね。 明希は、私のことが好き?」
「・・・好きだよ」
「それは現在進行形で?」
「・・・うん」
「よかった、嬉しい。 これからは二人で一緒に、大切なものを守っていこうよ」
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