一週間の同居生活⑪




昼休みが終わる前 ギリギリになって明希が戻ってきた。


「あ、明希! 湊との話はどうだ・・・」


明希は話しかけても一言も応えず、視線を向けることすらしなかった。 ただ黙って男子の輪の中へ入るが、まるで空気のような存在になっている。


―――あ、れ・・・?

―――聞こえなかったのかな。


それを見ても、真依にはどうすることもできなかった。






放課後 



帰る前に、明希に一言かけようとする。


「ねぇ明希。 今日も帰・・・」


明希はそれを無視して、すぐさま男友達との会話を進めてしまう。 それで確信した。 完全に、無視されていると。 今日の朝のことが全て嘘のよう。 楽しかった時間はもうどこにもなかった。


「あれ? 水瀬、羽月さんはいいの?」

「ゲーセン行こうぜ。 俺今さ、やりたいゲームがあって!」

「お!? まさか水瀬から誘ってくれるとは! いいぜー!」


友達との会話ですら、意図的に真依のことを除外しようとしている。 自分が何かした覚えはない。 ということは、湊と話したあの時間が全ての原因だと思った。


「おーい、真依ー! 遅いぞー」

「あ、うん!」


湊が笑顔で迎えに来る。 その時、湊と明希がすれ違ったが、湊は普通に笑顔を向けていた。


―――湊が他の誰かに、酷いことを言ったりするわけない、よね・・・。


湊が誰かのことを悪く言ったり、暴力を振るったりするところなんて見たことがない。 傷付いた鳥を、手当てしてあげたこともあるくらいなのだ。


「真依ー。 大丈夫・・・?」

「・・・うん、大丈夫だよ」


美桜が何故か、不安気に顔を覗き込んできた。


「本当? 苦しかったら言ってね?」

「ありがとう、美桜」


美桜に別れの言葉を言い、湊のもとへと向かった。






下校中湊はいつも通りに話しかけるが、真依はずっと浮かない顔をしていた。


「真依、元気ないな。 何かあったら俺に教えてほしい。 俺は真依の味方だから。 今も、今までも、そしてこれからもずっと」

「ん・・・。 うん。 ありがと、湊。 その言葉でちょっと救われるような気がするよ」

「それならよかった。 俺たちは誰よりも、長い時間を過ごしてきたんだから」


湊は内心で笑っていた。 明希が真依に冷たい態度を取ったということは、既に噂になって知っている。

つまり自分の言葉が効果があったということで、明希は自分から身を引いたということになるからだ。


「長い時間・・・か」

「そう! その時間を、これからも育んでいこう!」


湊は上機嫌で喋り、真依は何となく気分が沈んだままだった。 いつも別れる場所まで来て、湊は笑顔で口にする。


「なぁ、やっぱり俺ん家に泊まりに来ない? 今日明日で終わりなんでしょ?」

「・・・そうしちゃおっかな」

「うん! そうし・・・」

「と言いたいところだけど、止めておく。 ごめんね」

「え・・・。 あ、そう・・・」


湊は露骨に残念そうな顔を浮かべ、二人は別れて帰っていった。






家に着いたのは、いつもより大分早い時間帯だった。 買い出しに寄らなかったためだ。 課題を済ませてしまおうとするが、明希のことが気になり集中ができない。 

何となくベッドに寝転びゴロゴロしていると、18時くらいになったところでドアの開く音がした。 それに反応し、部屋を飛び出して下へ行く。


「あ、明希! おかえり!」


無視されるかもしれない。 それでも、理由を聞くまでは納得できるわけがない。 そう思っての行動だった。


「・・・あぁ、ただいま」

「ッ・・・!」


そして、返事はあった。 完全に無視われているわけではないらしい。 というより、今は誰も見ていないからなのだろうか。


「ねぇ、今日の晩御飯は昨日と同じでもいい?」

「・・・悪い、今日は俺飯いらない」

「え・・・」


明希はそう言うと、スタスタと二階へ上がってしまう。 それを止めることができなかった。


―――・・・何なのよ。

―――これじゃあまるで、この家へ来た初日と全く変わらないじゃない。


周りの人には笑顔を見せて優しくて、だけど自分だけには冷たい。 折角距離が近付いたと思っていただけに、とてもショックだった。



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