第454話 見せパンでも、見たらダメです。


 女装した途端、可愛い女の子としてチヤホヤされるアンナ。いや、ミハイル。

 今も目の前で全日制コースの男子高校生から、ナンパされている……。

 困ったものだ。


 しかし、どう出るか?

 きっと部活の練習に来ているような、活発な男子たちだ。

 やせ細った俺では、3人も相手に出来るだろうか……。


 助けるのを、躊躇していると。


「イヤッ! やめて!」


 と悲鳴が上がる。


 これには俺も咄嗟に身体が反応し、間に入り込む。


「お前らっ! いい加減にしろ! この子は俺の大事な連れだ!」


 格好つけて、彼女の前に現れたのはいいが……。

 やはり3人相手は、無理がありそうだ。

 改めて見ると、アンナを囲んでいる男子生徒は全員が高身長。

 180センチ以上はある。


 上から睨みつけられて、恐怖から縮こまってしまう。


「は? 誰、お前……ちょっとこの子に聞きたいことがあるんだけど?」

「そうだよ。質問ぐらい良いだろが!?」

「本当にラブホテルへ行ったのか、知りたいんだぶ~!」


 と、とりあえず、最後の方にだけ答えます。

 真実は、両方のヒロインと行きました。

 でも、一線は越えてないので、セーフです。


 なんて、考えていると。

 アンナが俺の背中に隠れる。


「タッくん……この人たちが、アンナの身体を触ろうとしたの」

 それを聞いた俺は、先ほどまでの恐怖なぞ吹き飛ぶ。

「貴様らっ! やって良い事と悪い事があるだろ!? 同意なく、女の子の身体に触れるのは犯罪だっ!」

 俺だってあんまり触れてないのに……。


「は? 触ろうとしたんじゃなくて、見たかったんだよ。そのワンピースのブランド」

「え、ブランド?」

「おお……妹が最近、失恋してよ。そういう可愛いブランドでも着たら、今度は成功するのかと思ってよ」


 と頭をかいてみせるお兄ちゃん。

 なんだ……ただのシスコンか。


  ※


 妹想いのお兄さんに話を聞くと。

 ずっと片想いをしていた妹さんが、中学を卒業するまで勇気を持てず。

 告白できないまま、相手が海外へ旅立ってしまったらしい。

 でも、1年間の留学を終えたら、戻って来るようだ……。

 

 そこで、アンナの可愛らしいファッションを目にしたお兄さんは、ブランド名が知りたくなったそうだ。

 帰国した際に、妹がその服を着たら、勇気が出るかもと。

 

 恥ずかしくて、ちゃんとアンナへ伝えられなかったそうだ。

 それを知ったアンナは、安心する。

 スマホでブランドを検索して、お兄さんに色々と教えていた。


 なんだったんだ……この茶番は?



 ただ俺が現れてから、お兄さんの視線は、ずっとこちらへ向けられていた。

 まさか、シスコンでゲイなのか?


 アンナから色々と教わって、恥ずかしそうに頭を下げるお兄さん。

 去り際に「二人だけで話そう」と腕を掴まれ、少し離れた場所へ向かう。


 口説かれるのかな、と身構えていたら……。


「あのさ、お前って。今恋わずらいしていないか?」

「なっ!?」

「やっぱり……そうなんだな。一目で分かったよ。うちの妹と同じだからな」

「え……?」


 お兄さんから事情を聞くと、妹さんは大好きな彼がいなくなってから。

 一切の食事を受けつけず……10キロ近く痩せたそうだ。

 正に、今の俺じゃん。


「悪いことは言わない。相手がいるうちに、想いは伝えた方がいいぜ? 妹はなんでか、“白うさぎ”しか食えなくなってよ……見てられねぇよ」

「……」


 なんか、俺が乙女みたいじゃん。

 相手なら、目の前にいるんだけどなぁ……。


  ※


 そのあと、無事に解放された俺たちは、教室に戻り。

 アンナが作ってくれた弁当を仲良く食べた……というか、食べさせてもらった。


 俺がまだフラつくからと心配した彼女が、わざわざお箸でおかずを「あ~ん」してくれる神対応。


 正直、浮いていた。

 急にアンナという美少女が、俺のカノジョ役として現れたこと。

 そして、俺にベタ惚れだということも。


 他の男子生徒たちはイチャつく俺たちを見て、舌打ちをしたり、睨みつけたり……。

 居心地が悪いったら、ありゃしない。



 昼休みに入って、20分ぐらい経ったあと。

 アンナが教室の掛け時計を見て、慌て始める。


「っけない! 次の授業、体育だった!」

「へ?」

「ごめん、タッくん。アンナ、ちょっと先に着替えないと。お弁当、全部食べて来てね!」

「おお……」


 そうか。宗像先生が更衣室の時間をずらすと言っていたな。

 まったく、不憫だな。

 男のミハイルなら、一緒に着替えられたのに……。



 アンナに言われた通り、しっかりと愛妻弁当を残さず食べ終えた。

 急にたくさんのおかずと白米を、胃袋に放り込んだから。

 ちょっと、お腹はビックリしていたが……。

 しかし、感じるぞ。

 みなぎる愛の力を……。



 チャイムが鳴る前に、俺も校舎を出て、武道館へと向かう。

 なんか心配だった。女装した彼は、モテるからな。

 それに俺自身、早く彼女の元へ行きたかった。



 武道館へ入ると、地下へ降りる。

 更衣室は左右に分かれて、2つある。


 一年前のスクリーングで、全日制コースの女子。

 赤坂 ひなたが着替えているところを目撃したのが、懐かしい。


 今回は、間違いなど起こすまいと、アンナが更衣室から出て来るのを待つ。

 アンナと仲良く体育かぁ……。

 色んな意味で、密着できる楽しい授業になりそう。


 ~10分後~


 女子更衣室の扉が、開く音がした。

 俺が想像していた装いとは、正反対の少女が現れる。


 長い金色の髪は、三つ編みのツインテールで女子力高め。

 トップスは、ピンクのポロシャツで。ボトムスはプリーツの入ったミニスカート。

 シューズも可愛らしいピンク。


「あ、タッくん。来てたんだ☆」

「おう……ちょっと心配でな。また絡まれてないかって」

「心配してくれたの? 嬉しい☆」


 可愛い……。

 ていうか、これで運動するのかって服装だ。

 完全に見せる前提で、用意してきたな。


「なあ、アンナ?」

「ん? なあに、タッくん」

「その……そんな丈の短いスカートで大丈夫か? 今日の授業は何か知らんが、運動するんだぞ」


 俺がそう言うと、彼女はクスクスと笑い始める。


「タッくんたら、心配性なんだから☆ 大丈夫、中には“ペチコート”を履いているよ」

「ぺち……なんだって?」

 聞いたことのない言葉に、首を傾げていると……。

 何を思ったのか、アンナがスカートの裾を詰まんで見せた。


「お、おい……」

「大丈夫だって☆」


 彼女の言う通り、スカートをたくし上げても、パンティーが露わになることは無かった。

 フリルがふんだんに使われた、薄い生地のズボンを履いている。

 いわゆる、見せパンってやつかな?


「ね? これなら大丈夫でしょ☆」

「ううむ……」

 

 合法的にスカートの中を見られて、嬉しいし可愛いんだけど。

 ブルマを堂々と履いていたミハイルが恋しいと、思ってしまうのは何故だろう。

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