第453話 女体化すると、世界が変わる。


 女の子として、初めての授業を受けることになったアンナ。

 なぜか単位が認められて……2年生という扱い。

 全部、宗像先生が仕組んだものだ。


「どうせ、中身は一緒なんだから、単位も一緒でいい」


 すごく適当なやり方。

 じゃあ、十年以上も通っている妻子持ちでアラフォーの夜臼先輩にも、単位をあげて欲しいものだ。


 そんなことを考えていると、一時限目の教師が入ってきた。


「は~い。じゃあ数学Ⅰを始めますよぉ~」


 若い男性教師で、前年度に受けていた教科と同じ人だ。

 ちなみに、今年度から『数学Ⅰ』になる。

 動物園レベルの高校なので、去年受けていた教科は『数学Ⅰ入門編』だ。

 Ⅰの前があることに、驚きはしたが……。


「なんかドキドキしてきたよ。アンナ、お勉強が苦手だし……」

 と弱音を吐くアンナ。

 中身は、あのミハイルだからな。苦労するだろう。

「まあ、そんなに構えなくて良いと思うぞ? この高校はレベルが低いし」

「それはタッくんが頭良いからでしょ。アンナには無理だよ」


 あの……褒められているのに、全然嬉しくないんですけど。


  ※


 男性教師がマジックを使って、ホワイトボードに数式を書いてみせる。

 そして「この問題をノートに書いて。解けたら僕のところまで持って来て」と生徒たちに指示する。

 自力で問題を解き、教師のところまで持って行く……という行為は、一ツ橋高校の生徒からすると、ハードルが高いらしい。

 みんな困惑していた。

 

 アンナも同様だ。

「え、えぇ……どうしよう? あんな問題、解けないよぉ~」

「別に間違えても良いから、提出すればいい。怒られることはないさ」

「でもぉ~」

 と頬を膨らませるアンナ。

 カワイイ……俺が教えてあげたい。


 ~20分後~


 数学Ⅰと言っても、昨年習った入門編の延長だ。

 小学生レベルが、中学生へ進級したようなもの。

 天才の俺はサクッと問題を解いて、教師に提出。


 全問正解したので、あとはのんびりと授業が終わるのを待つ。


 俺以外に問題を解けたのは、おかっぱ頭の双子。日田兄弟。

 それと床で、勉強するトマトさんぐらいだ。


 あとの生徒たちは、みんなノートと睨めっこ。

 唸り声をあげてフリーズしている。


「ダメだよ……わかんない」

 アンナのノートを覗いたが、まだ一問も解けていない。

 俺が教えるわけにもいかないし、ここは黙って見守ろう。


 そう考えていると……。


 何やら辺りから、女子の笑い声が聞こえてくる。


「あ、そっか~♪ 簡単だぁ!」

「でしょ? 次の問題もね、こうして……」


 教師が生徒にヒントでも教えている。と思ったのだが。

 鼻の下を伸ばして、嬉しそうに女子生徒の肩に触れる。


「ここはこう」

「すご~い、先生!」


 忘れていた。

 この教師、昨年の期末試験で女子にだけ、堂々と解答を教えていたゲス野郎だ。

 男子は放っておいて、女子限定で答えを教えまくる。


 当然、アンナの番になると……。


「あ、きみ。全然解けてないじゃ~ん。ハーフで可愛いのにねぇ~」


 いやらしい目つきで、アンナを上から下まで眺める。

 舌なめずりをしながら。


「す、すみません……私、数学とか英語は苦手で」

 別に意識していないと思うが。アンナは座っているため、自ずと上目遣いになる。

 あの美しいエメラルドグリーンの瞳で。

 これには、教師も興奮してしまう。


「ふふ……そんなに気にしなくてもいいよ。僕は君みたいな子に教えるのが楽しいから、教師をやっているんだ♪」

 何を思ったのか、アンナの頭を撫で回す。


「ぐっ!」


 怒りのあまり、シャーペンの芯を折ってしまった。

 このまま立ち上がって、ゲス野郎を殴ろうかと思ったが。

 後ろの席にいた、ここあに感づかれ、肩を掴まれる。


(オタッキー。気持ちはわかるけど、ダメだよ。正体がバレちゃう)

(りょ、了解……)



「アンナちゃんって言うんだぁ。きみ2年生なの? こんな可愛い子なら、覚えているけどなぁ♪」


 左手で彼女の頭を撫で回し、右手で一緒にペンを持つ。

 完全に、密着状態。


 あ~、ぶっ殺してやりてぇ!

 しかし、アンナの単位がかかっている。ここは堪えよう……。


  ※


 結局、その後も数学の教師は、終始アンナにべったりで。

 他の女子生徒でさえ、放置。

 完全にえこひいきした状態で、授業は終わってしまった。


 アンナ自身は、答えを教えてくれたことに感謝していたが。

 俺は今からでもあのゲス野郎を、窓から突き落としてやりたかった。



 それから午前中の授業を、色々と受けたが。

 やはり、アンナだけ異常に優しく。特別な待遇を受けていた。

 特に男性の教師からは……。


 ミハイルが女装しただけなのに、こんなにも態度が変わるもんかね?

 なんか、とても複雑な気分だった……。

 

 俺のカノジョ役が可愛いのは知っているし、たくさんの生徒や教師から、優しくされるのも嫌ではない。

 でも……それだけの人たちから、視線を集めるということは。常に俺が気を張っていないとダメだ。

 男のミハイルだったら、こんなことはなかったのに。

 

 そうか。アイツなら、俺だけを見ていてくれて。

 他の人間が、寄ってくることもなかったのか……。



 昼休みに入り、アンナへ「お昼を一緒に食べないか?」と誘ったが。


「ちょ、ちょっと……お手洗いに」


 と3階へ行ってしまった。

 

 そうか。宗像先生がアンナ用に、3階の職員用トイレを貸してくれたんだ。

 なるほどね。というか、女装している時は、個室なのだろうか?

 座ってするのかな……。

 いかん、想像したら興奮してきた。


  ※


 20分経っても、教室に戻ってこない。

 これはさすがにおかしいだろうと、俺は心配になって、3階へと上がる。

 職員用トイレの前で、数人の男子生徒が誰かを囲んでいた。

 制服を着ているから全日制コース、三ツ橋高校の生徒だろう。


「ねぇ~ いいじゃ~ん。L●NEぐらい教えてよ~」

「そんなフリフリの服って、どこで売ってんの?」

「ハァハァ……きみさ。モデルのMALIAに似てない? だとしとら、許せないんだぶ~! よくも男とラブホテルへ行ったな! 貢いだ金を返せだぶ~!」


 最後の奴、色んな意味でヤバいよ。

 しかもマリアに貢いだって……レディースファッションを購入したのか?


「イヤッ!? 離して! アンナはタッくんとしか、L●NEしないの!」


 よく見れば、捕まっているのは伝説のヤンキーこと、金色のミハイルじゃないか。

 本当に女装したら、みんなから女の子として見られるんだね……。


 設定が悪いんだよな……。

 俺のために、非力な女子を演じているため、自慢の馬鹿力で対応できない。


 体重が激減した俺ひとりで、あの3人相手に勝てるかな……。

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