第446話 折れた剣


 ここあに言われて、ツボッターのアカウントをその場で作成。

 アイコンやヘッダーは、トマトさんが描いてくれたアンナのイラストにしておいた。

 まあモデルが目の前にいるギャルのここあだから、巨乳のハーフギャルになっているが……。

 小説の宣伝も兼ねているので、仕方あるまい。


 初めての投稿は、俺とここあのツーショット写真。

 だが何を書いて良いか、分からない。


「なあ、写真はともかく、何を書けばいいんだ?」

「ん? 別になんでもよくね? 呟くところじゃん」

「ま、まあ……そうだが……」


 とりあえず『期末試験、2回目に来た』とだけ呟いておく。

 今のところ、反応はなし。


「でもさ~ ツボッターだけじゃ、楽しさが少なくない?」

「え?」

「インスタもやろうよ♪ 今日スクリーングだから、色んな生徒に声をかけて、写真を撮りまくるっしょ♪」

「……」


 本当に効果があるのだろうか?

 今、投稿した写真も、ここあはいい顔をしているが、俺は青白くて、やつれている。

 楽しそうというより不幸な写真……。


  ※


 チャイムが鳴ったので、一旦3階の教室から出て、2階へ降りる。

 ホームルームを受けた後、すぐに尿意を感じた。

 きっとコーヒーばかり、飲んでいるからだろう。

 教室を出て、廊下を歩いていると。


 全日制コースである、三ツ橋高校の制服を着た女子高生たちと、すれ違う。

 一人は、ボーイッシュなショートカット。

 もう一人は、ピンク色の髪でお団子頭。


「あ、新宮センパイ!」


 声を掛けられなかったら、気がつかなかっただろう。

 まともな食事を取っていないので、意識がもうろうとしている。


「え?」

「私ですよ! ひなたです!」

「ああ……」


 彼女の名前を聞いて、なぜか落ちこんでしまう。

 ミハイルじゃないのか……って。


「なんですか!? その反応! まさかアンナちゃんが良かったんですか!?」

「い、いや……そのひなた。悪いけど、あまり大きな声で話すのはやめてくれ。頭に響く」

 頭を抱え、廊下の壁にもたれかかる。

 これにはひなたも、驚きを隠せない。

「大丈夫ですか!? センパイ!」

「ああ……空腹によるものだから、心配するな……」

「空腹って、一体どうしたんですか?」


 俺はひなたに、この二週間食事を食べられないことを説明した。

 食べても味がしない。何を口に入れても、不味く感じる。

 一体、なぜこんなことが起きているのか……自分にも分からない。

 それを聞いたひなたが、プッと吹き出す。


「何が可笑しい?」

「新宮センパイ。それって、恋わずらいじゃないですか?」

「は? ウソだろ?」

 相手は男だ。

「あるあるじゃないですか~♪ 相手のことを思うだけで、胸がドキドキ。食事も喉を通らない。一睡も眠れない日々が続く。めっちゃピュアですね♪」


 なんだかバカにされた気がして、イラってしてしまう。


「あ? そんなわけないだろ。だって、俺の場合は相手が……」

「相手がなんですか? もしかして、私ですか?」

 グイッと顔を寄せるひなた。

 ここで否定すると、怒られそうだから、曖昧に答えよう。

「俺の場合、恋愛じゃない。ただのケンカ。ダチとのな」

 言いながら、頬が熱くなるのを感じた。

 それを見逃さないひなた。

「あ~! 顔が赤くなってるぅ~! やっぱり恋わずらいだぁ~!」

「ち、違うと言っている!」

 クソがっ。


  ※


 とりあえず、俺に今起きている症状は置いといて。

 ひなたに協力を仰いでみる。

 級友のミハイルが休学しているため、SNSを使って呼び戻したいと頼んでみた。


「ふ~ん。あのミハイルくんが退学を考えるなんて、よっぽど酷いことをされたんですかね?」

「うっ……」

 傷口に塩をぬられている気分だ。

「まあ、いいですよ。私なんかで良かったら、写真ぐらい。全然です♪ むしろアカウントを共有しましょう♪」

「そうか、悪いな」

「いえいえ。そうだ、ついでだから、ピーチちゃんに撮影してもらいましょうよ!」


 ひなたと会話に夢中になっていたから、忘れていた。

 隣りのピンク頭を。

 俺の専属絵師、トマトさんの妹でもあり。コミカライズを担当している小ギャルのピーチだ。

 背が低いせいもあってか、影が薄い。


「ちょりっす、スケベ先生」

 胸元で小さくピースする。

「おお……ちょりっす……」

「マジで瘦せたっすね。あれっすか? ダイエットすか?」

「いや、ちょっと病気だ」

「それは大変っすね。病院で治してもらわないと、執筆活動に差し障りますよ」

「うん……」


 ピーチに指摘するまで、忘れていた。

 俺のもう一つの職業。

 小説家。


 アンナや他のヒロインたちのおかげで、“気にヤン”は人気だ。かなり売れている。

 今月に入り、マリアが主役として活躍する4巻も発売した。

 発売してまだ2週間ぐらいだが、売り切れが続出しているそうだ。


 編集部の白金から、早く次の原稿を書いて欲しいと頼まれている際中だ。

 だが、俺は小説を書くことができなくなっている。

 一行も埋めることができない。

 理由は分からないけど、ミハイルに振られてから、おかしくなった。

 

 この症状も早く治さないと、原稿の締め切りがあるからな。


 

「じゃあ、撮るっす。ひなたちゃん。スケベ先生ともっとくっついて下さいっす」

「うん♪ 可愛く撮ってね、ピーチちゃん!」

 俺が元気ないことを良いことに、勝手に話を進める二人。

 まあ正直、立っているのもやっとだから、ひなたに腕を組まれることは、楽ではある。


「ちょりーっす!」


 数枚撮ったあと、ひなたがスマホを確認し、SNSにあげる写真を選ぶ。

 俺のスマホなのに……勝手にいじりまわす。

 気がつくと、ツボッターのアプリを開いて、写真を投稿していた。


「じゃあ、送信っと♪ タグもつけておきましたよ。インスタも上げよっと♪」

「お、おい……」

 

 力が入らないので、ひなたの暴走を止められない。


「心配しなくても大丈夫ですよ。どっちのタグも、“恋人”とか”彼氏彼女”ぐらいしか、つけてませんから♪」

「なっ!?」


 もはや、楽しいところを見せるのではなく、完全に煽っているじゃないか!?


「あ、早速リプが届きましたよ♪ ……って、なんなのコイツ!?」

 

 顔を真っ赤にして、興奮するひなたを無視し、スマホを確認してみる。


『この人、知ってます。梶木かじき浜でパパ活しているJKです』

『動物をたくさん飼って、虐待する悪女です』

『ていうか、男みたいな顔で草』


 投稿主の名前は、”ネッキーのピアス大事”。


「クソリプってレベルじゃないですよ! ストーカーじゃないですか!? なんで私の個人情報をここまで……」


 宗像先生の時とは違うアカウントだが、どうも言っていることが似ているような。

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