第436話 未経験なのに、テクニックがすごい!


 ラブホテルまで、俺を連れ込んだマリアだったが……。

 肝心のドキドキさせる映像は、見せられずにいた。


 むしろ、ピュアで奥手な女の子と感じる。

 まあ俺的には、好感を持てるタイプだけど。


 マリア自身は己の不甲斐なさに、憤りを感じているようだ。

 肩を小刻みに震わせて、碧い瞳に涙を浮かべている。


「……ぐすん。せっかくタクトと二人きりなのに、何も出来ていないわ。記憶の改ざんが……」


 まだこだわっているのか?

 確かに、アンナのコスプレパーティーを越える記憶は、作れていないが。

 童貞の俺が、ラブホテルへ3回も来ている時点で、充分レアな思い出だと思うけど?


 ベッドの上で、バスローブを纏ったマリアが座っている。

 かなり落ち込んでいるようだ。

 俺は少し距離を取り、近くの冷蔵庫からブラックコーヒーを取り出して、喉を潤わせる。


 何とも気まずい空間だ。

 これが、あと半日以上あると思うと、苦でしかない。

 別に俺が、マリアを無理やり襲ったわけでもないのに……なぜか罪悪感が残る。


  ※


 コーヒーを飲み終え、ゴミ箱へ空き缶を持って行こうとしたら、急にマリアが顔を上げる。

 

「そうだ! タクト、あれならできるわよ!」

 と自身の胸を叩くマリア。

「アレ? なんのことだ?」

「ふふん。きっとこのテクニックは、ブリブリアンナじゃ出来ないわよ」

 妙に自信があるな。

 まあ、元気が出たことは良い事か。

「なにをするんだ?」

「それはね……抜くのよ! タクトの太いのを、思い切り!」

 俺は、マリアがラブホテルへ来て、頭がおかしくなったのかと思った。


「抜くって……お前。まさか……」

「そのまさかよ! 私の指ってすごいんだから! 必ずタクトを抜きまくって、気持ち良くさせてあげるわ!」

「ウソ……」

 急に下ネタ全開になったマリアを見て、言葉を失ってしまう。

 俺とは対照的に、彼女は興奮気味に語り始める。


「タクトって最近、抜いてないでしょ?」

「あ、いや……人並みには……」

「ウソよ♪ 顔を見たら分かるわ。そういうことは、女の子に任せるものよ♪」


 初めて聞いたんですけど。

 自家発電は、己が手でするから、って意味だと思うんだけど。

 女の子がしてくれるものなの?


「そ、それはダメだ……俺たち、まだそういう関係じゃ……」

 優しく断ろうとしたが、マリアは首を横に振る。

「いいえ! 絶対に抜かせて。大丈夫、痛くしないわ! 私、こう見えてたくさんの人を、抜きまくっているのよ」

 まさかのビッチ発言である。

「なんで……?」

「パパがよく言うのよ。『マリア。そろそろ抜いてくれ』って。だから、私が毎晩抜いてあげているの♪」

「……」


 俺以上に、ヤバい家庭がいた!?


 ~20分後~


「どう? タクト。気持ち良いでしょ?」

「あ、ああ……」

 確かにマリアのテクニックは、最高だった。

 ベッドの上で、膝枕をしてくれる神対応。

 そして、銀色の道具を手に持ち、俺の額に触れる。


 ブツン……と何かが引きちぎれる、音がした。


 最初は痛かったけど、しばらくすると、気持ち良く感じられるようになった。

 なんだか、眠たくなってくる。

 確かに、これは昇天すると言っても、過言ではない。


「もう~ タクトったら、相当溜めてたわねぇ? 抜きがいがあるってもんだわ♪」

 そう言って、ピンセットで俺の眉毛を抜く。


 彼女が表現する「抜く」とは、毛を抜くことだ。

 俺が想像していたような、卑猥な行為はなにもない。

 マリアのパパさんが、夜な夜な抜いてほしいと、リクエストするのも分からんでもない。

 だって、気持ちが良いもの。


「ねぇ、タクトって眉毛を抜くの、初めてでしょ~」

「ああ……こんなに気持ちが良いなんて……うっ!」


 最初こそ、チクッと痛みが走るけど。

 その後の快感ったら、やめられない。


「ほぉら、見てごらんなさい。こんなに溜めていたのよ♪」

 そう言って、手の甲を見せてくれる。

 彼女の白い手に、たくさん並ぶ眉毛たち。

 黒い毛虫みたいで、気持ちが悪い。

「うわっ……」

「男の人って、眉毛あまりいじらないものね。今度から定期的に、私がメンテしてあげるわ♪」

「ああ……」


 この時、俺は半分以上、意識がなかった。

 眠たくて仕方がなかった。瞼が重たい。

 気がつけば、夢の中へと入っていた。



『あはは☆ タクト~ こっちだって~☆』


 お花畑の前をミハイルが走っている。

 デニムのショートパンツを履いていた。今日もその小尻がたまらない。

 俺は一生懸命、彼の元へ追いつこうと必死だ。


『ま、待てよ。ミハイル!』

『嫌だよー! だって、タクトが悪いことしてるもん!』

『悪いことってなんだよ?』

 

 急に立ち止まるミハイル。

 俺はやっとのことで、彼の元へたどり着く。

 そして、ミハイルの肩を掴んだ瞬間。

 彼の姿が、一瞬にして変わってしまう。


『タッくん……なんでラブホテルへ、マリアちゃんと行ったの?』

 女装したアンナに変身していた。

 顔色が悪く、自慢のエメラルドグリーンは輝きを失せている。


『そ、それは……』

『なんで、アンナとミーシャちゃんを裏切ったの?』

『違うんだ……聞いてくれ!』

 必死に弁解しようとするが、アンナは静かに首を横に振る。

 そして、幽霊のように、ゆっくりとその姿が透明になり、消えて行く。

『待ってくれ! アンナ!』

 俺が止めても、彼女は黙って背中を見せる。


 最後に一言だけ、アンナはこう呟いた。


『ごめん。もう無理かも……』



「待てっ! アンナ!」


 宙に手の平を伸ばし、彼女を引き留めようとした。

 しかし、目の前にあるのは、見慣れない天井。

 そうだ……今は、マリアとラブホテルへ来ていたんだ。

 眠っていたのか?


 とりあえず、身体を起こそうとしたその時。違和感を感じる。

 両腕がベッドの柵に、縛られていたからだ。

 それもドラマで見るような、銀色の手錠。


「誰がアンナですって?」

 声の方向に視線を合わせると、鬼の形相でこちらを睨んでいるマリアがいた。

 しかも、俺の股間の上にまたがっている。

 完全にマウントを取られていた。


「えっと……これは、なんのプレイ?」


 一体、このあと。俺はどうなるんだ。

 処女の次は、童貞を奪われるのか……。

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