第435話 そんなに見ちゃ、イヤッ!(♂)


「……」


 無言でその場に立ち尽くすメイドさん。

 やはり、プライドの高いマリアでは、コスプレパーティーは無理だったようだ。

 アンナを越える記憶はきっと、作れないだろう……。


 黙り込む彼女を見て、そう考えていると。

 どうやら、俺の視線に気がついたようで、眉間にしわを寄せる。

 こちらをギロっと睨み、叫ぶ。


「つ、次よ! 確か小説では、お風呂に入っていたわよね!?」

「ああ……アンナの時は、あそこのジャグジーへ一緒に入ったな」

 俺がそう言うと、マリアの整った顔がグシャっと歪む。

「アンナの時は……ですって!? まるで、あの女が上みたいな言い方ね!」

 まずい。墓穴を掘ってしまった。

「いや、そういう訳じゃなくて……」

「フンッ! 私だってタクトを興奮させられるわ! 見てなさい!」


 なんで、俺が年がら年中、発情期の動物みたいな扱いになってんの……。


  ※


 小説というか……実際に昨年、起きた出来事を忠実に再現するため。

 マリアは、奥にある更衣室へと向い、メイド服を脱ぐことに。

 中に着ている、スクール水着になるようだ。


 俺はと言えば、部屋の中央に向かって、ジャグジーの前へ立ち。

 全ての服を脱ぐ。

 生まれたばかりの姿ってやつだ。


 これは、あの時。アンナがお風呂に入ろうと誘ってくれて。

 俺が水着を持ってないから「バスタオルで腰を隠したら?」と言われたからだ。

 当時のように、近くにあったタオルを手に取り、腰に巻いてみる。

 良い感じで、股間を隠せたと思い。


 可愛らしいハート型のジャグジーへと、お先に浸かってみる。

 ジャグジーの裏には、ガラス越しに中庭が見える。

 緑と花々が堪能でき、この中に入ったカップルは、そのまま……。


 といきたいところだが、今回は無理だ。

 相手は男……はっ!? 違う。アンナにそっくりだから、勘違いしていた。

 マリアは正真正銘の女子だ。


 そう思うと、なんだか緊張してきた。


 ~10分後~


「お、お待たせ……」

 頬を赤くした金髪の美少女が、目の前に立っている。

 今は、廃止されたスクール水着。1990年代初期のタイプ。

「ああ……」


 その姿に、俺は言葉を失っていた。

 透き通るような白い肌。細くて長い脚。

 金色の長い髪は、お湯に浸からないよう、頭の上で一つに纏めている。


「私も入っていい?」

「もちろんだ」

 

 少し身体をずらし、マリアが入りやすいように、余裕をあける。

 すると、彼女の太ももが目の前を通り過ぎていく。

 横から見ただけだが……。生まれて初めて、女の子の股間を直視したような気がする。

 意外と、ふっくらしているんだな。

 

 ちょっと待てよ!?

 アンナがスク水を着た時は、かなりお股に食い込んでいたのに、ツルペタだったぞ!

 男なのに……。


 だが、女のマリアがふっくらしているだと。

 何故だ……取材だからと、ヌードになってもらい、確認するのは、無理だ。


「う~む」


 ひとり、唸りながら、考え込んでいると。

 お湯に浸かったマリアが、自身の胸を手で隠していた。

 そして、眉間にしわを寄せる。


「ねぇ、さっきからずっと、視線が怖いのだけど? 私の大事なところばかり見てない?」

「あ、いや……そのキレイな肌だなと思って」

 笑ってごまかそうとしたが、鋭いマリアには感づかれてしまう。

「タクト。ひょっとして……アンナと比較してるの?」

「そ、それは……」

 ここで嘘をつけば、絶対あとでブーメランが返ってくる。

 本当に思ったことだけを、言葉にしよう。


 俺は人差し指を立てて、豪快に叫んだ。

「マリアのお股って……けっこう膨らんでいるんだな!」

 これなら、褒めていることになるだろう。


「……タクト。極めて、不快なのだけど。じゃあ、なに。私がデリケートゾーンに、気を使っていない女子だと言いたいの?」

 怒らせてしまった。

「す、すまん」

「フンッ!」


 どれが、正解だったんだろう。

 にしても、なぜアンナのお股は、ツルペタだったんだ?

 わからん……まさか、マリアの方が男なのかな。


  ※


 最初こそ、会話というか。口ゲンカをしていたが。

 しばらくすると、マリアは黙り込み、視線を合わせてくれなくなった。

 俺は怒っているからだと、思っていたが。


 全然、目を合わせてくれない彼女に、もう一度謝罪を試みる。


「なあ。マリア悪かったよ……そろそろ仲直りしてくれないか?」

「……」

 視線は、ずっと湯船の中。

 顔を赤くして、返事もない。

「おい、どうしたんだ? 風呂の湯加減が悪いのか?」

「……」

 全然話してくれないので、俺は敢えて彼女に身を寄せ、顔を覗き込む。

 すると、マリアは何を思ったのか、自身の顔を両手で隠してしまった。


「こ、こっちへ来ないで!」

 強気な彼女にしては、随分と弱々しい声だった。

「へ?」

「わ、悪気はないのよ……でも、どうしても無理なの!」

「なにがだ?」

「タクトのお股!」

「え……」


 彼女に言われて、自分の股間を確認したが。

 タオルはちゃんと腰に巻かれている。

 はみ出ていない。


 なのに、マリアはこれに拒絶反応を起こしている。


「マリア。どういうことだ?」

「わ、私……パパの股間すら、あまり見たことがないの! だから、いくらタオル越しとはいえ。タクトのお股があると思うと……恥ずかしくて、直視できないわ!」

「そうなんだ……」


 普段から積極的な彼女だから、もっとグイグイ来るのかと思ったが。

 中身はめっちゃピュアな女子だった。

 

 この反応が普通なんだろうな。

 アンナは、あくまでも女装男子だから……。

 去年、一緒にアイツと仲良くお風呂へ入ったけど。

 あの時はめっちゃ楽しくて、興奮できたな。

 

 俺がバグっているのかな……。

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