第418話 暑いとロンスカで、寒いとミニスカで……(困惑)


 夕方と言っても、ちゃんと時刻は指定されていなかった。

 しかし、少なくとも16時ごろには、博多駅でデートをするんだろう……。

 と思った俺は、昼食を取った後、早めに電車へ乗って、博多に向かった。


 博多口を出た瞬間から、人でごった返していた。

 こんなにもイブの博多駅は、大勢の人で賑わっているとは……。

 万年童貞だった俺には、見たことのない光景だ。


 やはり若者が多く感じる。

 特にカップル。ていうか、カップルしかいねーじゃん!

 クソがっ! イチャイチャしやがって。

 こいつら、あれじゃないか?

 もう事後なんじゃないの……。

 だって、こんな寒い日だってのに、彼女たちはみんなマイクロミニのスカートだぜ。


 意味がわからん。

 お腹はちゃんと、暖めておけよ。


 クリスマス会場でもある駅前広場は、いつもと違い、そこだけ幻想的な空間と化していた。

 右手には、たくさんのイルミネーションがキラキラと輝いている。

 家族連れやカップルで賑わっており、早くも写真撮影で盛り上がっていた。

 

 反対側の左手に、巨大なツリーが飾られており。

 そこを中心にクリスマス会場が、設けられている。


 様々な屋台が並んでおり、主に海外の伝統工芸品を販売している。

 クリスマスにまつわる物。キャンドルやアートグラス。アクセサリーに、鹿の角まで……。


 本当ならすぐに、いつもの待ち合わせ場所である、黒田節の像へ向かいたいところだが。

 特設のフードコートで、像が封鎖されていた。


 参ったな……と思い、とりあえず、人ごみを搔き分けて、像の近くまで辿りついた。

 近づけないから、仕方ないと思い。マリアがここに来るのを待つ。


 しかし、こんなに人が多いのに、像の前で待ち合わせなんて……できるのか?

 俺たちがやっていることって、昭和なんじゃないの。


 ~30分後~


 目の前で美味そうに、チキンを頬張るカップルを見て、苛立ちを隠せずにいた。


「クソ。あ~、寒いし腹減ったなぁ……」


 それにしても、マリアのやつ。

 遅いな……ちょっと連絡してみるか。


 ダッフルコートのポケットから、スマホを取り出した瞬間、着信音が流れ出す。

 相手は、マリア。


「もしもし?」

『タクト。ごめんなさい。もう博多駅にいるのよね?』

「ああ、マリア。お前、今どこにいるんだ?」

『私も博多にいるのよ……でも、ちょっとトラブルがあってね』

「ん?」


 マリアも博多にいるのに、駅にいないだと?

 意味が分からん。

 渋滞とかかな?


『前に言ったと思うけど、私ってアメリカで、ファッションブランドを立ち上げたじゃない?』

「ああ……そう言えば、そんなこと言ってたな」

『それで日本にも支店ていうか、オンラインストアをオープンしたり、色々と事業を拡大しようと思ってね。とりあえず福岡に事務所を借りたのよ』

「ほう」

『博多って何かと便利だから、小さなビルの一室を借りたのだけど。最近、嫌がらせが多くてね』

「嫌がらせ? どんなことだ?」

『かなり悪質ね。頼んでもないピザを30人分、頼まれたり。高級寿司を数十万円も持って来られたり……たまに、火事の誤報で消防車や救急車まで』

 ストーカーってレベルじゃない……犯罪じゃん。

 しかし、この犯行。誰かに似ているような。

 

「マリア。お前、その事務所ってホームページとかに、住所を記載しているか?」

『もちろんよ。会社だもの』

「……」


 なんかすごく嫌な予感がしてきた。


「それで、マリア。なぜ博多駅に、まだ来られないんだ?」

『本当にごめんなさい、タクト。私と初めてのイブなのに……』

「え?」

『両親とまだホテル暮らしなんだけど。私だけ事務所で缶詰したりするのよ。それで昨日から徹夜して、寝落ちしたら……事務所のドアが、強力な接着剤でガチガチに固められて、開けられないの』

「あ……」

 そんな悪質なストーカーは、1人しか思い浮かばない。


『今、業者さんに開けられるように、頼んでいるんだけど。6時間以上はかかるそうよ。ドアの鍵穴は接着剤で埋められたし、ドアの隙間も全て埋められて、ビクともしないんだって』

「そ、そうなんだ……」

『おまけにね、ビルの廊下に段ボールを山のように、置き配されてね。業者さんも通りづらいの、もう嫌になっちゃうわ!』

「こ、怖いな……」

 そこまでやるとはね。

 

『はぁ……タクトとの、イブデートが楽しみだったのに。ごめんなさいね、悪いけど今日は帰ってくれるかしら? 埋め合わせは必ずするから、ね?』

「ああ。マリア、あんまり気を落とさないでくれ……またいつか取材しよう」

『ありがと、優しいのね。タクトって。好きよ、チュ♪』

「……」


 いや、マリアが寛大すぎるんだよ。

 普通に通報レベルなのに……。

 しかし、彼女を八方塞がりにしたということは。

 犯人は恐らく、この近くにいるんじゃないか?


 恐怖からスマホを持つ手が、ガタガタ震え始める。


「まさか、アン……」


 そう言いかけた瞬間、視界が一気にブラックアウトする。

 冷たいが柔らかい。

 この感触、なんか覚えがあるんだけど。


「だーれだ?」


 この甲高い声の持ち主は……。


「あの、もしかして……アンナさんですか?」

「ブブーっ! でも、おしいかな☆」


 そう言うとようやく顔から、手を離してくれた。

 振り返れば、サンタさんの仮面を被った女の子が1人、立っている。


「正解は、サンタアンナでしたぁ~☆」

「……」


 ぎゃあああ!

 やっぱり、いたぁ~!

 昨日の余裕ぷりは、これだったのか!?

 最初から、マリアとのデートを潰すつもりでいたんだ。


 仮面を外すと、特に悪びれることもなく、ニコニコ微笑むアンナの姿が見えた。


「タッくん☆ こんなところで、何しているの?」

 あんたこそ、なにしているんだよ!

「いや……マリアと取材だったんだけどさ。ダメになって」

「そうなんだぁ~ きっとマリアちゃんは悪い子さんだから、サンタさんから、天罰を食らったんだよ☆」

「サンタさんが……?」


 あなたがしたんでしょ。全部……。

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