第419話 あの子は今……。


「タッくん☆ 改めて、メリークリスマス!」

「め、メリークリスマス……」

 

 今日のアンナ。

 いつもとは、全然違うファッションだ。


 普段と色合いが異なる。

 全身、赤と白でコーディネート。

 というか、コスプレだ。


 女性向けのサンタコス。

 ミニのワンピースで、肩にケープを羽織っているが、肘から先は素肌なので、すごく寒そう。

 頭には小さなサンタハット。足もとは、厚底の赤いショートブーツ。


 完全なパーティー仕様。

 めっちゃ気合が入っているというのが、ビシビシと伝わってくる。


 しかしだ……。偶然を装うには、無理があるってもんだ。

 昨日からいや、もっと前から……今日のために入念な計画を練っていたに違いない。



「アンナ……その、お前こそ、なんで博多にいるんだ?」

「え? イルミネーションを見ようと思って、博多に来たんだよ☆ そしたら、たまたまタッくんを見かけて、1人だから声をかけてみたの☆」

 絶対にウソだ。

「そ、そうなのか。じゃあ俺は、今からどうしたらいいんだ?」

「もちろん、2人で仲良くイブを取材しようよ☆ タッくん、クリスマス・イブを女の子と過ごすの、初めてでしょ?」

 脅しにしか聞こえん。

 マリアには悪いが、あんな犯罪まがいの工作まで行ったアンナを、敵に回したくない。

 ここは、彼女の言うことに従おう。


「了解した。じゃあ、今からクリスマス・イブを取材しよう」

「やったぁ~☆ 博多に来て良かったぁ~☆ 偶然、タッくんに会えるんだもん! サンタさんって、やっぱりいるんだねぇ」

 そう言って、俺の顔を嬉しそうに見つめる。

 エメラルドグリーンの瞳を輝かせて。

 

 今日はその美しい輝きが、一段と怖く感じる……。


  ※


 とりあえず、博多駅をウロウロしてみることに。

 色んな屋台も気になるが、やはり最初に目が行くのは、イルミネーションだろう。

 アンナが「まずはツリーを見たい」と言うので、手を繋いでゆっくりと歩き出す……が、人が多過ぎて、なかなか前へと進めない。


 それもあって、お互いがはぐれないように、と手を繋ぐことにした。


「人多いね、タッくん」

「ああ……俺もイブを博多で過ごすなんて、初めてだからな。こんなに人が多いとは思わなかったよ」


 ちょこちょこ歩いてはいるが、所々で立ち止まっては、撮影を繰り返すカップルや家族連れ。

 そんなんだから、俺たちまで立ち止まり、相手の撮影を待ってあげる。


 やっとのことで、ツリーの前に着いても、これまた撮影する奴らばかりだ。

 順番でカメラを構えているとはいえ、待機時間が長すぎる。


「アンナもタッくんと一緒に写真を撮りたいな……」

 そう彼女がぼやくので、俺は1つ提案してみた。

「なら、俺がスマホを持つから、それでツーショットを撮らないか?」

 だがアンナは、その提案に不満気だ。

「ダメだよ! それじゃ、ツリーと一緒にタッくんもしっかり撮れないじゃん……」

「別に、撮れるなら良くないか? フレームから少しはみ出るぐらい」

「イヤっ!」

「……」


 わがままっ子だな。

 確かにこんな時のため、自撮り棒を持って来たら良かったな。

 辺りを見れば、大半の観光客が自撮り棒で、撮影している。


 参ったなと、頭を搔いていたら……誰かが後ろから声をかけてきた。


「あの……良かったら、私が撮影しましょうか?」

「へ?」


 振り返ってみると、俺の背後に巨人が立っていた。


「うあああ……」


 俺の身長は、170センチほどだ。

 首を真っすぐ上に向けないと、相手の顔が見えない。

 多分、190センチ以上はある。


「こんばんは♪ 素敵な聖夜ですね。今日は中学校のみんなと、募金活動をしていたんですけど……迷子になっちゃって」

「え? 募金?」


 よく見れば、胸元にはセーラー服のリボンが。

 このなりで中学生だと?


 確かに顔は幼いが、身体の発育が良すぎる!

 ていうか、デカすぎ!


 女子プロレスラー顔負けのたくましい筋肉を、全身に纏っており。

 今にもピチピチになったセーラー服が、破れそう。

 そして女性のシンボルとも言える、バストやヒップも、アホみたいにデカい。


 決してセクシーな体型とかではなく、全てがデカすぎるJCだ。


 謎の女子中学生の登場に、動揺していると。

 上から俺の顔を、まじまじと眺めて、何かを指差す。


「あれ、そのリュックサックに、つけているキーホルダーって……」

「これは……1年前に天神で募金して、学生にもらったものだが」

「やっぱりだ~! じゃあ、あの時の“ドスケベ先生”ですよね!?」

「は?」

「覚えていませんか? 1年前に、私がそのキーホルダーを渡したこと」

「えぇ……」

 

 ウソだぁああ!

 あの純朴な少女が、こんなにもデカく育ったというのか?

 俺が一番嫌いな巨乳だし、ていうか巨体すぎる!

 たった1年で、人はこんなにも変わるのか……。


 良かった。あの時に、口説かなくて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る