第403話 創作において「キモイ」「ヤバイ」「ヘンタイ」は誉め言葉です。


 反対側に曲がってしまった俺の右腕だが……。

 宗像先生が強引に元の形に戻してくれた。

 やっと腕に力が入るようになったのだが、肌の色が真っ青なんだよね。

 しかも、妙に冷たい……壊死じゃないよね?



 男子の決勝戦は、リキと一。

 お互い、テーブルに肘をつけると、相手の手をがっしり握る。


 最初に口を開いたのは、リキの方だ。

「なぁ、一。悪いけど、俺は本気なんだ。負けても泣かないでくれよ」

「え、えぇ……僕なんかじゃ、リキ様の相手になりませんよ……」

 そう言いながら、頬を赤くする。

「なら全力で行くぜ?」

「は、はい!」


 そこへ宗像先生が現れて、2人の拳に手をのせる。


「よぉし! これが男子の最終決戦だ! 勝った奴がイブを過ごす相手を選べるからな。出し惜しみするなよ!」


 まだ言っているのか。そんな権限ないくせに。


「始めぃ!」


 ~10分後~


「くぅぅ……」

「……」


 苦悶の表情をするのは……一ではなく、リキの方だ。

 スキンヘッドは、汗でびしょ濡れ。

 顔を真っ赤にして、一の腕を倒そうと必死だ。

 しかし、彼の華奢な細い腕は、ビクともしない。


 むしろ余裕すら、感じる。

 その証拠に、もう片方の腕で頬杖をついている。

 頬を赤くして、潤んだ瞳でリキを見つめる。


「はぁ……」


 とため息をつく。

 だが、試合に疲れているからではないようだ。

 多分……愛しのリキ様に見惚れているから。


 リキはそんなことも知らず……というより、相手の顔を見る余裕がない。

 瞼をぎゅっと閉じて、一を倒すことで精一杯のようだ。

 

「くっ、強えぇな……一」

「……」


 うっとりとした目でリキを見つめる一。

 左の小指を噛みながら、呟く。

「はぁ……このたくましい手で、僕は……」

 先ほどの“情事”を思い出しているのだろうか。

 なんだかこの2人の周りだけ、ピンク色に見えてきたよ。


 ~更に10分後~


「ぐあああ!」

「……」


 アームレスリングの試合を良いことに、愛しのリキをたっぷり堪能する一。

 しかし、このままでは、あまりにもリキが可哀そうだ。

 遊ばれているだけだからな。


 試合中だが、俺は一の方へ静かに近寄る。

 そして、彼に小さな声で耳打ちを始めた。


「おい、一。そろそろ、決めてやれよ。勝つのか、負けるか……」

 俺がそう言うと、ようやく我に返ったようで、いつもの彼に戻る。

 ビクッと震えて慌て出す。

「ひぃっ! し、新宮さん!? どうして、隣りに?」

「お前がさっさと試合を決めないからだろ……もう30分近くも戦っているぞ? リキを想うなら、真面目に戦ってやれ」

「あ……ごめんなさい」


 正気に戻ったことを確認した俺は、自分の席に戻ろうと、彼に背中を向ける。

 次の瞬間だった。


「勝者! 千鳥 力! 優勝は、千鳥だっ!」


 振り返ると、汗だくになったリキが、自身の拳を高々と天井に突き上げていた。

 一はと言えば、わざとらしく自身の腕を痛そうにさすっている。


 なんだっんだ、この茶番は?


  ※


 男子部門が終わったところで、次は女子だ。


 女子の第1回戦は、マリア対ほのか。


 どう考えても、マリアに武があるのだが……。

 ハイスペックな彼女でも、苦手なものはあるようで。

 怪しく眼鏡を光らせた腐女子のほのかを見て、顔を引きつらせていた。


「よ、よろしく。私はマリアよ……」

 そう言って、対戦相手に手を差し出す。

「うひょおー! 本物の金髪美少女やん! めっちゃ可愛い! ペロペロしたくなるわ!」

 机に大量の鼻血を垂らす変態。

 よっぽど、マリアのルックスが気に入ったようだ。

「あ、あなた。大丈夫なの? 鼻から血が出ているわよ?」

「気にしないでぇ! これは癖みたいなものだから……それより、ミハイルくんにそっくりだね。もしかして、双子とか?」

 鼻息を荒くして、身を乗り出すほのか。

 これには、さすがのマリアもドン引きだ。

「い、いえ。彼とは……他人よ?」

「ハァハァ……今日は大量の素材を手に入れたわ。一くんはBLに使えそうだけど、あなたは完璧に百合ね!」


 真面目な帰国子女には、理解できない世界のようだ。

 困惑した様子で、ほのかを見つめている。


「ゆ、ゆり? なんのこと? あなたはお花が好きなの?」

「ええ! もちろんよ! マリアちゃんみたいなお華を、びしょ濡れにさせて、咲かせまくるのが大好きなの!」

「え……もしかして、あなたレズビアン?」

 

 とこちらに視線を向けてきたから、俺はそっぽを向いた。

 あんまり関わりたくないから……。

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