第404話 学校のトイレだからって我慢しちゃダメですよ。


「ハァハァ……マリアたん。早く絡めたいわ……」

 鼻息を荒くして、自前の制服。白いブラウスは、血で赤く染まる。

 ただし、ケガによるものではなく、彼女が興奮しているからだ。

 

 対戦相手のマリアは、試合が開始したにも関わらず、硬直していた。

 きっと、どう接していいか、分からないのだろう……キモすぎて。


「あ、あの……ほのかさんだったかしら? もう始めてもいいの?」

「もちろんよ! まずはそっくりなミハイルくんを女体化させて……それから、マリアちゃんとベッドインさせましょ!」

「え……?」


 ほのかの脳内は、既に自身の創作でいっぱいのようだ。

 アームレスリングなど、どうでも良いのだろう。

 目の前にいる金髪ハーフの美少女を、如何にして、作品で絡めるか……そればかり考えている。

 全く持って、迷惑な生き物だ。


 マリアは困惑した様子で、ずっとほのかを見つめている。


「私、海外にいたから、そういう恋愛感情とか差別する気はないのだけど……。でも試合だから、倒すわね?」

 なんか、幼児に話しかける保育士さんみたいだ。

「うひょお~ 女体化したミハイルくんをベッドに押し倒すですって!? マリアちゃんは、攻めだったのねぇ!」

 暴走するほのかを見て、悲鳴をあげるマリア。

「ひぃっ! ごめんなさい!」

 そう言うと瞼を閉じて、ほのかの腕を倒した。

 

 しかし、負けた彼女は嘆くことなどない。

 眼鏡を光らせて、怪しく微笑んでいる……むしろ嬉しそう。

「うへぇ~、そのブルーサファイア。キレイだわぁ。ペロペロしたい♪」

「あ、あの……試合は終わったのだけど?」

 ほのかは倒されても、マリアの手をずっと離さなかった。

 白く透明感のある美しい肌を、スリスリと撫で回す腐女子。

 確かに、無知なマリアじゃなくても、恐怖を覚える。

 

 そこへ、宗像先生が間に入ってきて、ほのかの手を引き離す。


「勝者! 冷泉 マリア!」


 宗像先生はマリアの腕を上げて、笑っていたが。

 肝心のマリアは、全然喜んでいない。

 真っ青な顔で俯いている。

 なにやら、一人でブツブツと呟く。


「試合は勝ったのに……なぜか、あの子に負けた気がするのだけど」


 そりゃ、あの変態女先生に勝てる人間なんていないだろ。

 創作においてだが……。

 いや違うな。正しくは人間を辞めているから。


  ※


 女子部門の2回戦は、宗像先生とミハイルだ。


 腐女子が多いとはいえ、みんな根はまじめ……というか、基本陰キャばかりだ。

 だから、こういう時。自ら挙手するような女の子は少ない。


 仕方なく、ミハイルの相手は、宗像先生がすることに。


 ミニスカのサンタコスをしていると言うのに、机に肘をつくとガニ股になる宗像先生。

 試合を観戦している俺からすると、紫のレースパンティが丸見えだ。

 汚いので、早く股を閉じて欲しいものだ。


「よいしょっと☆」


 その汚物を隠してくれたのは、俺の嫁……じゃなかったダチのミハイル。

 レザーのショートパンツが、イスの隙間からはみ出る。

 ぷにんとして、柔らかそうだ。

 何かまた怒りが込み上げてきた……“あれ”が触れなかったことを。


 宗像先生が自身の口から試合の始まりを告げる。


「いくぞ、古賀!」

「オレ、負けたくない! 絶対に!」


 ~10分後~


「クッソ~! 強いよぉ~ 宗像センセー!」

「あ、あああ」


 お互い、プロレスラー並みの馬鹿力を所持しているため、なかなか試合が決まらない。

 五分五分と言ったところか。

 だが、宗像先生の様子が少しおかしい。

 唇をかみしめて、何かを我慢しているように見える。


「あああ……ヤバいぃ! 漏れるぅ!」


 これには、周りにいた生徒たちみんな、一斉に声を揃えた。


「「「え!?」」」


「だはぁ! ハイボールを飲み過ぎたぁ! もうダメ! おしっこが漏れちゃうよぉ!」


 アラサー教師がお漏らし発言とか……、しんど。


 

 結局、宗像先生がトイレに行かないと、自習室の床がびしょ濡れになる恐れがあったので、ミハイルの勝利となった。


 自ずと女子部門の決勝戦は、マリア対ミハイルに。

 両者、向かい合うと、お互いを睨みつける。

 双子ってぐらいそっくりの2人だが、やはりこうして並んでみると、違和感を感じる。

 ファッションの好みに、違いもあるのだろうが……。


 一番はその美しい瞳だ。

 特にマリアのブルーサファイアからは、持ち前の性格が現れている。

 決して目つきが悪いとかではなく、瞳が大きいので、目力がある。

 それに「この勝負に勝ちたい」という気持ちが強いからだろう。


 机の上に肘を載せて、ミハイルを待つ。

「さぁ、早く始めましょう?」

 と怪しく微笑む。

 余裕すら感じるマリアに、ミハイルは動揺していた。

「わかってるよ! おまえなんか、すぐに倒しちゃうゾ!」

「フフフ……面白いわ。あなたを見ていると、あのブリブリ女を思い出すの。男の子なんだから、全力でいいわよね?」


 マリアのやつ。アンナのことで、ミハイルに八つ当たりしているな。

 ていうか、張本人だから別にいいか。


 ミハイルは顔を真っ赤にして、安い挑発にのってしまう。

「アンナのことをバカにするな! タクトの大事なカノジョ候補なんだ!」

「フン。あんな地雷系の痛い女が? 笑わせるわね……」


 腕相撲の前に、取っ組み合いの喧嘩が始まらないか、ヒヤヒヤしていたが。

 おしっこから戻ってきた……宗像先生が2人の元へ近寄り、試合開始を告げた。


「女子の決勝戦! 始めぃ!」


 自習室は独特の緊張感が漂っていた。

 みんな、2人のピリッとした空気にやられているようで、静まり返る。

 俺もこの試合で、クリスマスイブが決まる……かもしれないので、一応気にはなる。

 ていうか、俺にイブの選択肢はないんですか?

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