第386話 隠した方が魅力的なこともある


 アンナに指定された場所は、もうお馴染の博多駅。中央広場にある黒田節の像だ。

 今回の取材は……なんと、赤ちゃん。

 彼女と電話を終えた後、俺はしばらく考えてみたが。

 思いつく所と言えば、産婦人科とか、保育園ぐらい。

 一体、アンナは何を考えているんだ?


 母里ぼり太兵衛たへえという、難しい顔をしたおじ様の下で、俺は一人考えこむ。

 アンナが想像妊娠でもしたのかと……。

 じっと地面を見つめていると、目の前に白く細い脚が2つ並ぶ。


「ごめん、遅くなったね☆ お待たせ☆」


 視線を上にやると、そこには今日の取材対象である美少女が立っていた。


「ああ……久しぶりだな。アンナ」

 俺がそう言うと、彼女は必死に小さな胸を抑えて、息を整える。

「ハァハァ、うん☆ タッくん☆」

 どうやら急いで走って来たようだ。

 額にも少し、汗が滲んでいる。

 そんなに待ったわけじゃないから、焦らなくても良かったのに……。



 今日のファッションと言えば、これまたガーリーに仕上げている。

 トップスはピンクのフリルケープ。胸元には、彼女らしい大きなリボンがついている。

 そしてボトムスも、ケープに合わせたような同系色のプリーツが入ったミニスカート。


 その姿に見惚れてしまいそうだが……。

 周りを歩いていた男たちが、振り返ってまで、彼女の顔を確かめてしまう可愛さだ。

 思わず「俺の女だ!」と叫びたくなる。

 って、違う違う。こいつは男だ。

 雑念を振り払うように、頭を左右に振る。



「無理して急がなくても良かったんだぞ?」

「嫌だよ……アンナのせいで、タッくんとのデートの時間が削られたら、悲しいもん」

 と、頬を膨らませる女装男子。

 まあ、可愛いけど。

「そうか。しかし、何かあったのか? そんなに焦るアンナは珍しく感じる」

 俺がそう言うと彼女は頬を赤らめて、俯いてしまった。

「さ、寒くなってきたから、その……初めて履いてみたの。慣れないから、時間かかっちゃった」

 そう言って、彼女は足もとを指差す。

「へ?」


 アンナ自慢の美脚はいつも通り、頬ずりしたくなりそうだが……。

 何か違和感を感じる。

 そうだ、素足じゃない。

 白いストッキングを履いている。


「これは!?」

 驚きのあまり、思わず口から出してしまった。

 アンナと言えば、今までミニ丈でも、必ず素足。

 それはそれで、最高だったのだが……。


 しかし、薄いデニールのストッキングを履いていただけで、なんだこの背徳感は?

 アンナの細くて長い脚を、白のパンストで覆ってしまったというのに……。

 逆に新鮮で、興奮してしまう!


 これは、アレだ。

 制服フェチに近い。

 典型的な看護婦さん。ピンクのナース服に、白ストッキング……。

 なんてこった。

 股間が暴走しまくりじゃないか。



 前かがみになりながら、アンナの服装を褒める。

「きょ、今日のアンナ……すごく可愛いと思うぞ」

「ホント!? 自信なかったから、嬉しい~☆」

 僕も非常に嬉しいです。

 ただ、あまり挑戦的なファッションは、やめて頂きたい。

 歩けなくなるから……。


  ※


「ところで、今日の取材……赤ちゃんだっけか? 一体、そんなもん。どこでするんだ?」

「ああ、アンナとタッくんの赤ちゃんだよね☆ それだったら、博多からバスに乗ったら、会えるよ☆」

「は?」


 いつ、生まれたの?

 俺たちの子供って……。


 アンナが言うには、筑紫口からバスに乗って、目的地へと向かうらしい。

 今、俺たちが立っている博多口とは、反対方向だ。

 一旦、駅舎のあるJR博多シティの中を通らないと行けない。


 説明不十分だが、とりあえず、アンナに手を引っ張られて、JR博多シティのビル内へと入る。

 アンナが「早くはやく」と急かすせいか、俺の手を掴む力が強まる。


「いてててっ!」


 余りの痛さだったので、手を振りほどこうとした瞬間。

 アンナの足もとに違和感を感じた。

 左脚の太ももに、縦の線が見える。


「アンナ! なんか、太ももにキズができていないか?」

 俺がそう言うと、彼女は振り返って、目を丸くする。

「え? キズ……?」

「うん。ほれ、太ももに何か白い線が出ているが、これはケガしたんじゃないのか?」

 彼女の太ももを指差すと、ようやく立ち止まる。

 俺から見て、目立つ線と言うことは、彼女からすれば、太ももの裏側だ。

 大胆にもスカートの裾を上げて、太ももを確認するアンナ。

 パンツ、見えそう……ラッキー。


「あ!? 伝線してるぅ!」


 その線を見つけた瞬間、アンナの顔は一気に青ざめる。

 小さな唇を大きく開いて。


「で、電線? ビルの中には電柱なんて、ないぞ?」

「違うよ! ストッキングが伝線したの!」

「はぁ?」

 意味が分からない俺は、アホな声が出てしまう。


 でんせんって、なんだ……?

 新型のウイルスが伝染でもしたのかな。

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