第四十四章 出産

第385話 今日からパパ


 11月も終わりに入る頃。

 そろそろ、一ツ橋高校のスクリーングも後半に入った。

 俺の記憶が正しければ、あと3回ほどで秋学期も終業だ。


 まあ期末試験も控えてはいるが、相変わらずバカな幼稚園レベルだから、この天才ならば、余裕だろう。

 来年に入れば、次の学期までゆっくりと休んでいられると思うと、気が楽になるな。


 なんて、自室で考え込んでいると……。

 学習デスクの上に置いてあったスマホが鳴り出す。

 着信名は、珍しい名前だ。

『一ツ橋高校 事務所』

 以前、宗像先生から電話がかかってきた時に、登録しておいた。


「もしもし?」

『あぁ……新宮かぁ~』

 ろれつの回らない女性。

 その一声で、担任の宗像むなかた らん先生だと、判明する。

「宗像先生? どうしたんですか?」

『はぁ~ あのなぁ……明日のなぁ……ぐかぁーー』

 会話の途中だと言うのに、寝やがった。

 これ以上、話しても埒が明かないと思った俺は、電話を切る。


 酔いがさめる頃に、またかけてくるだろう……と思って。


 机の上に再度、スマホを置こうと思った瞬間。

 またアイドル声優のYUIKAちゃんの歌声が聞こえてきた。

「チッ……」

 どうせ、また酔っぱらってかけてきたんだろうと、苛立つ。


「もしもしぃ!? 何なんすか!?」

 面倒くさい宗像先生だと思い込んでいたので、口調が荒くなってしまう。

『あ……タッくん。ごめん。忙しかった?』

 電話の向こう側から、YUIKAちゃんに負けないぐらいの可愛らしい声が聞こえたきたので、ビックリした。

 スマホを耳から離して、画面を確認すると、アンナだった。

「わ、悪い! アンナだとは思わなかった……すまん」

『いいよ☆ 誰にだって、間違いはあるもん☆』

「そうか……。で、要件はなんだ?」

『あのね。明日、取材に行かない?』

「え? 取材……?」


 部屋の壁に貼ってあるカレンダーを確認する。

 だが、明日は日曜日。スクリーングだ。

 アンナ自身も、それは知っていると思うのだが……。


「悪いが、明日は高校のスクリーングがあるんだ。別の日じゃダメか?」

『え? ミーシャちゃんから聞いたけど、明日は高校が休みになったって……』

「噓だろ……マジか?」

『マジだよ☆ 担任の先生がギャンブルに負けて、ショックでお酒を飲み過ぎたから、立てないらしいよ☆』

「……」


 だから、泥酔していたのか。

 生徒が一番だったんじゃないの? 宗像先生……。



『だから、取材に行こうよ☆』

「まあ、そういう事なら、構わんが……今回はどこに?」

『アンナね。ずっと考えていたの。タッくんのお父さんが言っていたことを……』

「え? 親父?」

『うん。アンナとタッくんの間に産まれる、赤ちゃんのことを☆』

「へ?」


 俺は聞きなれない言葉を聞いて、頭が真っ白になる。

 一体、何を言っているんだ……アンナは。

 こいつは男だし、俺と“そういうこと”はしてないよ?

 精々がキスとか。パイ揉みぐらいじゃん。



 言葉を失う俺とは対照的に、アンナは嬉しそうに話し続ける。

 

『今度の取材は、赤ちゃんだよ☆ タッくんとアンナの間に生まれる可愛い子ども☆』

「すまん……意味が分からないのだが」

『そこへ行けば、タッくんにも分かるよ☆ 頑張ってね、パパ☆』

「え……」


 脳内がバグりそう。

 俺、なんか新手の詐欺にでもあってない?

 悪い事はしてないと思うけど……。

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