第371話 想像豊かな男


 俺はほのかに受けだと、決めつけられ、ちょっとした放心状態に陥っていた。

 それを見た彼女は、満足そうに微笑む。


「まあ、焦らずにじっくりとミハイルくんのために、お尻でも開発しておけば、良いと思うよ♪」

 クソが! 他人事だと思って……。

「ほのか……一旦、この話はやめよう。チャイムもなりそうだし……あ、そう言えば、お前に頼みたいことがあったんだ」


 担当編集の白金に頼まれた表紙や挿絵用のモデル写真。

 俺はそのことをほのかに説明すると、快く承諾してくれた。

 誰もいないし、この教室内で写真を撮ることにした。

 俺は自身のスマホを手に持って、ほのかにレンズを向ける。


「じゃあ、撮るけど……本当にそのポーズでいいのか?」

「うん! これが一番、私らしいと思うの♪」

「そうかもしれんが……」


 満面の笑みで、こちらを向いてくれているのだが……。

 両手にたくさんのBLコミックを扇子のように、広げている。

 まあ……腐女子だから、個性が出ていいのかな?


 数枚、写真を撮り終えると、ちょうどチャイムが鳴った。

 俺たちは急いで、スクリーングが行われる二階へと駆け下りる。

 教室の引き戸に手をかけた際、ほのかが俺の肩をポンポンと叩く。

 振り返ると、彼女が「忘れものだよ」と自身の作品、『ゲイの国 福岡オムニバスクラブ』を二冊、差し出す。


「え、俺に?」

「うん♪ だって、素材に使ったし。琢人くんとミハイルくんの絡み、かなり人気だから。取材協力っことで。二人へのプレゼントかな」

 誰がお前の取材に協力したよ……。

 勝手に絡めたくせに。

 でも、一応受け取っておくか。


「すまんな……」

「気にしないで。ミハイルくんと仲良く読んで、参考にしたら、もっと嬉しいな。あ、もし琢人くんが“開通”したら、教えてね」

 この野郎……。


 しかし、この作品をミハイルに読ませたら、ヤバいことにならないか?

 純真無垢な彼だから、今まで性への知識が少ない。

 特にモデルが、俺とミハイル自身だ。


 彼が攻めという概念をインプットしてしまえば、愛情表現の1つとして、試したがるかもしらん……。

 それだけは、避けたい。


 恐怖から、俺はほのかのBLコミックを両方、家に持って帰ることにした。

 母さんにでも渡しておこう。


  ※


 授業が始まっても、ずっと頭に入らなかった。

 隣りに座るミハイルをチラチラと見つめては、想像してしまう。

 こんな可愛い奴が、俺を攻めるだと?

 有り得ないだろ……。


 だが、考えてみれば、俺は過去に別府温泉で事故とはいえ、リキにお尻処女を奪われたことがある。

 このことは、まだミハイルも知らない。

 女装したアンナにも言えることだが、彼という人間は、俺との初めてを大切にする奴だ。

 それこそ、この前のパイ揉み事件なんか、宿敵であるマリアと入れ替わってまで、復讐の鬼になっちまった……。


 じゃあ、リキの事故も同じように憤慨するのではないだろうか?

 ちょっと、想像してみよう。



『え……タクト。リキにお尻を掘られたの!? 初めてなのにっ!』

『すまない』

『イヤだっ! オレ以外の奴と初めてをするなんて……そうだ、汚れを落としてあげる!』


 そう言って、俺のズボンを無理やり下ろすミハイル。

 もちろん、自身が履いているショーパンも脱ぎ捨てる。

 重なる肌と肌……。

 立ったまま後ろから抱きしめられたが、身長差があるから、幼い子供が親に甘えているように見える。


『や、やめろ。ミハイル! 俺たち男同士のマブダチだろ?』

『関係ないよ! タクトの汚れをちゃんと落とさないと……う~ん、ここからどうするんだろう。オレ、分かんないよぉ……』

 


 イマジネーション、終了。

 結果は……めっちゃ可愛かった。

 逆に俺の方が興奮してしまう。

 その証拠に、股間がパンパンに膨れ上がってしまった。

 隣りのミハイルに気づかれないよう、必死に机へと押し付ける。

 

 挙動不審な俺に気がついたのか、彼がこちらに視線を向ける。


「どうしたの? タクト☆ なんか、今日はずっとオレのことばかり見てるけど☆」

 何も知らない彼は、エメラルドグリーンの瞳をキラキラと輝かせている。

「い、いや……その俺たち、ずっとマブダチだよな?」

「当たり前じゃん。オレとタクトの邪魔する奴が出てきたら、ぶっ飛ばしてあげる☆」

「それって、リキでもか?」

「う~ん……無いと思うけど。もし、オレとタクトの初めてを奪ったら、許さないかな☆」

「……」

 

 別府温泉の事故は墓場まで持って行こう。

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