第370話 属性診断


 知らない間に俺とミハイルが、汚されちゃったよ……。

 まあ、あくまでも創作物だから、大目に見てやるか。

 こちらに直接、危害があるわけでもないし。


 しかし、改めて表紙や絵のタッチを見ていると、どこか見覚えがある。

 ネームこそ、ほのかが描いたらしいが、この漫画家さんはかなり上手い。

 BLに詳しくないけど、何故か記憶にある……うーむ、どこかで見かけたのかな。


 ほのかに尋ねてみた。


「なあ、この作画を担当した人って、有名な漫画家さんか? どこかで見たことあるんだが……」

 俺がそう言うと、鼻息を荒くし、熱く語り始める。

「さすが琢人くん! よく気がついたわね。この作家さんは、まだ無名の新人だったけど、とあるインフルエンサーのおかげで、バズったのよ! それでBL編集部からスカウトされたの!」

「い、インフルエンサー? 誰だ?」

「BL界の四天王が一人。ケツ穴 裂子さんよ! あの御方のお目に叶うと書籍化、重版間違いなしなの!」

「……」


 それ、俺の母さんだよ。とは言えなかった。


 話を更に詳しく聞くと、作画を担当したのは、以前コミケで母さんが爆買いしたサークル“ヤりたいならヤれば”の同人作家さんだったらしい。

 確かに腐女子の界隈では、ケツ穴 裂子という読み専は有名人のようだ。

 そして、母さんがその作品を拡散すれば、商業デビューできたり、アホみたいに売れるらしい。

 

「琢人くん。実は私もツボッターでケツ穴さんに拡散してもらったのよ! 『変態女先生は才能ある』って。だから、めっちゃ売れたのよ! 処女作なのに!」

「えぇ……ちなみに、どれぐらい?」

「100万部!」

「……」

 俺も母さんに拡散してもらった方がいいのかな?

 でも、BLなんかと、一緒にされたくない。


  ※


 ほのかの告白は、しかと受けとめた……つもり。

 だが、どうしても許せない部分が1つだけある。

 それは俺が作中、受けにされているところだ。


「なぁ……ほのか。なんで、俺を受けにしたんだ?」

 そう問いかけると、彼女は真顔で即答する。

「え? だって、琢人くんって、絶対受け属性だもん」

「ハァ!?」

「気がついてなかったの? 琢人くんってさ。なんか色んな人や物事に文句とか、喧嘩腰に見えるけど……。基本は優しいし、押しに弱いでしょ。だから、私の中では受けかな♪」

「ウソだろ……?」

「ホント、ホント♪ ノン気ぶっても、界隈に入り込んだら、ズル剝け間違いなしの逸材だと思うよ♪」

「……」


 俺ってそんな風に見られていたの?

 嫌だ、絶対に嫌だっ!

 認めたくない……もし、ミハイルとそういう関係になったとしても、絶対に俺は攻めだ!


 ひとりで頭を抱えていると、ほのかが優しく肩を叩いてきた。

「そんなに難しく悩んじゃダメだよ、琢人くん」

 ニッコリと笑って見せる、ほのか。

 誰のせいで、こんなに悩んでいると思っているんだ。


「俺は……受け身じゃないぞ、ほのか。それだけは認めたくない」

「まあまあ、今すぐハッキリしなくても良いんじゃない? “リバーシブル”って可能性もあるし♪」

 その言い方だと、もう俺がそっち界隈に向かうの決定じゃないか。

「クソ。俺、ノン気なのに……なんでそんな風に見られるんだ……」

「琢人くんも往生際が悪いなぁ。じゃあ、試してみる? 攻めか、受けか」

「え?」

「簡単なテストで、琢人くんがどっちかすぐに分かるよ♪」

 わらにもすがる思いで、ほのかの手を掴む。

「頼む! 俺は全否定したいんだ、やってくれ!」

「オッケー♪」


  ※


 ということで、急遽、ほのかによるテストが始まった。

 彼女の説明によると、今から1つの指示を出すと言う。

 俺がそれに従えば、すぐに判明するらしい。


「琢人くん、ちょっと私に背中を向けてくれる?」

「え? こうか?」

 黙って、彼女に背を向けた瞬間だった。

 肛門に衝撃が走る。

 ジーパン越しとはいえ、なにか太くて硬いものを突っ込まれたようだ。


「痛ってぇ!」


 振り返ってみると、にんまりと微笑むほのかが、俺の尻にマジックペンの先っちょを、突っ込んでいた。

 上目遣いで、怪しく微笑む。

 眼鏡をキランと輝かせて。


「ほらぁ。やっぱ、受けじゃ~ん」

「なっ!?」


 ほのかは尻からマジックをひっこ抜くと、今行ったテストの結果と説明を始める。

「いい、琢人くん。このテストは、その人が受動か能動かを確かめるものよ」

 なんて人差し指を立てて、嬉しそうに語る。

 人のケツに、躊躇なくブッ刺しやがって……。

 尻をさすりながら、俺は反論する。

「なんで、そうなるんだ? ほのかが『背中を向けろ』って言ったから、それに従ったまでだろ」

 それを聞いたほのかが、鼻で笑う。

「私は言っただけよ? 黙って従ったのは琢人くんじゃない。反抗もできたはずよ。つまり相手の言いなり……だから受けよ。攻めなら、私に『なんでだ?』って問い詰める可能性があるわ。それにこのマジックだって、奪い取れたしね♪」

「そ、そんな……」


 彼女の言うことも、あながち間違っていないような気がする。

 この俺が受け属性だと?

 み、認めたくない……。

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