第359話 ギャップ萌え


 文字通り、暴力で痴漢を撃退したマリア。

 しつこく口説かれた事よりも、自分が敵視しているアンナと間違えられたことが一番、腹が立ったようだ。


 映画館から出ても、何度も舌打ちを繰り返し、苛立ちを隠せずにいた。


「チッ。あの痴漢。もっと殴っておけば良かったわ」

 まだ殴りたいのか……。

「あ、あの……マリア? ちょっと気分転換でもしないか。久しぶりのカナルシティだろ。どこか行きたい店はないか?」

 俺がそう提案を持ちかけると、彼女の表情が少し柔らかくなる。

「え? 行きたいお店? そうね……なら、最近オープンしたっていうショップへ行ってみたいわね」

「よし。そこへ行ってみるか」



 彼女が言う店は、地下一階にあるらしい。

 俺たちはエスカレーターを使って、一番下まで降りていく。


 色んなテナントがたくさん出店している階だ。

 博多土産、期間限定のスイーツショップ、雑貨、アクセサリーショップ。

 その中でも、一際目立つ場所で、マリアは足を止めた。


『デブリがいっぱい! でんぐり共和国。カナルシティ店』


 可愛らしい、スタジオデブリのキャラクターが飾られている。

 ドドロやボニョなど。


「うわぁ、どれもカワイイわねぇ~」

 と碧い瞳をキラキラと輝かせるマリア。

「……」

 俺は彼女の横顔をじっと見つめて、考えこむ。


 マリアって、こういうの好きだったか?

 なんていうか、小説とか、映画。あとは食事の話しか、しないから。

 彼女の趣味とか、よく知らないが……。

 デブリっていうと、どうしてもミハイルのイメージが強く、重ねてしまう。


 俺の視線に気がついたマリアが、眉をひそめる。


「な、なによ? そんなに見つめて……私の顔に、変なものでもついているの?」

「いや……そういう訳じゃないが。お前って、デブリとか好きだっか? なんていうか、もっとお堅い趣味っていうイメージだったんだが……」

「は、はぁ!? わ、私だって、デブリぐらい好きよ! なに? またブリブリアンナと似ているとでも言いたいの!?」

 なんか必死に、言い訳しているように見える。

「別に人の趣味だから、良いんだけどな。10年前はこういうの好きじゃないって、言っていたような……」

「じゅ、10年前と比較しないでくれる!? 私も成長したって言ったじゃない!」

「すまん……」


 うーむ。マリアって俺が思っている以上に、女の子らしく成長したってことかな。

 丸くなっちゃったのか……。

 どんどん、容姿だけじゃなく、中身までアンナに近づいている気がする。


  ※


 その後も、彼女が選ぶ店は、どれも可愛らしいものばかり。

 女の子に大人気のキャラクター、『ザンリオ』の公式ショップに入ると。

 期間限定で販売しているという、ピンク色のボアイヤーマフを手に取り、声を上げて喜ぶ。


「うわぁ~ “マイミロディ”のマフだぁ。可愛いわね。買おうかしら。あ、隣りには“グロミ”ちゃんのもある~」


 マイミロディのイヤーマフだが、ピンクのもふもふ生地で、フリルとリボンがふんだんに使われたデザインだ。

 人気商品なようで、近くにいた若い女性も手に取り、どちらを買うか悩んでいた。

 ちなみに、その客のファッションだが、誰かさんに似ている。

 そう、我らがメインヒロインのアンナちゃんだ。

 

 マリアが迷っているもう1つのキャラクター、グロミちゃんも色は黒だが、デザインはやはり大きなリボンとフリルが、かなり目立つ。


 これを買うのか……あのマリアが?

 しかも、イヤーマフってことは、頭につけるんだろう。

 想像できない。


 散々、迷った挙句。

「やっぱり、2つとも買いましょ。迷った時は、両方よね」

「マジで買うのか……お前」

 俺は余りのギャップに呆れていた。

「な、なによ! 私がこういうの買ったら、ダメっていうの?」

「いや……これ、買ってどうするんだ」

 俺がそう言うと、彼女は堂々と胸を張ってこう答える。


「はぁ? 使い方を知らないの? 頭につけるのよ、こうやって!」

 

 わざわざ頭につけて、俺に説明してくれる神対応。

 ていうか……確かに似合っている。

 そりゃ、あのアンナに瓜二つなんだから、似合わないわけ無いよな。


「可愛い……」


 気がつくと、口からその言葉が漏れていた。

 それを聞き逃さないマリアじゃない。


 頬を赤くして、そっとイヤーマフを頭から外す。


「あ、ありがと……買ってくるわね」

「おう……」


 なんか、今の俺って、ときめいてないか?

 うう……相手が可愛かったら、誰でもイケちゃうタイプなのかな。

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