第354話 プリクラの加工に騙されちゃダメっすよ


 たらふく、ハンバーガーを食い終えたところで、ようやく映画館へと到着。

 待ちに待ったタケちゃんの新作であり、初めての続編でもある映画。

『作家レイジ ビヨンド』

 前作の『ヤクザレイジ』が大好評だったこともあってか、タケちゃん初のシリーズ化だ。

 映画館の前に飾られているポスターを見て、俺も興奮してきた。


「おお! これが新作か! マリア、早く入ろう」

 そう言って、隣りの彼女に目をやると……。

 俺とは正反対の方向を見つめていた。

 

 映画館のチケット売り場のすぐ後ろにある店だ。

 ゲームセンターの一部であり、最新のプリクラ機が大量に設置されている。

 以前、アンナと入った店だ。

 まあ俺もあの時以来、来たことがないし、撮る必要性もない。

 生まれて初めて撮ったプリクラだったが……。

 もし、アンナが誘わなかったら、一生撮ることはなかっただろう。



「ねぇ。まだ上映まで時間あるのでしょ?」

 碧い瞳を輝かせるマリア。

「ああ……。プリクラに、興味があるのか? なんかマリアらしくないな」

 俺がそう言うと、彼女はムッと頬を膨らませて睨む。

「失礼ね。私だって女の子なのよ。それに言ったでしょ? 今回の取材のテーマ」

「え? テーマ?」

 首を傾げて考えていると、マリアが俺の胸を人差し指で小突く。

「あなたのハートを奪い返す……つまり、記憶の改ざんよ♪」

「?」


  ※


 チケット売り場で座席だけ、指定しておいたので、後で困ることはない。

 安心して、プリクラを撮れる。

 だが、俺はマリアの言う『記憶の改ざん』が理解できずにいた。


 真剣な顔でプリクラ機を選ぶ彼女に、もう一度聞いてみる。


「なぁ。俺の記憶と、このプリクラに何の意味があるんだ?」

 そう言うと、マリアは「ふふ」と微笑んで、トートバッグから一冊の小さな本を取り出した。

「答えは、この中にあるわ」

 表紙を見れば、どこかで見たことあるライトノベル……。


『気になっていたあの子はヤンキーだが、デートするときはめっちゃタイプでグイグイくる!!!』

 作者、DO・助兵衛。絵、トマト。


 俺の作品じゃねーか!


「これって、この前発売した俺の作品じゃないか……」

「ええ。穴が開くほど読み返したわ。特に、初デートのくだりをね」

「ん? デート……はっ!?」


 ここでようやく気がついた。

 彼女が言う、初デートのことを……。

 そうだ。俺とメインヒロインであるアンナが、初めて取材した場所は、このカナルシティだ。

 二人で観た映画もタケちゃんの作品だったし、そのあとプリクラを撮影した。

 つまり……アンナが取材した場所や出来事を再現。

 いや、マリア自身によって、俺の記憶を上書きしたい、ということか。


 マリアは下から俺をじっと見つめる。怪しく口角を上げて。


「どうやら理解できたようね。さ、タクト。ブリブリ女との差を見せてあげるわ」

「おお……」


  ※


 なんて勝ち誇った顔をしていたマリアだが。

 どうやら、彼女自身もプリクラを撮影するのは、生まれて初めてらしく。

 どの機械が良いのか、さっぱり分からないようだ。

 周りには若い女子高生やカップルで、ごった返している。

 そのため、自然と長い列が出来てしまい、機械を選んでいるだけで、置いてけぼりになってしまう。


 焦り出したマリアが怒りを露わにする。


「な、なによ! 高々、写真を撮影するのに、こんなに並んでバッカじゃない!」

 良いながらも、かなり動揺しているようだ。

 こういうところは、ぼっちの俺に似ているな。

 仕方ないので、フォローに入る。

「マリア。俺もあまり詳しくないが、全身が撮れて、尚且つ加工の少ない機械が良いって聞いたぞ」

 この話は、全てアンナから教わったものだが……。

「フ、フン! じゃあ、それにしましょ」

 

 結局、半年前に撮影した同じプリクラ機で撮影することにした。

 改ざんになっているのか?

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