第353話 JKが一番、大食いだと思いますよ。多分……。


 カナルシティに着いて、すぐに映画館へ向かおうとしたが。

 エスカレーターの前でマリアが俺の手を掴む。


「ちょっと待って……」

 振り返ると頬を赤らめていた。

「どうした? トイレか?」

「違うわよ! お腹、空いたの……」

 それを聞いた俺は鼻で笑う。

「相変わらずだな。食い意地がはってる」

 案の定、マリアは顔を真っ赤にして、怒り出す。

「な、なによ! 小説に夢中だったから、朝食を取る暇がなかっただけよ!」

「構わんさ……ところで、食べる所はどうする?」

 俺がそう問いかけると、彼女は再度、頬を赤らめて恥ずかしそうにこう答える。


「タ、タクトさえ、よければ……“キャンディーズバーガー”が良いわ」

「了解」


  ※


 俺とマリアは地下一階に向かい、噴水広場の前にあるファーストフード店。

 キャンディーズバーガーへと入る。


 かなり腹が減っていたようで、店に入るや否や。

 躊躇いもなく、メニューも見ずに店員へ注文するマリア。


「BBQバーガーを単品で30個下さい。あとポテトも10個。飲み物はアイスティーのLサイズを1つ」

 その量を聞いて、驚く俺と店員のお姉さん。

「えっと……BBQバーガーを単品で30個に、ポテトを10個。お飲み物はアイスティーのLでよろしかったでしょうか?」

 お姉さんが注文を繰り返すと、マリアは苛立ちを隠せず、舌打ちしてみせる。

「ええ。そうです。あまり待たせないでくれますか? お腹空いていると、あまり余裕がないのだけど」

 そう言って、カウンター越しに睨みをきかせるマリア。

 相手は5才ぐらい年上の女性に見えるが、その迫力に思わず後じさりするほどだ。


「も、申し訳ございません! すぐに調理いたしますので、少々お待ちください!」

 

 自分が頼み終えると、振り返って、涼し気な顔でこう言う。


「タクトはどうするの?」

「あぁ……」


 正直、朝ご飯を食べて間もないし、こんなにヘビーなものをすぐには食べたくない。


「俺はアイスコーヒーのブラックで……サイズはSでお願いします……」


 男である俺の方が小食に見えてしまった。


  ※


 二人掛けの小さなテーブルの上に、並べられた大量のハンバーガー。

 それをひとつ1つ、包み紙を開いて、嬉しそうに頬ばる華奢な女の子。


「やっぱり、ここのハンバーガーが一番だわ。アメリカのよりも日本の……いえ、福岡のが一番♪」

 なんて絶賛している。

 俺はと言えば、その食いっぷりに絶句していた。

 この小さな身体のどこに入っていくんだ?

 過食症じゃないよね、マリアって。


 スナック感覚で、ポイポイと口に入れていくので、俺は心配になり。

 彼女へその疑問をぶつけてみた。


「なぁ……別に人様の食べ方に文句を言うつもりはないが。ハンバーガーを30個も注文するなんて、異常じゃないか? マリア、お前なんかストレスでも抱えてないか?」

 俺がそう言うと、彼女は眉をしかめる。

「失礼ね。私は至って健康よ。それに言ったじゃない? 朝を抜いてきたって」

「いや……朝食を抜いたからって、ここまで食うか……」

 既にハンバーガーは全て食べ終え、あとはポテトが3個のみだ。

「タクト。きっとあなたは10年前の私と比較しているのよ」

「比較?」

「ええ。あの頃は私も小学生だったもの……。でも、今は第二次性徴を迎えた女よ。食べる量も自ずと増えるってこと。オトナの女って感じかしら♪」

「……」


 こんなにバカ食いする大人の女性は、あまり見ませんね。

 唯一、僕が知っている女の子……いや、男の娘なら一人いるのですが。

 ルックス以外で、似ている所を見つけたな。

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