第346話 多重人格ヒロイン


 ミハイルはベッドの上で、ずっとうなされていた。

 高熱により、何度も身体を左右に動かしながら……。

 時折、何か言葉を発する。


「タ、タクト……が、がっこう……」


 どうやら、今日のスクリーングのことを未だに悔いているようだ。

 隣りで座っている俺も見ていて、辛かった。

 それだけ彼の中では、スクリーング……いや、俺と一緒に「一ツ橋高校を卒業したい」という想いが強いのだろう。

 まあ、一日ぐらい休んでも単位は貰えるから、心配ないと思うが。

 変な所で意地っ張りというか、頑固なところがあるからな。



 俺がミハイルの部屋にいて、彼の顔をじっと見守っていたところで、容態は何も変わらないのだが……。

 それでも今は近くで、こいつの顔を見ていたかった。

 

  ※


「うう……ああっ!」


 あまりの高い熱に頭をやられたのか、ミハイルは急にベッドから身体を起こす。

 両手で頭を抱え、左右にブンブンと振る。

 顔をしかめて、叫び声をあげた。


「あああ! イヤだぁ!」


 驚いた俺は、すかさず止めに入る。


「ミハイル! どうした、頭が痛むのか!?」

 だが俺の声は、彼の耳に入ることはなく……。

「痛い、痛い! 頭が痛いよぉ!」

 子供のように泣きじゃくる。

 こりゃ、よっぽど重症だな。

 本当に病院へと連れて行かなくてもいいのか?


「おい、危ないから。辛いだろうが、ベッドで横になれ」

「頭が割れそう……あああ!」

 俺の手を振り払い、ベッドから飛び下りる。

 何を思ったのか、床の上に立ち上がって、辺りをボーッと見回す。


「み、ミハイル? 立ったら、危ないぞ。まだ寝てろよ……」

 俺の声にやっと気がついたようで、ゆっくりと振り返るミハイル。

 ベッドから下りて、ようやく今日のファッションに気がつく。


 といっても、あくまでルームウェアだ。

 モコモコ素材の柔らかい生地で、トップスは長袖だがボトムスは何故かショートパンツ。

 もう冬も近いってのに、どこまでもショーパンが好きなんだな。

 その代わりといってはなんだが、ロングソックスを履いている。

 なんだか、ミハイルの絶対領域を初めて見て、妙に色っぽく感じてしまった。



 振り返った彼は、なぜか俺を見て優しく微笑む。


「ふふ……タッくん」

「え?」

 思わず、アホな声が出てしまう。

 聞き間違えかな。

「も~う☆ タッくんたら、女の子の家に入る時はノックしなきゃダメだぞ☆」

「はい。ごめんなさい」

 おかしい……目の前にいるのは、間違いなくミハイルだ。

 女装していないから、アンナさんの出番じゃない。

 でも……。



「タッくん。今日は何の取材しよっか☆」

「えっと……お医者さんごっことか、どうですか?」

「いいよ☆」


 完全にミハイルモードだというのに、この神対応。

 そうか、高熱で人格がブレブレになっているのか。

 しかし……なんだというのだ。

 この胸の高鳴りは?


 信じたくないが、俺は……。

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