第341話 男の娘を敵に回すと怖いよぉ~


 エントランスから出て、ジーパンのポケットからスマホを取り出す。

 ひなたの家にいる間はスマホを起動できなかったからな。

 昨晩、アンナが梶木をウロウロしていたことも、気掛かりだ。


 マンションから出て、アンナに電話をかけようとした瞬間だった。

 付近の階段に人影を感じた。

 華奢な体型の女?


 長い金色の髪は首元で2つに分けている。

 セーラーカラーのワンピースを着て、階段に腰かけている。

 心なしか、背中がぶるぶると震えているように感じた。


 こちらに気がついたようで、振り返る。


「あ……た、た、タッくん」


 歯をカチカチと鳴らしながら、笑うのは……。


「アンナ! お前、なにやってんだ! こんなところで!」


 思わず叫んでしまった。

 急いで、彼女の元へと走る。

 肩に触れてみると、服越しとはいえ、冷えきっていた。


 長袖のワンピースを着ているが、既に11月も近い。

 朝は冷え込む。



「た、た、タッくん……お、おはよ☆」

 ニッコリと笑って見せるが、元気がない。

 顔は青ざめているし、小さな身体は震えっぱなし。

「どうしたんだ、アンナ。まさか、一晩中ここで俺を待っていたのか!?」

「うん☆」

「……」

 ヤンデレにも程がある。

 

  ※


 とにかく、冷えきった彼女の身体を暖めるため、俺は近くの自動販売機で、コーヒーとカフェオレを買ってきた。

 ホットの方だ。

 甘いカフェオレは、アンナに飲ませて。

 俺用に買ったブラックコーヒーは、飲まずに彼女の頬にあててあげる。


「あったか~い☆」


 なんて喜んでいるが……。

 俺は彼女の行動力に震えあがっていた。

 どうやって、ひなたの自宅を特定したんだ?



 その疑問を彼女にぶつけてみると……。


「え? ひなたちゃんの家? アンナ、一週間ぐらい前から梶木を歩き回っていたんだ☆」

「そ、それで……どうやって分かったんだ?」

「商店街のおばあちゃんとか。パン屋のお姉さんに、『ショートカットの女子高生来てますか?』って一軒ずつ尋ねたの☆」

 探偵かよ。

「それだけで、ひなたの自宅がわかったのか?」

「うん☆ ひなたちゃんがよく行ってる、ペットショップがあってね。そこの店長がよく餌とか配達してるから、住所をコソッと見てきちゃった☆」

 きちゃった☆ じゃないだろ……。

 普通に犯罪だし、ストーカーだ。



 アンナは特に悪びれるわけでもなく、むしろ誇らしげに語る。


「でもね。ちゃんと約束は守ったでしょ☆」

「え?」

「宗像先生に『お互いの取材を邪魔したらダメ』って言われたから、マンションの中には一歩も入らなかったよ☆」

「……」

 俺ってそんなに信用できないのかな?



「ところでさ。なんで、ただの取材が泊りがけになったの?」

 ずいっと顔を近づけて、笑う。

 しかし、目が笑ってない。

 怒ってるよ……その証拠に、エメラルドグリーンの瞳から輝きが消え失せてるもん。

 また、いつもみたいにブラックホールのような底知れない闇を感じる。


「あ、あの……動物と泊ってきただけです」

「どんな?」

「ヘビです……」

「なんで、動物と泊るの? それって取材なの?」

「はい。一応、取材です……」

「一応ってなに? あとタッくん。お風呂入ってない? 石鹸の香りがプンプンするよ。誰と入ったのかな☆」


 もう許して!

 俺はこのあと、彼女に弁解するのに、数時間を要した。

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