第340話 お土産はちゃんと貰っておいた方がいいよ


 一睡も出来なかった……。

 可愛いヘビちゃん達が俺を寝かせてくれなかったから。

 ずっと、首筋をペロペロ舐めて、愛撫され続けた。

 そりゃあ、誰だって興奮して眠れないだろう。


 緊張し過ぎて……。



「うーん! よく眠れたぁ~ あ、新宮センパイ。おはようございます♪」

 お姫様ベッドで背伸びをする、ひなた。

 対して、俺は身動きが取れずにいた。

 たくさんのヘビちゃん達で、重たいからだ。

 それに嚙まれそうで怖い。

「おはよう……」

「あ、センパイ。ヘビちゃん達とすっかり仲良くなれたみたいですね♪」

「う……うん」


  ※


 ひなたに「朝食を食べて行かないか」と誘われたが断った。

 寝不足だし、リビングにはたくさんの犬でうるさいから、休めない。


 

 帰り際、ひなたのパパさんに声をかけられた。

 大きな紙袋を1つ持って、差し出す。

「新宮くん。これ、お土産だから持って帰ってくれないか?」

「はぁ……ありがとうございます」

「いやいや、そう気を遣わなくても良いのだよ。君はもう我が子のようなものだ」

 そう言って、ニコリと笑う。

 このおっさん。俺のことを種馬みたいに思ってない?



「じゃあ、センパイ! また学校で会いましょうねぇ~」


 玄関から手を振るひなた。

 俺はエレベーターに乗る際、手だけ振ってあげた。

 疲れから、声を出すのもしんどかったからだ。



 エレベーターの中に入ると、パパさんから貰ったお土産が気になった。

 やけに重たく感じる。

 袋の中を開いて見ると、3つの箱が入っていた。

 1つ取り出し、包装紙を破ってみる。


『赤坂饅頭』と書いてある。


 どうやら、あのパパさんが経営している和菓子店のようだ。

 本当に金持ちなんだな。

 いろんな会社を経営しているとは……。


 どんな饅頭か、気になったので、蓋を開けてみた。

 すると……。


「いっ!?」


 見た瞬間、血の気が引く。

 だって、予想していた和菓子なんて、どこにも入っていなかったから。

 箱に入っていたのは、ただの紙切れ。

 いや、福沢諭吉さんという偉人がプリントされた紙幣だ。

 見たこともないぐらいの束。

 これは……100万円だ!


 生まれて初めて見る札束に、腰を抜かしそうだ。


「あのおっさん……なにを考えているんだ」


 箱の隅に小さなメモ紙を見つけた。


 何か書いてある。


『未来の息子である新宮くんへ。これはほんの気持ちだから、気にしないでね♪』


 お気持ちってレベルじゃねー!

 俺の遺伝子を金で買うってか……。


 最後にもう一言。


『お母さんと妹さんがいると聞いたから、三人分のお土産を入れておいたよ。今度はみんなで我が家へ遊びにおいで。ていうか、もうみんなで一緒に暮らそう♪』


「……」


 10代の若者が、一晩で300万円も手にしちまったよ。

 どうしたら、いいの? これ。

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