第338話 サブヒロイン、キラー


 その後もひなたのパパから、あれこれ説得された。


 自分の経営している会社の社長にしてやるとか。

 その会社で働いても、なにもしなくていい。

 小説でも書いて遊んで暮らせばいい。

 大事なのは、娘のひなたと子作りすることだ……。

 特に男子が欲しいだとか。



 長い間、湯船に浸かったこともあってか、俺はのぼせていた。

 フラフラになりながら、先に脱衣所へ向い、ママさんが用意してくれたパジャマに着替える。

 俺の着てきた服は、今洗濯して乾かせているらしい。



 リビングに戻ると、ひなたが一人でテーブルに座っていた。

 ルームウェアに着替えて。

 タンクトップとショートパンツの露出度高めなやつ。


 聞けば、自身もシャワーを浴びてきたとか。

 この家には、他にもバスルームが2つあるらしい。


 なんて、お金持ちなんだ……。

 確かに俺がこの家へ婿入りしたら、素晴らしいセレブ生活が送れるんだろうな。


 そんなことを考えていると、テーブルに置いていた俺のスマホが鳴り出す。

 手に取って、画面を確認すれば。

 相手は、「アンナ」だ。


「いっ!?」


 まさかとは思うが、ここ、梶木に来ているのか……。

 恐る恐る電話に出ると。


『もしもし、タッくん?』

「はい……そうですが」

 恐怖から敬語になってしまう。

『今ね。アンナ、梶木にいるの☆ タッくんのお仕事、そろそろ終わる頃かなって☆』

 近くにあった時計を確認すれば、既に夕方の6時。

 彼女の言う通り、普通の取材であれば、終わってもいい頃だ。


「アンナ……実はちょっと、予定があって。泊りの仕事になってな」

 そう言うと、彼女の声色が急変する。

 凍り切った冷たい声。

『なんで?』

 怖っ!

「そ、その……えっと……」


 一生懸命、言い訳を考えてみるが、なにもいい案が思いつかない。

 しどろもどろになっていると、近くにいたひなたが、それに気がつく。


「センパイ? 誰と話しているんですか?」

 自分の物みたく、パシッとスマホを奪い取る。

 そして、画面を見て、一言。

 

「チッ……ブリブリアンナじゃん」

 彼女のとった行動は、スマホの電源ボタンを長押し。

 つまり、強制シャットダウン。


「お、おい! まだ通話中だったのに!」

 しかし、ひなたはスマホをショートパンツのポケットに押し込み、ニコリと笑う。

「センパイ♪ ダメですよ、女の子の家へ取材に来たんだから、集中しないと♪」

「いや……電話ぐらいさせてくれても……」

 ひなたは笑顔で断言する。

「絶対にダメです♪ パパから聞きましたよ♪ 今日はお泊り回なんでしょ?」

「はい……」

「ちゃんと取材してくださいね。そうじゃないと小説に使えませんよ? 私に集中してくださいね♪」

「……」


 アンナさんがこの周辺を徘徊していないか、怖くて集中できないんですけど。

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