第337話 漢同士のお風呂


 急遽、ひなたの家で風呂に入ることになった俺氏。


 真っ白でカビ1つないキレイなバスルームに二人の男が向かい合って、浴槽に浸かっている。

 ラブコメ的な展開なら、相手は女子高生であるひなたが、バスタオルを巻いて。


「センパイ、お背中流しますね♪」


 と期待していたが……。


 目の前にいるのは、ひなたちゃんのパパさん。


 ひなたから、彼の年齢は50歳と聞いていたが、ボディビルダーのような屈強な肉体だ。

 そして、剛毛。

 胸毛がもじゃもじゃ。


 腕を組み、ジッと俺を睨んでいる。


「……」

 

 かれこれ、30分間はこの沈黙が続いている。

 一体、なにがしたいんだ? このお父さんは……。


 仕方ないので、俺から話しかけてみる。


「あ、あの……パパさん?」

 太い眉毛がピクッと動いた。

「新宮くん。私はね、ひなたを大事に育ててきたつもりなんだ」

「えぇ……そんな風に見えますよ」

 この流れだと「だから娘に近づくな」的な感じで怒られるんだろな。


「私たち夫婦は中々、子宝に恵まれないでね。やっと生まれてくれたのが、ひなたなんだ」

「はぁ」

「妻も年だから、次の子は生めなくてね……」

 一体、俺は何を聞かされているんだ。

 パパさんの話はまだまだ続く。


「私という人間は、曲がったことが大嫌いなんだ。妻しか愛せない男なのだよ。でも、赤坂家の跡取りは欲しいんだ。だからといって、妾とか、不倫とか、ダメだろ?」

「ど、どういうことですか?」

「ううむ。当初、妻のお腹に赤ん坊が出来た時、私は絶対に男が生まれると信じていた。しかし、生まれたのは女の子のひなただ」

「?」

「だから、私はひなたを赤坂家の跡取りとして、男のように育ててしまったのだよ」

「はぁ?」

 思わず、アホな声が出てしまう。


 大の男同士が、素っ裸でなにを話し合っているんだ。


 パパさんは、咳払いをして、俺の肩を掴む。


「新宮くん! 君に赤坂の男になってほしいんだ!」

「……なんですって?」

「だから、ひなたを嫁にもらって……いや、君が欲しいんだ! 赤坂の息子になって欲しい!」

「ちょっと、言っている意味がわからないんですけど」



 その後、詳しい事情をパパさんから聞いたが。

 夫婦が高齢のため、ひなたしか産めなかったから、悔いがあるそうだ。

 そして、赤坂と言う家は、ああ見えて、福岡の有名な武将の子孫らしい。

 だからパパさんは、跡取りが欲しいが。男勝りなひなたでは、婿を迎え入れることは、不可能だと思い込んでいたようだ。


 しかし、最近になってから、急にファッションやアクセサリーなどに変化があり。

 両親から見ても、好きな男が出来たと感じていたらしく。

 少しでも早くその相手を見たくて、仕方なかったそうな……。



「新宮くん! 聞けば、君は作家なのだろう!」

「まあ……あんまり売れてないですけど」

「売れてようが、売れてまいが関係ない! 大事なのは君の繫殖能力だ!」

 そう言って、俺の股間をダイレクトに掴む。

「ヒッ!」

 思わず悲鳴をあげてしまう。

「うむ! 実に若々しい。君ならば、必ずひなたを落とすことができるだろう」

「えぇ……」

「今晩、泊っていきたまえ! 既成事実を作ってから、結婚しても良いじゃないか」

 

 俺は呆れていた。

 年上の親御さんとはいえ、正直に言いたかった。

「お前、バカだろ」って。

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