第334話 高層マンションから、下りてこいや!


 日曜日、ひなたに言われた通り、俺は梶木駅で降りて彼女を待つ。

 駅の前には、大きな鳥居がある。

 なんで、駅舎に建てられたのかは知らんが……。

 きっと近くに『梶木宮かじきぐう』という古い神社があるからだろう。


 スマホで時刻を確認すれば、『10:40』

 約束の待ち合わせ時間より一時間近く遅れているぞ。

 駅の前で一人立っているのもしんどい。


 だって、民度が高い梶木の人間たちが目の前を歩いているからな。

 着ている服もブランド物が多いし、高々商店街に買い物へ行くだけなのに、洒落た格好しやがって……。


 俺の地元、真島なんて、おばあちゃんばっかだぞ!


 と、地域差に憤りを感じていると、足音が近づいて来た。

 その方向に目を向けると、一人の少女が嬉しそうに走っている。

 

 デニムのミニスカートに白のニットセーターを着た活発そうな女子。

 トップスに合わせて、足元も同じく白のスニーカーだ。

 ボーイッシュなショートカットには、カチューシャをつけている。

 シンプルなデザインで、色はブルー。

 これもデニムに合わせたものか……。


 偉く気合の入ったファッションだと、上から下まで眺める。

 すると、その女の子に肩を思い切り叩かれる。


「も~う! センパイ! なに人のことジロジロ見ているんですかぁ!」

 言いながらも満面の笑みだ。

「いや……なんか今日はいつも違うなと思ってな」

 俺がそう言うと、ひなたは頬を赤らめる。

 身体をくねくねさせて、「ホントですか」と俺の顔をチラチラ見る。

「ああ。その頭、髪飾りだろ? 普段は何もつけてないじゃないか」

「か、髪飾りって……センパイ、ホントにおっさん臭いですね!」

 恥じらったと思えば、怒り出す。

「すまん。俺にはよくわからんが、似合ってると思うぞ」

「え……」

 目を丸くするひなた。

 そして、俺に小さな声で囁く。

「良かった」


 何が良いのか、サッパリ分からない俺は首を傾げる。

「どうした? 慣れない髪飾りをつけて、偏頭痛でも起きたか?」

「もう! 最っ低!?」

 そして、一発ビンタを頂く。

 な、なんで……?


  ※


 ひなたは怒って俺を叩きはしたが、終始ご機嫌だった。

 梶木の街を案内してくれ、「この店、最近オープンしたばかりなんです」と嬉しそうに紹介する。

 セピア通りを曲がり、キラキラ商店街を抜けて、国道3号線に出た頃。

 海辺の近い梶木浜が見えてきた。


 ここ最近、高層マンションが多く建設されたこともあって、民度は高くなるばかり。

 要は金持ちが住む街ってことだ。


 つまり、ひなたもそのセレブの娘。

 だって目の前にそびえ立つ高層マンションが、それを物語っているもの。

 見上げるけど、最上階が下からじゃ見えない。

 ひなたが言うには、42階建てらしい。

 そうまでして、天空の城に近づきたいのか……。


 マンションに入ると、まるでホテルのような広いエントランスが見えた。

 そして、しわが1つもないピシッとした制服を着用した若い男性が、奥に立っていた。

 カウンターの後ろで、礼儀正しくお辞儀する。


「赤坂様、おかえりなさいませ」


 どう考えても、このお兄さんの方が年上だと言うのに。

 頭を下げられたひなたは、軽く手を振る。


「あ、ただいま~」


 マジで、この子。お嬢様だったの?

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