第三十九章 挽回デート

第333話 女の子の家に招待されたからって、過度な期待はダメ


 いつか、出会ってしまうとは思っていたが……。

 こんな早くに遭遇するなんて、俺には想像できなかった。


 部外者だと言うのに、勝手に高校へ侵入するし。

 全日制コースの女子高生たちの胸を揉みまくり、アンナを探すなんて……。

 マリアを敵に回すと怖すぎ。


 彼女がその場を立ち去ってから、ずっとミハイルは黙り込んでいた。

 ショックを受けたのも事実だろうが、それよりもマリアへの怒りを抑え込むのに必死みたいだ。

 とりあえず、午後の授業が始まるから、俺は彼に教室へ戻るように促す。


「ミハイル。あ、あの……とりあえず、授業に出よう」

「わかってるって!」

 俺にキレなくても、いいじゃん。


 足早に廊下を歩くミハイルを追いかけようとしたその瞬間だった。

 背後から、肩を掴まれる。

 それも、物凄い力でだ。


「いてて……」

 

 振り返ると、ニコニコと笑うひなたの姿が。

 だが、目が笑ってない。

 これは……絶対に怒っている顔だ。


「センパイ。久しぶりに取材しませんか?」

「え……」

「マリアちゃんの胸を触ったなら、手が汚れているでしょ? 新宮センパイの身体を浄化しておかないと♪」

 これは逆らえば、怖い。

「わ、分かった」


  ※


 結局、その後もミハイルは黙り込んだままで、俺が何を言っても答えてくれなかった。

 怒っているのは分かるが、一体、彼が何を考えているのかが、分からない。

 ただ、俺に対して怒っているのではなく、マリアへの憎しみとだけは、理解できる。



 その日のスクリーングは、静かに終わりを迎えた。

 帰りの電車でも、無言。

 ミハイルの地元である席内駅に着いて「バイバ~イ☆ タクト☆」と、天使のスマイルはもらえず……。


「じゃあな、ミハイル」

 と声をかけても。

「……」

 俯いたまま、駅のホームへと下りて行った。

 こりゃ、重症だな。


  ※


 後日、ひなたから電話がかかってきた。

 次の取材についてだ。


『新宮センパイ、今度の日曜日に久しぶりの取材をしましょ♪』

 この前、マリアに出会って機嫌が悪いと思っていたが。

 偉くご機嫌な彼女に驚く。

「構わんが……どこへ取材に行く?」

『それなら、私もう決めておいたんです! ほら、前に水族館へ行った時。アンナちゃんにデートを邪魔されたじゃないですか~』

「ああ、あれね……」

 もう少しで、アンナが人殺しするところだった回ね。


『私が動物好きって言ったでしょ? なら、誰にも邪魔されないで取材できる場所があるんですよ!』

「誰にも邪魔されない場所……。どこだ?」

『その、ちょっと恥ずかしいんですけど……』

「なんだ? ラブホか?」

『ち、違いますよ! 私の家です!』

「へ……?」



 彼女が言うには、ペットを自宅で飼っているので、遊びに来ないかというお誘いだった。

 なんだ、至って健全な取材だな。

 正直、女の子の家に行くって、結構レアなイベントだと思っていたが。

 小学生以下のレベルだな。


 これなら、アンナも怒らないだろうと、俺は彼女の提案を承諾した。

 そして、電話を切った直後、すぐにスマホのベルが鳴る。


 流れ出した音楽は、アイドル声優のYUIKAちゃんの新曲。

『永遠永年』

 う~ん、癒されるぅ~


 着信名は、アンナだ。


『もしもしぃ☆ タッくん?』

 お。あれ以来、連絡なかったのに、機嫌が良いな。

「ああ。久しぶりだな。アンナ」

 スクリーングの時も話してくれなかったら、俺までテンションが上がる。

『この前は泣いちゃって……ごめんね』

「いや、こっちこそ悪かったな。傷つけて」

『ううん。いいの。アンナも落ち込んでいられないから☆』

 やっと仲直りできた気がして、俺もホッとする。



『ところで、タッくん。今度の日曜日、空いてる? この前さ、なんか悲しい最後だったから、また取材したくて☆』

「ああ、それならもちろん……」


 ヤベッ。日曜日はひなたと取材する約束で埋ってた。

 せっかく、仲直りできたのに。

 バレたらまた彼女の機嫌を損ねる。



「あのな……実はその日、仕事が入ってるんだ。悪い。また次回で良いか?」

 自分で喋っていて、なんて歯切れが悪いんだと感じた。

『しごと? タッくんが?』

 急に声が低くなった!

 疑われているよ~

「そ、そう! ちょっと、編集に頼まれてな。参ったよ、ハハハ!」

 毎度毎度、すまん。白金。

『ふーん、小説の取材なのかなぁ? どこに行くの?』

「えっと……梶木辺りです」

 恐怖から、正直に答えてしまった。

 しかし、梶木と言っても広いからな。

 ひなたの自宅を見つけるのは、容易ではない。


 俺が行く場所だけを知らせると、アンナは声が明るくなる。

『そっか☆ 分かった。タッくんはお仕事なんだから、絶対に邪魔しないよ☆ アンナ、宗像先生と約束したし☆』

「あぁ……仕事なので、配慮してくれると幸いです」

『任せて☆ アンナはタッくんの味方だから!』


 俺の味方ってことは……他の女たちは全員、敵ってことですよね?

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