第320話 男の娘とデートした方がリア充に決まってんじゃん!


 俺とマリアの半生を映像化したような謎の予告を鑑賞したおかげで、隣りに座るアンナはブチギレていた。

「今日はボリキュア15周年なのに……タッくんとの初めてが汚された!」

「……」

 その剣幕と言ったら、鬼そのものだ。

 俺は、恐怖から縮こまってしまう。



 だが、本編が開始されると同時に、その重たい空気は一変する。

 可愛らしいボリキュアのキャラクター達が登場し、チケットを購入した際に特典としてもらったペンライトの説明を始める。


『良い子のみんなぁ~ このペンライトは人に向かって点けたら絶対にダメクポ!』


 ほう、初代ボリキュアの『クップル』か。懐かしいな。

 クップルとは、シリーズに登場する妖精の一人だ。


『わかったら、みんな。お返事するクポよ!』


 すると、周りにいた幼女達が元気よく叫び始めた。


「「「は~い」」」


 幼稚園かよ……。

 もちろん、お父さんお母さんは終始、我が子が喜んで叫んでいる姿を黙って見守っているが。

 一人、例外がいた。

 うちのお友達。アンナちゃんだ。


「はーーーい!」


 一番デカい声で叫びやがるから、隣りにいた俺は思わず、両手で耳を塞ぐ。

 まあ、本人は楽しんでいるし、いいか……。


  ※


 ペンライトの説明とショートアニメが終わると、いよいよ本編の開始だ。

 映画館でアニメを見るなんて、いつ以来だろう……。

 確かに15周年と言うだけあって、制作陣の気合を感じる。

 CGも使われてるし、ぬるぬるとキャラ達が動く。


 ボーッと幼女向けアニメを大画面で眺める。

 俺は正直、興味がないから、アンナとの間に温度差を感じていた。

 精々が出演している声優さんをチェックするぐらいだ。


「あ、“マゴ”だ。YUIKAちゃんも出てたのか……」


 なんて声優さんたちの演技に感心していると。

 隣りに座っているアンナの様子がおかしい。

 両手で肩を抱え、ガタガタと震えていた。

 別に怖いシーンでもないのに。


「アンナ。どうした? ボリキュアがつまらないのか?」

「ううん……楽しいんだけど。映画館の冷房が効き過ぎて、身体が冷えちゃった」

「寒いのか?」

「うん……」


 そう言えば、ミハイルの時にも冷房が苦手だと言っていたな。

 俺からしたら、心地よいぐらいなのだが。

 しかし、あんなに楽しみにしていたのに、このまま震えて映画を観るのはかわいそうだ。

 どうしたものか。

 俺はTシャツだから、脱いで着せてやることは不可能だし……。

 

 一人、悩んでいると何を思ったのか、彼女が俺の左肩にこつんと頭を乗せてきた。

 そして、腕を組む……というよりは自身の胸に引き寄せる感じで、密着する。

 一瞬ドキッとしたが、寒いから仕方ないのだろう。


「ごめんね。寒いから……」

 と上目遣いで訴えかける。

「……いや、構わん。アンナが望むなら俺が助力しよう」

「え?」

「肩が冷えるんだろ? 俺は寒くないから、暖めてやろうか?」

 俺の提案にアンナは、一瞬目を丸くしたが嬉しそうに微笑む。

「じゃあ……お願い」

「了解した」


 彼女からの合意を得たことで、俺は自身の片腕でアンナの身体を包んであげる。

「あったかぁい」

 この間も、アンナは俺の肩に頭を乗せたままだ。

 俺は、彼女の華奢な身体をギュッと引き寄せて、更に密着させる。


 あれ……今の俺たちがやっていることって、マジのカップルじゃね?

 よく一人で映画館へ行った時に後ろから見かける光景。

 イチャイチャするクソカップルのせいで、映画を純粋に楽しめなかった、アレだ。


「タッくん、優しい☆」

「いや、女の子が寒がってるなら、当然の行為だ」


 またアンナを女子扱いしてる自分に気がつく。

 もう嫌だ……。


 でも、正直憧れていた光景だったんだよな。

 相手が女装男子だし、観ている映画が超お子様向けだけど。

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