第318話 大きなお友達二人、再び 


 無事にペンライトをゲットできたアンナは、終始ご機嫌だった。

 その代償として、俺は人間として大事なものを失ったが……。


 チケット売り場の左からエスカレーターに乗る。

 相変わらず、スクリーンまでが長い。

 でも、それがこの映画館の楽しみ方でもある。

 左側には一面ガラス張りの窓で、上に昇るに連れて、カナルシティを一望できる。

 ついでと言っちゃなんだが、隣接している高級ホテルの屋上も見られる。

 俺みたいな貧乏人には、無縁の建物だが。

 立派な和風の庭園があり、一つ小さな古風の家らしき建物がポツンと立っている。


 きっとあれだ。

 上流階級の奴らがお見合い的な事をするんだろう……。

 なんて、勝手な妄想を膨らませていると。

 隣りにいたアンナが手を叩いて見せる。


「そうだ。まだ朝ご飯食べてないよね?」

「ああ、アンナがそう指示したからな」

 おかげで、眩暈が起きそう。

「じゃあさ。ボリキュアを観ながら、二人で朝ご飯を食べようよ☆」

「暗い中でか?」

「うん☆ タッくんは先にスクリーンの中で待っててよ☆ アンナが用意してくるから」

 と嬉しそうに笑う。

「?」


 映画館で飯を食うなんて……。

 まあ別に音を立てずに食わなければ、マナー違反ではないかな。

 しかし、この売店にご飯なんて売っていたか?

 精々がポップコーンぐらいだったような。


  ※


 俺は彼女に言われた通り、ひとりスクリーンの中で待つことにした。

 入ってみると、いつもと違った客層に飲み込まれそうになる。

 辺りを見回せば……。


「きゃははは」

「ママ、ボリキュアだぁ~」

「ライト。ライトぉ~!」


 なんて鼻水を垂らしている幼女ばかり。

 場違い過ぎる。

 ほとんどが家族連れって感じで、大人もいるけど、あくまでも付き添い。

 近くにいたお母さんと目が合えば、「うわっ」とドン引きされる始末。


 俺だって彼女の付き添いだもん! 大友、扱いしないで!



 アンナが購入した指定席は、劇場の真ん中あたりで一番観やすいシート。

 ただ、普通の座席と違い、ひじ掛けがない。

 ソファーのようなシートだ。

 どうやら、ファミリー向けの座席らしい。

「最近はこんなサービスがあるんだな」

 ポンポンと誰もいないシートを叩いてみる。

 すると、色白の長い脚が2つ現れた。

 見上げれば、ニッコリと笑う金髪のハーフ美少女が。

「お待たせ☆ 朝ご飯買ってきたよ☆」

 大きなトレーを持っている。

「おお……」

 慌てて手をどけ、隣りに彼女を座らせる。


  ※


「やっぱりボリキュアの15周年だから、アンナ達もお祝いしないと、って思ったんだ☆」

「……」

 俺はトレーの上に並ぶ朝食を見て、絶句する。

「じゃあ映画始まる前に食べよっか☆」

「あ、ああ……」


 アンナが用意してくれた朝ご飯は。

 プラスチック製のオリジナルドリンクカップホルダー。

 もちろん、カップにはボリキュアシリーズの歴代キャラクターが総勢55人もプリントされている。

 ストローの部分はピンクのハートの飾りつき♪

 とってもカワイイよ!


 お次は、メインの料理だが。

 大手ドーナツ専門店の『ミス・ドーナツ』の袋が置かれていた。

 中を開けると、3つドーナツが入っていることを確認できる。

 1つ取り出してみると。

 これまた可愛らしいオリジナルスリーブに入ったボリキュアのドーナツが……。

 ハートの形をしたドーナツで、女の子が喜ぶようなピンク色。

 つまり、ストロベリーチョコだ。

 あとの味も確認してみたが、全部同じものだった。



「女の子ってこういうの、いつまでも大好きだもんね☆ タッくん。ここ大事な所だからしっかり覚えておいてね。ちゃんと取材して☆」

「はい……」

 朝から甘いストロベリーチョコを三個も食わせられる苦行。

 だが、唯一の救いはアンナが買ってきたドリンクの中身が、無糖のブラックコーヒーだったことだ。

 胃もたれしないですみそう……。

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