第309話 股間は正直


 10年ぶりに再会したマリアは、自ら俺の取材対象として、立候補した。

 そして、「タクトを必ずもう一度振り向かせる」と宣言。



 彼女はとりあえず、今後のことがあるからと連絡先を交換することを提案する。

 それを聞いた俺はすぐに、L●NEの交換だと察して、断ろうとした。

「悪い、マリア。L●NEだけは無理なんだ」

 歯切れ悪く答えると、彼女は首を傾げる。

「なんのこと? 私が知りたいのは、メールアドレスと電話番号なのだけど」

「え…今の時代、L●NEが主流なのでは?」

 俺がそう言うと、マリアは鼻で笑う。

「あのアプリは既読スルーとかいう、いじめが横行していると聞くわ。だから私は嫌い。連絡先と言えば、メールアドレスと電話番号で充分だわ」

 意外な彼女の答えに、思わず吹き出してしまう。

「ふっ、同じだな……」

「な、なによ! 私が時代遅れの女だって言いたいの!?」

 顔を赤くして、怒り出す。

「いや。マリアは変わらないなって思ったんだよ」

「そ、そういうタクトもね……」


  ※


 聞けば、マリアはまだ日本に帰国して間もないらしく。

 両親と博多付近のホテルで暮らしているそうだ。

 これから、親子で住まいを探すそうな。

 連絡先も交換したし、今後はいつでも会える……わけではないが、とりあえず彼女も俺の小説のために取材してくれる。

 

 マリアに別れを告げた俺は、急いで小倉行きの列車に飛び込む。

 ずっと気になっていたことがある。

 それは、うちのメインヒロイン。アンナのことだ。

 10年ぶりにマリアに出会って確信した。

 アンナとマリアを会わせるのは、絶対に危険だ。

 流血沙汰なんてもんじゃないだろう。


 今後、取材と称してデートを繰り返すにしても、あの2人だけは顔を合わせることだけは避けた方がいい。

 すぐさま、スマホを取り出して、画面を確認する。

 案の定、L●NEの通知が鬼のように入っていた。

 未読メッセージが9987件……。


 お、恐ろしい。

 読むのも面倒だ。


『タッくん。サイン会、まだ終わらないの?』

『アンナはタッくんのマンガを50回は読み直したよ☆』

『今、なにしてるの? ファンの女の子に変なことされてない?』


「……」

 ファンの女の子と変なことはしていました。

 ノーブラの生乳を揉み揉みしていたよ♪ なんて返信できない!

 ていうか、マリアは正真正銘の女の子だから、初めてのパイ揉みだったのか?

 いや、女装男子のアンナもなかなかに気持ちが良くて、あの感触を思い出すだけでも、股間が元気に……。

「あ」

 ここで俺は気がつく。

 ミハイルの水着姿ですら、俺の股間はパンパン。

 アンナの水着の時は、カチンコチン。

 でも……女のマリアをダイレクトに揉ませて頂いたというのに……。

 無反応だった!?


 オーマイガッ!


 列車内の汚い床に座り込み、うずくまる。

 そして念仏のように、一人ブツブツと口から言の葉を吐き出す。


「俺はノンケ……俺はノンケ…ノンケ……ノンケだってば……」


 その後、帰宅するまでの記憶がほとんど無い。

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