第十四章 アフタースクール

第100話 破天荒教師

 俺たちは各選択科目の授業(地獄)を終えて、教室に戻った。

 みんなクタクタのようで、机の上に頭を乗せる。


「疲れたぁ……」


 右隣を見れば、ミハイルが妊娠初期に見られるようなマタニティーブルーを発症していた。

 まあ2時間も中年オヤジの生ケツを拝んでいたんだ。

 俺でさえ、思い出すだけで吐き気を感じる。


 そこへ、教室の扉がガンッ! と勢いよく開く。


「よぉーし、みんな最後まで授業受けられたな! いい子いい子」


 満足に笑う痴女教師、宗像 蘭(独身、アラサー)

 褒められているんだろうが、けなされているようにも感じるのは疲れたからでしょうか?


「さあレポートを返却するぞぉ~」


 そもそもレポートって返却する必要あんのかな?

 いらねーし、邪魔だし捨てたい。


「一番、新宮!」

「はぁい」

 弱弱しい声で返事すると、またいつもの如くキレる宗像。


「なんだ!? その覇気のない声は腹から声を出せ!」

 うるせぇ、俺はさっきまで尻から声を出していた音楽教師を見ていて、吐きそうなんだよ!

「はぁい……」

「なんだ? 本当に元気ないな。よし尻を叩いてやろう」

 宣告通り、10代男子のケツをブッ叩くセクハラ教師。

「いって!」

 返却されたレポートはいつも通りの満点オールA。


「2番、古賀!」

「は、はい……」

 ミハイルは本当に先ほどの音楽が辛かったようでPTSDを発症している。

 今にも吐きそうな顔色だった。


「なんだ? 古賀まで元気ないな……よし尻を叩いてやろう」

 お前はただの尻フェチだろ!

 俺にしたように思いきりケツをブッ叩く宗像先生。

「キャッ!」

 相変わらず、可愛い声だ。

 桃のような小尻をさすりながらトボトボ戻ってくる。


「ミハイル、今回は成績どうだった?」

「あ、えっと……少し上がってた」

 頬を赤く染める金髪少年。

「ほう、Dか?」

 下から2番目てことです。


「ううん、BとかC……」

「なん……だと!?」

 あのおバカなミハイルちゃんが成績アップとか、お母さん泣いちゃう。



「あ、アンナのやつがさ、勉強しないとダメだって言うからさ……」

 それ多重人格じゃないですか?

 お友達少ないんですね。


「ほう、アンナがミハイルに勉強を薦めたと?」

「うん、タクトと一緒に卒業したいし……」

 チラチラと俺の顔色を伺う。

「頑張ったな、ミハイル。これからもその調子だ」

「うん! 頑張る☆」

 入学したときより、随分丸くなったわね。ヤンキーのくせして。



 そうこうしているうちにレポートは生徒全員に返却し終わっていた。

 やっとスクーリングが終わると思うとみんな安堵のため息が漏れる。

「さ、帰るか」

「うん☆ 一緒に帰ろうぜ、タクト☆」

 俺とミハイルが立ち上がろうとしたその瞬間だった。



 バーン! という衝撃音が教室中に響き渡る。


「な~にをやっとるか! 新宮、古賀!」


 鬼の形相で黒板を叩いていたのは宗像先生。



「え? もう帰っていいでしょ?」

「バカモン! 朝のホームルームで放課後はパーティをすると言っただろうがっ!」

 そげん怒らんでもよかばい。


「パーティ?」

「そうだ、一ツ橋の生徒たちは今から三ツ橋のグラウンドに集合だ! 帰ろうとしたやつは今日の出席をノーカンとする!」

 パワハラだ。



 俺たちは宗像先生の圧(脅し)のせいで、授業を終えたのに三ツ橋高校のグラウンドに向かった。

 グラウンドには野球部や陸上部、サッカー部の生徒たちが練習している。

 そのど真ん中にテントが二つ組み立てられていた。

 テントには『三ツ橋高校』と書いてある。


 先客がいた。

 一ツ橋高校の若い男性教師たちが2人ほど。

 テントの中でバーベキューを始めている。

 

「あ、おつかれさま。どこでも好きに座っていいよ」

 汗だくになりながら、肉と野菜を包丁で切り分けている。


「は、はぁ……宗像先生にパーティだって聞いたんすけど」

「ああ、新入生の歓迎会だよ」

 酷い歓迎会だぜ…。

 だって、全日制コースの連中が汗だくになりながら、部活やっているなかで俺たちはパーティとか、居心地が悪いったらありゃしない。


 そこへバカでかいクーラーボックスを4つも抱えた宗像先生が現れる。

 サングラス姿で、海でナンパ待ちするヤ●マン女みたい。


「うーし、好きなの飲めよ!」


 ドカンと地面にクーラーボックスを落とすと、蓋をあける。

 中にはたくさんの氷と缶が。

 しかし、全て酒ばかり……。

 飲めるか!


 と、俺が躊躇していると、ヤンキーやリア充集団が我も我もと群がってくる。

 キンキンに冷えたビールを手に取る。


 おいおい、こいつら未成年じゃないのか?

「宗像先生、さすがに酒はダメなんじゃ……」

 俺が声をかけているが時既に遅し。

 宗像先生はゴクゴクとハイボールを喉に流し込んでいた。


「プヘーーーッ! うまいな、仕事あがりの一杯は!」


 人の話を聞けよ、バカヤロー!

 だいたい、お前はまだ仕事中だろうが。


「先生、話聞いてます?」

「あ、新宮。どうした? お前も飲めよ」

 だから未成年だってんだろ!

「いや法律は守りましょうよ」

「なにを言っているんだ、お前は? 周りをよく見ろ、みんな飲んでいるだろうが?」

 まるで俺が間違っているような言いぐさだ。

 だが、宗像先生の言う通り周りの生徒たちは皆、ビールを飲み始めている。

 ハゲの千鳥なんかは焼酎を嗜んでらっしゃる。


「かぁー、やっぱ焼酎は芋だわ~」

 既にアル中じゃねーか。


 異常だ、イカれてやがるぜ、この高校。

 その証拠に部活動に励んでいた三ツ橋高校の生徒たちは練習を止めて、こちらに釘付けだ。


「さ、新宮も飲め!」

 ビールを差し出すバカ教師。

「飲めませんて! 俺は未成年ですよ?」

「あぁ!? たっく、ノリの悪いやつだ……」

 タバコも飲酒もOKな高校とかどうなっているんですか?


「仕方ない、酒の飲めないやつは近くの自動販売機でジュースでも買ってこい」

 未成年たくさんいるのに酒しか用意してないとか、バカだろう。

「ええ……」

「文句言うな! 金なら払ってやる!」

「それならいいっすけど……」

 当然、俺は酒を飲まないし飲めないので、グラウンドから出て自動販売機に向かう。


 俺以外にもけっこうというか、かなりの人数で飲み物を買いに行く。

 よかった、俺だけがまともな生徒かと思っていたから……。

 見れば、ヤンキーやリア充グループを除く陰キャメンバーばかりだった。

 北神 ほのかや日田兄弟などの真面目なメンツ。

 

「待ってよ、タクト!」

 慌てて俺の元へと走るミハイル。

「どうした? お前は酒を飲まないのか?」

 タバコも吸っていたんだから、飲めるのかと思ってたいたが。

「え? オレは酒飲まないよ? ねーちゃんがお酒は二十歳になってからって言ってたし……」

 じゃあタバコも教育しとけよ、あのバカ姉貴。


「そ、そうか。なら一緒に買いに行くか?」

「うん、オレはいちごミルクがいいな☆」

 相変わらず可愛いご趣味で。

「タクトはいつものブラックコーヒーだろ☆」

「まあな」


 自販機につくと軽く行列ができていた。

 無能な教師のせいでパシリにされる生徒たち。

 大半が一ツ橋の陰キャどもだが。


 俺とミハイルが駄弁っているとそこへ一人の少女が声をかけてきた。

「あ、新宮センパイ! こんなところでなにをしているんですか?」

 振り返ると体操服にブルマ姿のJKが。

 小麦色に焼けた細い太ももが拝めるオプション付きだ。


「ん? お前は……」

「あ、また忘れてたでしょ!?」

 ボーイッシュなショートカットに活発な少女。

 そうだ、三ツ橋高校の赤坂 ひなただ。


「おお、ひなただろ? 忘れてないよ」

「もう! ところで一ツ橋高校は何かイベントですか?」

「歓迎会だそうだ、今からみんなでパーティだと」

「へぇ……いいなぁ」

 いや、ただの酒好きな教師の自己満足だから、期待しないで。


「一ツ橋のパーティなんだから、ひなたは入れないぞ☆」

 何やら嬉しそうに語るよな、ミハイルくん。


「はぁ? 三ツ橋だって関係者でしょ? 私、一ツ橋の先生に直訴してきます!」

 やめろ! あんな無責任教師に一般生徒を巻き込みたくない。

 赤坂 ひなたは顔を真っ赤にしてズカズカとグラウンドの方へ向かっていた。

 忙しいヤツだ。

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