第101話 あってはならない放課後
俺たち真面目組がジュースを買ってグラウンドに戻ると、パーティ会場はかなり盛り上げっていた。
そして、周りで部活している三ツ橋高校の生徒たちは口を開いたまま、中央のテントに目が釘付けだ。
悪目立ちしている。
なんか真面目に青春されているのに申し訳ないです。
うちのバカ教師のせいで。
テントに入ると先ほど話していた制服組の赤坂 ひなたが宗像先生と何やら話している。
「あの、私。三ツ橋の生徒なんですけど、途中参加してもいいですか?」
「え、別に構わんぞ? だって今日のパーティは全部経費で落ちるし」
「良かったぁ」
おいおい、経費ってどこから出てるんですか?
まさか俺たちの学費から落ちてるんじゃないのか。
だとしたら、三ツ橋の生徒に奢ってやるどおりはない。
「ちょっと待ってよ、宗像センセー! ひなたは一ツ橋の生徒じゃないっすよ!」
もっと言ってやって、ミハイルくん。
「はぁ? 別にどうだっていいだろ。人が多ければその分、酒はうまい!」
と言ってハイボールを一気飲みする宗像先生。
すっかりリラックスしていて、アウトドアチェアに腰を深く落とし、地面には既に10缶も転がっていた。
「でも……」
唇をとんがらせるミハイル。
「まあ固いこと言うな、古賀。お前はほれ、そこのシートに新宮と座れ」
「え……タクトと一緒に?」
なぜか頬を赤く染める。
「だってお前らいつも一緒じゃないか? 仲良しなんだろ?」
言いながらスルメを咥える。
「ですよね! オレたち、ダチなんで☆」
ただのダチではないけどね。
「だろ? ほれ、早くみんな座ってバーベキューを始めるぞ!」
俺たちは宗像先生に指示された通り、広げられた大きなブルーシートに腰を下ろす。
既に酒を飲んでいた不真面目組はギャーギャー言いながらはしゃいでいる。
シートの隣りでは若い男性教師が汗だくになりながら、バーベキューコンロで肉を焼いている。
責任者である宗像教師は一人、酒を楽しんでいる。
この男性教師たちは宗像先生に弱みでも握られているのだろうか?
「さあ焼けたよ~」
焼き係の教師が、こんがり焼けた肉を紙皿に移して皆に配る。
俺の元へたどり着いたが、焼き肉用の肉にしてはどこか違和感を覚える。
「なんかこの肉、小さくないか?」
近くいた北神 ほのかにたずねる。
「確かに焼き肉用にしては小さく切ってあるよね」
そこへ料理上手なミハイルさんが解説を始める。
「きっとこれは焼き肉用のカルビじゃなくて、こま切れ肉だな☆」
頼んでもない説明をどうもありがとう。
おかげでメシが不味くなりました。
「まあただでさえ三ツ橋より、生徒の人数も少ないから金がないんだろな」
俺がそう言うと、宗像先生がイスから立ち上がった。
「新宮! 失礼なことを言うな! 今回の焼き肉は三ツ橋高校から提供してもらっているんだぞ!」
「え? つまり、三ツ橋高校の校長先生が俺たちのために?」
「バカモン! 私が昨日の晩に三ツ橋高校の食堂からかっぱらってきたに決まってんだろが!」
犯罪じゃねーか。
「じゃ、経費で何を使ったんですか?」
「全部、酒とつまみだ」
宗像先生はテントの奥からスーパーのビニール袋をたくさん持ってきた。
ブルーシートにつまみをぶちまける。
と言ってもほとんどが豆だの干物とか、缶詰、キムチ、たくわん……。
上級者向けのおやつですね。
こんなもんに俺たちの学費は使われたのか……。
退学をそろそろ申請したい。
「ま、良くないですか?」
そう声を上げたのはブルマ姿の赤坂 ひなた。
ちゃっかり、俺の左隣に座っている。
しれっと太ももが俺の足にピッタリくっついて、思わずドキっとしてしまう。
「良くないだろ? 三ツ橋の食堂から食材を無断で使うとか。宗像先生、懲戒免職処分食らうんじゃないか?」
現実になったらいいのにな~
「大丈夫ですよ、うちの校長先生ってけっこう心広いですし」
神対応で草。
「そうだぞ、新宮! 滅多なことを言うんじゃない! だから黙って食え!」
お前の職に関わることだから、必死になっているんだろうが。
「ですが、宗像先生。さすがに酒はまずくないですか? 一ツ橋の生徒たちは未成年も多いでしょ?」
「ああん?」
顔をしかめて、俺の目の前にドシン! と座ってあぐらをかく。
「いいか、新宮。大半の生徒たちは既に職についている学生が多い。よって学費は自腹だ。お前もその一人だろ?」
「まあ、そうですけど」
「なら未成年だろうと喫煙や飲酒は私たち教師では止められない」
それ重症の中毒患者ですよ。
アル中病棟、紹介しましょうか?
「それは人によりけりでしょ?」
「確かに新宮のようなぼっちで根暗な仕事をしているやつじゃ、わからんだろうな」
頭を抱える宗像教師。
というか、新聞配達をディスするな!
店長に謝れ!
夜中に一回、配ってみろ! 誰もいない住宅街は超怖いんだぞ、暗くて。
「そんな俺だけが珍しいみたいな言い方……」
「あのな、新宮。わかってやれよ、あいつらのことも」
そう言うと、既に顔を赤くして出来上がっている不真面目組を指差す。
千鳥 力に至っては裸踊りを始めていた。
マッチョでいいケツしてんなー ってその気がある方なら嬉しいでしょうね。
隣りでギャルの花鶴 ここあはテントを支えているパイプを使ってポールダンスを始めていた。
パンツ丸見えで周りのヤンキーたちがヒューヒュー口笛をならす。
無法地帯。半グレ集団の集まりじゃないですか?
「アレのことですか?」
俺は呆れながら、答えた。
「そうだ、あんなバカな奴らだって苦労してんだよ。毎日重労働して、たまに勉強してだな……」
今、たまに言ったよね? 毎日しろよ。
「だからな、仕事していたら、成人の先輩や上司、同僚と飲んだりする機会も増えるわけだ」
「つまり付き合いで飲んでいると?」
ブラック企業じゃないですか。そこは社内で厳しくしましょうよ。
「ま、そんなとこだ。だから、未成年であろうと奴らは必死に毎日働いて自分の金でメシを食っているやつらだぞ? 立派な社会人だろう」
宗像先生の言いたいことは衣食住を全て自分で払っているので、大人として認識しろと言う事なのだろう。
「なるほど……」
「だいたい、お前も大学とか言ってみろ。18歳で普通にコンパで酒飲ませられるぞ?」
「え、そうなんですか?」
「そうだぞ、先輩の言うことを聞かないとハブられるしな」
うわぁ、大学に行かないようにしよっと。
「タクト、二十歳になったら一緒にお酒飲もうぜ☆」
ミハイルが言う。
「は? 俺は別に酒を飲みたいわけじゃないぞ?」
「え、同い年の力やここあが飲んでいるから、うらやましいんじゃないの?」
一緒にするな、あんな奴らと。
「いいや、俺は物事を白黒ハッキリさせないとダメな性分だと言っただろ。だからああいうのは嫌いなんだよ」
「じゃ、アンナが大人になったら……一緒に飲んでくれないの?」
瞳を潤わせて、上目遣いで見つめる。
「まあアンナが二十歳になるまで待つよ。2歳下だしな」
「そ、そっか……同級生だから年の差、忘れてたや☆」
おいおい、今度はブルーシートがお友達に追加されたぞ。
顔を赤くしてモジモジしながら、ウインナーを咥える。
「あむっ、んぐっんぐっ……ハァハァ、おいし☆」
わざとやってない? そのいやらしいASMR。
「さっきから聞いてりゃ、男同士でなにやってんのよ!」
振り返ると顔を真っ赤にしてこちらを睨む北神 ほのかがいた。
「ど、どうした? ほのか」
「うるせぇ! さっさと絡めってんだよ、バカヤロー!」
「バ、バカヤロー?」
一体どうしたんだ、ほのかのやつ。
「そうっすよ、センパイ! アンナとか言うチートハーフ女、どこにいるんすか? ぶっ飛ばしてやるよ、コノヤロー!」
先ほどまで静かにジュースを飲んでいた赤坂 ひなたまで顔が真っ赤だ。
「コ、コノヤロー?」
こいつらどうしたんだ?
俺に詰め寄るほのかとひなた。
気がつけば、二人に抱きしめられていた。
わぁーい、おっぱいとおっぱいがほっぺに当たって気持ちいいな~
とか思うか、バカヤロー!
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