第58話 露天風呂での攻防と

【紫垣美月】


「ふぃ~、いいお湯だね~」


「貸し切り状態というのもありがたいわね」


 優香先輩がリラックスした声を上げて、玲奈先輩も頬を緩める。


「割といっつもこんな感じなんすよねー。秘湯、みたいな?」


 ウチは、なんとなく得意な気分になりがらそう説明した。

 実際、この露天風呂に人がいんのってあんま見たことないしねー。


「……ところでさ」


 ふと、優香先輩か何か思いついたような表情になる。


「ここって、男湯とは近いの?」


「や、結構離れてるっす。だから、覗かれる心配とかもないんで安心してよね」


「……ふーん」


 あれ……? 優香先輩、なんでちょっと残念そうなんだろ……?


「この子のことだから、どうせ覗かれる心配よりも自分が覗くことを考えていたんでしょう」


「そ、そこまでは考えてないし!」


 そこまでは……ってことは、そこそこは考えてたってこと?


「ただほら、こんなに貸切状態だったらさ! 壁越しに会話、とかもしてみたかったじゃん!」


 あー、なるほどね?

 漫画とかでよくあるやつね?


「ふっ……お互い裸でいる状態で会話することに興奮を覚えるだなんて、痴女らしいわね」


「今のをそう解釈する方が痴女だと思うけど!?」


 うーん……今のは、ウチ的にもどっちかっつーと優香先輩寄り?


「あっ、そういえば痴女といえばさ」


「その話題は却下よ」


「まだ何も話してないでしょ!?」


「痴女といえば、で始まる話が碌なものであるはずないでしょう」


 うーん……今度は、どっちかっつーと玲奈先輩寄りかなー。


「いやまぁ今のは、アタシの切り出し方も悪かったところは認めるけどさ……今回、水着は無しって話で全員持ってこなかったじゃん?」


「……えぇ、そうね。なぜ痴女からその話に繋がったのかは知らないけれど」


「それはまぁ、プールの時の自省を思い出して……」


「……?」


 ウチは当然何の話かわからなかったけど、玲奈先輩もわかってないっぽい?


「それはともかく」


 パン、って仕切り直すように優香先輩は手を叩く。


「今更だけど……あれ、ごめんね?」


「どういうこと……?」


 今回も、玲奈先輩はやっぱりよくわかってないみたい。

 もちろん、ウチは全くわかんにゃい。


「や、玲奈のフィールドを勝手に潰しちゃった感じでさ。今回アタシばっかり、BBQとかで株を上げて申し訳なく思い始めたんだよね」


 はー、なるほどね?

 やっぱよくわからん。


「後半についてはツッコミを入れないでおいていてあげるけど……水着は、どう考えても貴女のフィールドでしょう?」


「いやいや、水着じゃ玲奈には敵わないって」


「……嫌味とは、貴女らしくないわね」


「や、真面目に真面目に。だってさー」


 なんて言いながら、優香先輩は視線をちょっと下げた。

 天然温泉で白く濁ってるけど、カノパイたちの身体はちゃんと確認出来る。


「そのプロポーションは反則でしょ」


 あー、確かにね?

 玲奈先輩のスタイルは、確かにヤバい。


 ウチもさっき見た時、「うお美しっ」って思わず独り言漏らしちゃったもん。


「反則級の胸を持っている貴女に言われても、嫌味にしか聞こえないのだけれど」


 これも、確かにね。


 ウチもさっき見た時、「うおデカっ」って思わず独り言漏らしちゃったもん。


「ぶっちゃけアタシも玲奈の水着姿を見るまでは、質量の差で勝てると思ってたよ」


「実際、勝っているでしょうに」


 これに関しては……うーん、引き分け!


 や、どっちも凄すぎだって。

 この二人からカノジョを選ぶだなんて、コウ先輩も贅沢だよねー。


「胸だけ大きくたって仕方ないの! 玲奈みたいに神ったバランスには勝てないの!」


「そんな抽象的な尺度より、優香のようにハッキリと数字で出るものの方が強いに決まっているでしょう」


「なら具体的に言っちゃいますけど! すらっとした手足に引き締まった身体、程よい胸の膨らみ! はー? それ、神が作り給うたやつですかー?」


「部活で鍛えているだけあって、貴女の方が引き締まっているでしょうに」


「アタシのは筋肉質過ぎて、ちょっと女の子ポイント低いの!」


「そんなことはないし、大体貴女の胸は大きいクセに張りもあってズルいのよ」


「だけど、プールの時だって男の人は玲奈の方ばっか見てたじゃん!」


「そのセリフ、そっくりそのまま返すけれど?」


 ところで……いつもだったら、程よいとこでコウ先輩が止めるわけだけど。

 もしかして今回、それってウチがやらないといけない感じなの?


「ていうか、裸を改めて見て思ったけどさー! 玲奈、肌綺麗過ぎ!」


「貴女の肌だって、健康的に日焼けして魅力的じゃないの。それに、日焼け跡というギャップを用いた反則技まで……チッ、なんて忌々しい」


 ……うん、まぁ、ていうかさ。


「ギャップって意味なら、玲奈なんて深窓の令嬢みたいな顔して結構鍛えられてるっていうギャップがあるじゃん!」


「それを言うなら優香こそ、柔らかい胸部からのしっかり鍛えられた腹部というギャップまであるでしょう」


「ぷっ、あっははははははははは!」


『……?』


 思わず笑いだしちゃったウチに、一旦言い争いを止めた二人の視線が集まった。


「カノパイたち、なにで喧嘩してんのそれ!」


『何って……』


 カノパイたちは、顔を見合わせる。


「玲奈の身体の方が魅力的だってのに、本人が頑なに認めないんだもん!」


「それは、優香の身体の方が優れているという揺るがぬ事実があるのだから当然よ」


「あっはははははは!」


 お互いを指してそんなことを言う二人に、笑いが止まらなかった。


「めっちゃ褒めるじゃん! てか、めっちゃ褒めれるとこ知ってんじゃん! カノパイたち、お互い大好き過ぎっしょ!」


『別にそんな!』


 カノパイたちは、声を揃えて。


「……まぁ、嫌いというわけではないけれど」


「アタシも……好きっちゃ好きだけどさ……」


「あははははははははははは!」


 ちょっと赤くなった顔を逸らし合うのも息ピッタリで、もうホント笑いが止まんない。


 やー、たーのしいなぁ。


 優香先輩も玲奈先輩も、普段はバチバチにやりあってるクセに超仲良くてさ。

 コウ先輩も含めて、ただ眺めてるだけでも楽しいって感じ。


 ホント、お似合いの三人だよ。

 ははっ、なんて言い方は変かな?


 でも、ホントそんな感じ。


 ……だから。


 そろそろ・・・・、だよね。

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