第57話 BBQ?

「キャンプといえば!」


「BBQ!」


『イェーイ!』


 優香と美月が、ハイテンションでハイタッチを交わす。


 昼食の後で色々遊んだ結果、時刻はもう夕食時。


 ロッジに仕舞われていたバーベキューセットを引っ張り出し、炭に火も入れて準備は万端だ。

 その間に、優香が材料も全て切ってくれていた。


「あっ、ちなみにだけどさ。焼きも、アタシに任せてもらっていいかな? アタシ、BBQ得意なんだー」


 と、優香は自信ありげな表情で自身を指す。


「うぃうぃ、そんじゃありがたくお任せしまー」


「あぁ、助かるよ」


 美月と俺は、即答。


 元々料理が得意な優香だし、間違いはないだろう。


「私も別に構わないけれど、こんなものに得意とか不得意とかあるの……?」


 次いで了承しつつも、玲奈は微妙に納得していなそうな表情だ。


「あるんだなー、これが。火の具合を見ながら位置を調節したりとか、上げるタイミングとかさー」


 チッチッチッと指を振った後、優香は迷いのない手付きで材料を網の上に並べていく。


「まずはお野菜から焼いていって、大体お肉と一緒のタイミングで食べれるようにするからね。あっ、各自の前にバランスよく配置してくから他の人のを取らないように注意ね」


「貴女にしては随分と几帳面ね……」


「ふふっ、やっぱ料理となるとねー。どうせなら一番美味しく食べてほしいもん」


「その真面目さが少しでも勉強で発揮出来れば……」


「それは言わないお約束ー! てか、期末はちゃんと頑張ったじゃん!」


 なんて雑談を交わしながら、和やかに焼けるのを待つ。


 しばらく後。


「おっ……このお肉、そろそろいけそうじゃーん?」


「待って紫垣ちゃん!」


 良い感じに焼き上がってきた牛肉に手を伸ばした美月だったけど、優香の鋭い声にビクッとなって固まった。


「まだ一〇秒早い!」


『一〇秒……?』


 やたら細かい指定に俺たちが疑問符を浮かべる中、いつの間にか網の上を見つめる優香の目つきは強敵と対峙する戦士みたいなものになっている。


「カウントダウン……三……二……一……はい、今! お肉ゾーン仕上がったよ! 早く食べて!」


 かと思えば、パンと手を打ち物凄い勢いで自分の前の肉を皿に上げ始めた。


「いや、そんな急かさなくても……」


「無駄口叩かない!」


 苦笑気味の俺の言葉は、ピシャリと遮られる。


「今から一五秒間が最高のタイミングなんだから! 一番美味しいとこで食べたげて!」


『あ、はい……』


 有無を言わさぬ優香の迫力に、俺たちは頷くことしか出来なかった。


「次、二〇秒後にピーマンが仕上がるよ! その後、ウインナー、鶏肉、トウモロコシ、ホタテの順番だから! 間違えないでね!」


 優香の指示に従って、俺たちは黙々と焼き上がった肉や野菜を平らげていく。


 うん、確かに凄く美味しい……美味しいんだけども……。


「ラスト、とうもろこし! はい上げて! 今上げて!」


 すげぇ忙しないな!?


「………………」

「………………」


 チラリと伺うと、同じく黙々と網から上げては食べを繰り返している美月・玲奈と目が合った。

 お互い、同じことを考えているだろうことは明白である。


 そんな、謎の緊張感を伴いながら食べ続けることしばし。


「ふぅ……第一陣、全部上がったね」


 網の上が綺麗に片付いたところで、優香が額の汗を拭う。


 その表情も、すっかりいつもの調子に戻っていた。


「いやぁ、BBQって楽しいよねー!」


 たぶん、本心から言ってる言葉なんだろうとは思う。


 が、しかし、何というか、うん……。


「優香パイセンって、二重人格か何かっすか?」


「あははっ、急に何言い出すのさ紫垣ちゃんったらもー」


 優香は冗談だと受け取ったみたいだけど、正直俺もちょっと同じことを思っていた。


「そんじゃ、第二陣焼いていくからねー」


 特に思うところもなさそうに、優香は楽しげに材料を並べていく。



 ◆   ◆   ◆


 そして、しばらく後。


「はい焼けた! 今焼けたよ! 今すぐ食べてハリーハリーハリー! おっと孝平、おナスは鶏肉の次! 玲奈、そんなお上品に食べてる場合じゃないよBBQを何だと思ってんの!? あっ、紫垣ちゃん玉ねぎ残さないの!」


 うん……BBQって、こんなんだったっけ……?

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