第54話 誰がカレと相部屋になれるかな選手権

 道中で何度か優香と玲奈の衝突はあったものの、無事ロッジに到着して。


「おー、立派なロッジなんだなー」


「でしょでしょー?」


 素直に感心した俺の言葉に、美月が自慢げに頷く。


「中もいい感じだよ! まぁ、まずは掃除しないとだけどね!」


 それだけで貸してくれるってのは、親戚とはいえ破格だよな。


「ドア、オープーン!」


 預かってきた鍵を差し込み、美月が扉を開ける。


「さっ、上がって上がって」


「ははっ、お邪魔します」


 まるで自分の家みたいな物言いにちょっと笑いながら、俺たちも美月に続いて中へと足を踏み入れた。


「なんだ、思ったよか全然綺麗じゃん」


「これなら掃除もそこまで手間はかからなそうね」


 優香と玲奈が言う通り、中も綺麗なものだ。

 流石に埃っぽさは感じるけど、逆に言えばそこさえどうにかすれば大丈夫ってレベルだろう。


「なんだかんだ、大体毎年使ってるからねー」


 と、荷物を降ろしながら美月。


 俺たちも、とりあえず適当な場所に荷物を降ろして。


「おっしゃ、そんな早速掃除を……」


「ちょーっち待った!」


 始めるか、と続けようとしたところを美月に遮られた。


「その前にさー、やることあるっしょー?」


 ニヒヒ、と美月はどこかイタズラっぽく笑う。


「やること……?」


「何かあったかしら……?」


 優香と玲奈が、不思議そうに顔を見合わせた。


 ちなみに、俺も心当たりはない。


「第一回、部屋割決め大会議! 誰がカレと相部屋になれるかな選手権~!」


『っ!?』


 パフパフ~! と楽しげに美月が口で言っている一方、二人の目の色が変わった。


 いや、あの、突然爆弾を落としてくるのはやめてほしいんだけど……。



   ◆   ◆   ◆



【青海玲奈】


 なるほど、相部屋……!

 そういうシステムがあるのね……! 完全に盲点だったわ……!


 ならば孝平くんとの相部屋、確実にゲットしてみせるわ!


 とはいえ、まずは……。


「そういうことなら、まず優香は除外よね」


「はぁ!? ちょっと、真っ先に言うことがそれ!?」


「当然でしょう? 貴女と孝平くんを一晩同じ部屋に入れるだなんて、羊の小屋に狼を放り込むも同然。翌朝には孝平くんが妊娠してしまっているわ」


「せめてアタシが妊娠する側でありたいんだけど!?」


「あー……カノパイたち、ちょっといいっすかー?」


『……?』


 ヒートアップしかけたところで紫垣さんがおずおずと手を挙げるものだから、優香と私は揃った動きで視線を向ける。


「ウチ、ちょっとそういう……シモネタ的なの? は、NGっていうか……」


『あ、はい……』


 そして、顔を赤くした紫垣さんが少し俯いているのを見てそう返すしかなかった。


 思わず、優香と顔を見合わせる。


 ──紫垣ちゃん、このキャラでシモネタNGなんだね……。

 というか、今の会話にシモネタ要素なんてあったかしら……?


 ──うーん、どうだろ……たぶん、『妊娠』ってとこだよね?

 別段妊娠するのは生物としての機能の一つなのだし、特にシモネタではない気がするのだけれど。


 ──まぁでも、そこに至る経緯を仄めかしてるって点ではシモネタなんじゃない?

 なるほど、そういう考えもあるわね。


 ──てかアタシたち、なんかこういうのに慣れすぎてハードル下がってる感があるよね……気をつけた方がいいかも……。

 そうね……まったく、誰かさんのピンクが気付かぬうちに伝染してきているようでゾッとするわ。


 ──断言するけど、そのピンクは元から玲奈の内に存在したピンクだかんね!?


 それはそうと、相変わらずめちゃくちゃ色々と伝わってくるわね優香とのアイコンタクトは……本当にこれ、合っているのかしら……?



   ◆   ◆   ◆



【紅林優香】


 相変わらず失礼しちゃうよね、玲奈ってば。

 自分だってムッツリの癖に、アタシばっかりピンク扱いしてさ。


 って、今はそんなことよりも……。


「それはそうと、玲奈の方こそ! そんな発想が出てくる時点で……!」


 ……夜に二人きりになったら『そういうこと』する気満々じゃん!

 っていうのも、シモネタになるのかな……?


 うーん……微妙な気はするけど、気をつけた方がいいって思ったばっかだし……。


「孝平と、その……仲良くするつもりでしょ!」


 ここまでフワッと言えばセーフっしょ!


「言いがかりはやめてもらえるかしら? 孝平くんと仲良くするつもりなんて……いえ仲良くするつもり自体はあるけれど、今のは一般的な意味での仲良くするであって、夜に仲良くするとかそういう気なんてないわ」


 いや、フワッと言いすぎてめっちゃややこしくなったな!?


 あと、『夜に仲良くする』って普通にシモネタじゃない!?

 逆に意味深すぎる感じになってない!?


「やー、仲良きことは良きことっすねー」


 あっ、でもこれはセーフみたい!


「いーや、玲奈は仲良くする気満々と見たね!」


「ふぅ……まったく、仲良くすることしか頭にないからそういう発想になるのよ」


 ていうかこれアタシたち、端から見たらめっちゃ友達欲しい二人みたいになってない……!? 大丈夫……!?



   ◆   ◆   ◆



【白石孝平】


 なんか、だいぶカオスな感じになってきたな……。

 流石に、ここらで止めるか。


 そもそもの話、相部屋なんて……。


「さーてカノパイたち、冗談はこのくらいにしてそろそろ掃除しよっか」


『……え?』


 大きく伸びをしながらの美月の言葉に、俺たち三人は一瞬固まってしまった。


「……冗談?」


「だったの?」


 玲奈と優香が、頬をヒクつかせている。


「や、そりゃそうっしょ。普通に、一人一部屋あるし。大体、正式なカレカノでもない男女が相部屋なんて無しに決まってんじゃん? こーじょりょーぞく的に?」

『お、おぅ……』


 ここに来てのド正論に、二人とも二の句が継げなくなってるみたいだ。


「ま、まぁ、もちろん? アタシたちだってわかった上でノッてただけだし? ねぇ、玲奈?」


「その通りよ、後輩からのネタ振りだものね……えぇ、それ以上でもそれ以下でもないわ……」


 そう言いながらも、二人の頬は赤くなっていて声もちょっと震えていた。


「ははっ、わかってるってー。てか、玲奈先輩も意外とノリいいっすよねー」


 果たして、美月の発言はどこまでが意図してのものなのか……。

 なんとなく、今回の件は天然ムーブな気がするな……?

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