第51話 今回の結果
「っしゃにゃらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 全教科赤点回避ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
休み時間の教室に、大きく両手を挙げた優香の歓喜の叫びが響いた。
「おめでとう、優香」
「よくやったわね、優香」
俺と玲奈は、パチパチと手を叩きながら素直にお祝いの言葉を送る。
「貴女ならやれると思っていたわ」
「玲奈……」
優香の肩に手を置いて優しい微笑みを浮かべる玲奈に、優香は少し目を潤ませていた。
「これまでの厳しい指導も、そう思っていたからこそ」
「うん……そうだね。実際、玲奈のおかげだし」
「全ては、貴女を思ってのことだったのよ」
「うん、ありがとう玲奈……!」
「これで私の言葉は全て正しいということも証明されたし、今後も私の言うことを素直に聞くのよ?」
「うん、今後も玲奈の言うことを………………って危なぁ!? これ、ヤバい研修とかでめっちゃ厳しくした後で優しい言葉をかけて洗脳するやつじゃん!」
「チッ……」
「なんであわよくばって感じで洗脳しようとしてきたの!?」
「なんとなく、今なら出来そうな気がしてついね」
「発想が完全にサイコパスのそれ! 玲奈、絶対経営者とかにならない方がいいよ!? 向きすぎてて社員さんが可哀そうだから!」
とまぁ、素直に感動方向にいかないのがなんともこの二人らしいな……。
「さて……それじゃ孝平くん」
話を切り上げて、玲奈がこっちに向き直る。
「今回は、五分での勝負ね」
「あぁ、そうだな」
不敵に笑う玲奈は、既に勝利を確信してるって感じだ。
まぁ実際、俺も勝ち目は薄いだろうと思ってるしそれでいい。
『勝負!』
前回と同じく、全教科の合計点が書かれた紙を同時に開示する。
結果。
「……二十一点差」
「で、俺の負けだな」
見事に完敗だった。
「ふぅ……これなら、優香の調教はもう少し緩くても良かったわね」
「ねぇ、もう完全に調教って言っちゃってるよね? もはや言い直す気さえないよね? あと、知ってはいたけどビックリするほどアタシのためじゃなくて自分のためだったよね? さっきの言葉に一ミリも真実含まれてなかったよね?」
安堵の息を吐く玲奈へと優香がジト目を向けるけど、玲奈は意に介した様子もない。
「まぁいいや、それより!」
優香も、頭を切り替えたようでパンと手を叩いた。
「念願の、ご褒美タイムに……」
「待ちなさい!」
ウキウキした優香の言葉を、玲奈が鋭い声で遮る。
「今回は、私に先を譲ってもらうわよ。前回は貴女の方が先に言ったんだし、構わないわよね?」
「え……? うん、まぁ、別にいいけど……なんでそんな必死なの……?」
「前回は貴女にしてやられたけれど、今度こそはそうはいかないわ」
「前回アタシ、なんかしたっけ……?」
◆ ◆ ◆
【青海玲奈】
さて、釘も差したところでいよいよ私の『お願い』を伝える時が来たわ。
前回の反省も踏まえて、私が至った結論……それは。
「孝平くんが私にしたいと思ったことを、してちょうだい?」
逆に、孝平くんに委ねるというこ選択! これが正解よ!
ふっ……そもそも、自分から『お願い』するというのが愚の骨頂。
これなら孝平くんの好む行動もわかるし、一石二鳥というわけね。
「俺が……で、いいのか?」
「えぇ、もちろん」
さぁ孝平くん、私に何をしたいと思ってくれているのかしら?
ふふっ、楽しみだわ。
「そうだな……それじゃ」
顎に指を当てて少し考える仕草を取った後、孝平くんはこちらに手を伸ばしてくる。
「これで、どうだろうか」
そして、手を私の頭の上に置いて動かし始めた。
頭を撫でる、ね……そういえば孝平くんには初めてしてもらうけれど、まぁ悪くはない気分よ。
「玲奈は偉いな」
「えっ……?」
急に、どうしたっていうのかしら……?
「優香の勉強を見ながら、しっかり自分も勉強して結果を出してさ。絵に対しても、いつだって真摯に全力で取り組んで。玲奈のことを何でも出来る天才みたいに言う人もいるけど……そうやって努力した末の成果だって、俺は知ってるよ」
「孝平くん……」
優しく微笑んで、私の肯定してくれながらのナデナデ……これは、とても……悪くないわね!
えぇ、悪くないでしょう!
何より……他の誰でもなく、孝平くんが私のことをちゃんと理解してくれているのが嬉しいわ。
「んふっ」
……せっかく良い気分だったのに、何やら不快な笑い声が聞こえてきたわね。
「何よ優香、ニマニマと気持ち悪い……」
「いやぁ……とても悪くない、とか内心でさえも素直じゃない感想抱いてそうな顔だなーって」
「っ……! べ、別に悪くないだなんて思ってないんですからね!」
「あっ、すまん。やっぱ、良くなかったか?」
「とても良いに決まっているでしょう!」
「この手のひら返しの速度だよね」
くっ、優香のニマニマ笑いが引っ込まないわね……!
「孝平くん、もういいわ。ありがとう」
少し名残惜しいけれど、ここはこの辺りでやめておくことにしましょう。
引き際を見極めるのも良い女の条件よ。
「そう? もうしばらく続けてもいいけど」
「えぇ、十分に満足したもの」
というかこれ……下手に続けると、何かしらの中毒性が生まれてしまいそうな気がするのよね……。
◆ ◆ ◆
【紅林優香】
「わかった、じゃあ次は優香の番だな」
玲奈の頭から手を離して、孝平がこっちに向き直る。
「内容は、もう決まってるのか?」
「もっちろん!」
前回はその場でって制約があったから別のにせざるをえなかったけど、ホントは前回もこれをお願いするつもりだったんだよねー。
「一週間、お弁当を孝平にあーんしてあげる権利をちょうだい!」
「ちょ、それはアリなの!?」
アタシの『お願い』に、玲奈がちょっと慌てた様子を見せる。
「継続的なものだし、孝平くんがされる側じゃない!」
「『なんでもしてくれる』じゃなくて『なんでも聞いてくれる』、なんだから当然アリでしょ! むしろ、永続あーん権にしたかったところを一週間に留めたこの謙虚さを褒めてよね!」
どうよ、この頭脳プレー!
「まぁ、そうだな……これはアリ判定かな」
「くっ……!」
孝平の判定に、玲奈は悔しげに呻く。
「いえ、ちょっと待ちなさい……? それは一週間お弁当を作る権利とあーんする権利、二つのお願いを内包しているじゃない! やっぱり無効よ!」
「おっと、何を勘違いしているのかなぁ? アタシは、お弁当を作る権利までは要求してないよ?」
「そう……なの?」
アタシの言葉に、今度はキョトンとした表情に。
「だけど、それだと……っ!?」
少し遅れて、それがどういうことか気付いたみたいだね。
「ふふっ……! ねぇ玲奈、どんな気分だろうねぇ? 好きな人に食べてもらうために一生懸命に作ったお弁当を、他の女にあーんされるっていうのはさぁ!」
「くっ……この下衆が……!」
ふはははは! ここまで含めてのアタシの『お願い』効果よ!
◆ ◆ ◆
【白石孝平】
ははっ……今回は、優香の方が一枚上手だったかな……?
「失礼しゃーす」
とそこで、そんな挨拶と共に美月が教室に入ってきた。
「おっ、カノパイたち今日はくっ殺プレイっすか?」
高笑いを上げる優香と悔しげに呻く玲奈という構図に、まずそんなコメントが。
「ま、そんなところだね」
「そんなところではないわよ!」
優香がドヤ顔で頷き、玲奈が即座に否定する。
「今、二人の『お願い』を聞いてたとこなんだ」
「おっ、二人共クリアすかー? さっすがー」
「まぁね!」
「誰かさんが足を引っ張らなければ、前回もクリアだったのだけれど」
引き続きドヤ顔で胸を張る優香と、小さく溜息を吐く玲奈。
「美月の場合は、わかるのがもうちょっと先だな」
美月の条件は、総合点で学年一位を取ること。
順位が出るのは、もうちょっと先だ。
「や、もうわかってるよ」
と思ったけど、美月はそう言いながらこっちに手の平を突き出してくる。
どういうことだ……? まさか、全教科満点とか……?
それなら確かに文句無しに一位だろうけど……。
「やー、ダメっしたわ。ウチのクラスに中間の時二位だった子がいるんだけど、今回その子に負けちった」
なるほど、そういうことか。
「紫垣ちゃん、その割にはあんま悔しそうじゃないね?」
「まー、言うて点数自体は落ちてないからね。パパとママに怒られることはないっしょ」
「孝平くんへのお願いの件は構わないというの?」
「そだねー、ぶっちゃけ最初からそこはお祭りに参加したい的な動機だったし」
言葉通り、美月はサバサバとした表情で気にした様子はない。
「……ま、でも」
かと思えば、どこか妖艶に微笑んで。
「コウ先輩の可愛い顔を見られなかったのは、ちょっち残念ではあるけどね?」
「っ!?」
ツツッと首筋を撫でられ、ゾワッと妙な快感が背中を走った。
「紫垣ちゃん、可愛い顔って……」
「孝平くんに、何をするつもりだったの……?」
俺は、何をされちゃうところだったんだ……?
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