第46話 セカンド

 美月が口にした、俺の『告白の言葉』。


 なぜだ……!? 言ったはずがないのに、なぜ記憶が蘇ってくるんだ……!?


 けど記憶が蘇ってくる以上、やっぱり俺が告白みたいなのをしたってのは事実なのか……!?

 だとすれば、頭ごなしに拒絶するのも悪いよな……!?


「しかもさ、告白してくれた相手があのコウ先輩じゃん? これ、受けたら面白いことになるかなーって」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ?」


 気持ちを整理する時間も欲しいけど、それより今の発言……。


「君は、以前から俺のことを知ってたってことかな?」


「あはっ、そりゃそうっしょ。たぶん先輩たち、ウチの学校で一番の有名人だもん」


「つまり、俺たちの関係も知ってるってことだよね?」


「もち」


 優香と玲奈の方を一瞬振り返ってから尋ねると、当然とばかりに頷かれた。

 そういや、さっき『カノパイ』とか言ってたしな……。


 いや、だとしたらさ……。


「そもそもの話、この状況で俺が新しく誰かに告白することなんてありえないと思わないか……!?」


「え? 逆じゃん? もう二人もカノジョがいるんだから、三人目もアリなんだなーって」


「んんっ……! ちょーっと『なるほどな?』と思ってしまった自分がいることを否定出来ないぞぅ……!?」


 客観的に見れば、そういう考え方も出来る……というか、なんならそう考える人の方が多そうな気までしてきた……。


「あ、でも安心してほしいっすー。ウチ、ちゃんとカノパイたちのことは立てるんで」


 と、なぜか美月はドヤ顔で胸を張る。


「確か、青海先輩が『元カノ』さんで紅林先輩が『今カノ』さんなんすよね?」


「……そうだけれど」


「まぁ、そうだね……」


 美月の問いかけに、めっちゃくちゃ不審そうな表情ながら頷く二人。


「でまぁ、ウチは新しく『今カノ』になったってことでぇ」


 なったことを確定させないでほしいんだけどな……。


「ちゃんと立場を弁えて、『セカンド今カノ』を名乗ろうと思いまっす!」


『セカンド今カノって何……!?』


 初耳過ぎる単語に、俺たち三人の声が重なった。


「ほら、二号さん的な?」


「めちゃくちゃ人聞き悪ぃな!?」


「コウ先輩の場合、今更じゃん?」


「んんっ……! 困ったことに、反論出来る要素が一つもないぞ……!?」


 ていうかこれ、なんかだんだん押し切られそうになってきてないか……!?



 ◆   ◆   ◆



【青海玲奈】


 まったく、孝平くんも優香も何を丸め込まれそうになっているのよ……。


 確かに、孝平くんが『告白』のようなものを口走ったのは事実のようだけれど。

 本意ではないのだし、さっさと………………いえ。


 なるほど、そうね。


「いいんじゃない? セカンド今カノ、加わってもらえば」


『玲奈!?』


 私からの提案に、孝平くんと優香が大きく見開いた目をこちらに向けてきた。


「おー、流石は青海先輩。話がわかるっすねー」


 当の本人、紫垣さんは何も考えていなそうな笑みを浮かべている。


 そう……ゆえに、この子には利用価値があると私は判断した。


 延長戦が決まった、私たちの『勝負』だけれど。

 実際のところ、今までと同じことを繰り返したところで停滞するだけなのでは? という懸念を抱いていたのも事実。


 そこにこの子が現れたというのは、ある意味でタイミングが良かった。


 何より重要なのは、優香と紫垣さんというこの二人……。


「……ねぇ玲奈、なんかアタシに対して失礼なこと考えてない?」


「あっ、奇遇っすねー紅林先輩。ウチもなんかそんな目で見られてる気がするっすー」


 キャラの方向性が被っている!


 おバ……もとい、頭が足りてな……もとい。

 明るく元気な紫垣さんの印象は、優香とかなりの部分で合致すると見た。


 更に、『今カノ』という要素の被り。

 この二人をぶつかり合わせることで私が漁夫の利を得る……これよ!


「そうね、ごめんなさい失礼なことを考えてしまって」


「素直に謝ってくれるのはいいんだけど、具体的には何考えてたの……?」


「それはそうと」


「めっちゃ力技で話題変えるじゃん……」


 今は黙っていなさい、ファーストの方。


「どこかの誰かのせいで、孝平くんが彼女に告白まがいの台詞を言っしまったというのはどうやら事実」


「ぐむっ……!」


「孝平くんとしても、自分から告白のようなものをしておきながらフるだなんて真似をして彼女を傷付けるのは本意じゃないでしょう?」


「それはまぁそうなんだけど……」


 こう言えば、二人は強く言えないでしょう。


「それに、私は誰が相手だろうと負ける気はないもの」


「そ、それはアタシだってそうだし!」


「なら、一人くらい彼女候補が増えたところで問題ないわよね?」


「ぐむむっ……!」


 優香は、しばらく悩ましげに呻いていたけれど。


「まぁ……そもそもの原因はアタシみたいだし……玲奈がそう言うなら……」


 結局、渋々感満載ながらも頷いた。


 ふふっ……ここまで来れば策は成就したも同然よ!



 ◆   ◆   ◆




【白石孝平】


「孝平くんは、どう? もちろん、最終的には貴方に判断を委ねるわ」


 玲奈はそう言ってくれるけど……これ、実質もう外堀埋まってるよな……。


「……わかった」


 正直に言えば、「お前、それは流石になくないか?」と囁いている自分もいる。


 だけど、告白……のようなもの? をしてしまったことは事実で。

 二人が、受け入れるっていうなら……。


「これからよろしくな、美月。その……セカンド今カノ? として」


 美月に向けて、手を差し出す。


「うぃす、よろよろ~!」


 実に軽い調子で、美月がそれを握り返してきた。



 ◆   ◆   ◆



 こうして。


「んじゃ、紅林先輩に青海先輩も……んー、これもちょっち他人行儀だよねぇ……優香先輩に玲奈先輩! よろしくっすー! あっ、ウチのことも美月でいいんで!」


「距離感の詰め方がエグいわね、紫垣さん……」


「流石のアタシもちょっと戸惑い気味だよ、紫垣ちゃん……」


「あっはー! めっちゃ距離感ある感じで逆にウケるんですけどー!」


 俺に、三人目の『彼女』が出来たのだった。


 ……うん。

 ホントこれ、どういう状況なんだ……?







―――――――――――――――――――――

あけましておめでとうございます。

そして書籍版、本日2021年1月1月にスニーカー文庫より発売です。

WEB版共々、引き続きどうぞよろしくお願い致します。

https://sneakerbunko.jp/series/motokano-imakano/

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