第2章

第45話 第三のカノジョ?

今回より本編再開です。

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 ──こないだの、コウ先輩からの告白の件なんだけどさ

 ──ちょーっと迷ったけど、受けることにしちゃいました!

 ──どう、嬉しいっしょ? 嬉しいっしょ? これでウチら、晴れてカレカノだねー!


 優香と玲奈が、俺の彼女の座を巡る『延長戦』を宣言した直後。

 ふいに現れた、ギャルっぽい後輩? が、そんなことを言い放った結果……。


「……孝平?」


「……孝平くん?」


 俺は現在、瞳孔の開いた二組の目から見つめられていた。

 完全に感情の抜け落ちた無表情で、割と怖い。


 まぁこれまでさんざん二人で勝負を繰り広げてきたわけで、急に見知らぬ女子が『彼女』を名乗り出てくればそうもなろうってもんだろう。

 よくわかる。


 なにせ……俺だって、この子が誰なのか知らないんだからな!


「えっ、と……」


 とはいえ、流石に「誰?」と直接は聞きづらい。


「ねぇ貴女、そもそも誰なの?」


 と思ってたら、玲奈がめちゃくちゃストレートに問いかけた。


「っと、そっすよねー。ほんじゃ、まずは自己紹介からしゃーす」


 特に気にした様子もなく、後輩? はなぜかウインク一つ。


「一年一組、紫垣しがき美月みつきでっす! コウ先輩にカノパイたちも、ぃよっろしくぅ!」


「お、おぅ……」


 『彼女』を名乗る存在から自己紹介されるという初体験すぎるシチュエーションに、思わず半笑いが漏れてしまった。


「カノパイって、もしかしてアタシたちのこと……?」


「あいっす! コウ先輩のカノジョさんで先輩なんで!」


「そうなんだ……」


 流石にと言うべきか、優香もこの状況への戸惑いが勝ってそうとしか返せないみたいだ。


「えーと……それで、あの……紫垣さん?」


 ここは俺が主体となって話を進めるべきだろうと、とりあえず呼びかける。


「やだなー、コウ先輩! ウチらカレカノの仲じゃーん! 今日からウチのことは、美月って呼んでくれていいよ!」


 今日からも何も、今の呼びかけが初めてなはずなんだが……。


「紫垣さん」


「美月でいいってばー」


「……紫垣さん」


「美月がいいなー」


「………………紫垣さん」


「美月って呼んで?」


 これ、YESを選ぶまで無限ループするタイプの選択肢?


「……美月さん」


「さん付けはまだ他人行儀に感じちゃうなー」


「……美月ちゃん」


「惜しい! もう一声!」


 この子、距離感の詰め方がえげつないな……!?

 つーか、他人行儀に感じるも何も紛うことなき他人だよね……!?


 とはいえ、このままじゃ話が進まなそうだし……。


「………………美月」


「うんっ、なになにっ?」


 苦渋の決断で呼び捨てにすると、唇を尖らせていたその表情がパッと笑顔に輝いた。


「………………」


「………………」


 なお、対照的に優香と玲奈は無表情でこちらを睨んでくる。


 しゃーないだろ、こうしないと無限ループなんだから……。


「あー……まず、最初に。俺たちの間にはとても重大な誤解があるようだから、それを解かなければいけないと思う」


「あっはー、めっちゃ固い話し方でウケんだけどっ! もっとほら、ざっくばらんに的な? 感じでいこうよ、カレカノなわけなんだし」


「うん、まさにそこなんだけどさ」


 どうにか流されないよう気をつけながら、本題に切り込む。


「俺と君は、カレカノではないよね?」


 変に持って回った言い方をして誤解を与えるのも困るから、ド直球で言うことにした。


「なんで?」


 が、なぜ通じていない様子なのか……!


「告白されてそれを受け入れたんだから、もうカレカノじゃん?」


 どうにも、俺とこの子の間にはもっと前提部分でズレがありそうだな……。


「そもそも、その告白っていうのもさ……さっき、俺からの告白って言ったよね?」


「うん」


「それ、人違いってことない……?」


「ははっ、んなわけないっしょ。あっ……でもワンチャン、実はコウ先輩って双子だったりする?」


「いや、違うけど……」


「なんだ、脅かさないでよー。じょじゅちゅトリック的なやつかと思ったじゃーん」


 この感じ、嘘をついてるとかそういう様子じゃなさそうなんだよなぁ……。


「それじゃ具体的に、いつどこで俺から告白されたのかを教えてくれないかな?」


「えーっとねー。中間前だったからー、あれは確か五月のぉ──」



 ◆   ◆   ◆



【紅林優香】


 ……んんっ?

 今、この子……紫垣ちゃん? が言った日付……なんか妙に覚えがあるような……。


「あれ……? なんでだろ……? 俺、その日の午後の記憶が妙に曖昧だぞ……?」


 孝平もなんか不思議そうな顔してるし……。


「他に誰もいない階段の踊り場で、『可愛い人、君との出会いに運命を感じるよ』って超ウケる告白してくれたじゃん?」


「あっれぇ!? なんでだろうなぁ……!? 言ったはずないのに、なぜか言った記憶が蘇ってくるぞぅ……!?」


 やっぱこれ、あの日だよねぇ……!?


 アタシが催眠術かけて、孝平がキャラ崩壊した日……!


「……優香? 貴女のせいで、とても話がややこしいことになっているようだけど?」


「全く以てその通りではあるんだけど、あの時は玲奈だって途中からノリノリだったじゃん……!」


「私は別に……」


 って、今は玲奈と言い争ってる場合じゃないよ……!


「まぁ言うてウチ、それなりに告白とか受けてきたんだけどぉ。あんなのは初めてで、しばらくしたら逆にアリかな? って思い始めてねー。よくよく思い出してみたら、なんかちょっとキュンって来た部分もあった気がするし?」


 んんっ……!

 アタシが原因に絡んでいる以上、ちょーっと頭ごなしに拒絶するのはツラくなってきたかもなぁ……!?







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書籍版、2021年1月1月にスニーカー文庫より発売です。

……というのが公式の情報ではありますが、実際には早いところでは明日から店頭に並び始めるかと思います。

https://sneakerbunko.jp/series/motokano-imakano/

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