SS4 ボウリング勝負
これもまた、俺たちが『三人でのデート』をした日の一幕である。
◆ ◆ ◆
【紅林優香】
ボウリング場に来たアタシたち。
「えっ? 青海さん、ボウリングも初めてなんだ?」
青海さんが物珍しそうにキョロキョロと周りを見回しながら「初めて来た」って発言するもんだから、思わずそう言っちゃった。
「えぇ、そうね。というか、こういう友人たちと遊ぶことを前提とした施設は基本的に初めてだと思ってもらって構わないわ」
「めっちゃ堂々と言うじゃん……」
こんな胸を張ってぼっち発言出来る人、なかなかいないよね……。
「てか、家族と一緒に来たりしないの……?」
友達がいなくても、来たことくらいはありそうなもんだけど。
アタシだって、ボウリングもゲーセンも初めては家族とだったし。
「家族は……」
言葉を詰まらせて、ふいと目を伏せる青海さん。
ありゃ、こりゃやっちゃったか……?
そうだよね、どこのご家庭も円満ってわけじゃないもんね……。
「ごめん、言いたくなければ……」
「全員、私と同じ気質だから」
「あ、ぼっちの家系なんだ」
予想外の方向で、また思わず素で言っちゃったよ。
ていうか、だったらなんでちょっと意味深に溜めたの……?
「ほら、こんなとこで駄弁ってないで早速やってみようぜ。せっかく玲奈の初プレイなんだしさ」
「そだねー」
「えぇ」
パンと手を叩く孝平にアタシたちも頷く。
「ふふっ……孝平くんといると、私の初めてが次々と奪われちゃうわね」
「っ……」
色っぽく笑って意味深な物言いをする青海さんに、孝平がちょっとドキッとしたような表情に。
むむっ……!
「まぁ、その初めてのほとんどはアタシも一緒なわけですが?」
「む……」
ニマッと笑ってやると、青海さんはムッとした顔になった。
かと思えば、すぐにさっきの表情に戻る。
「ふふっ……孝平くんといると、私の初めてが次々と奪われちゃうわね」
「なんでもっかい言ったの……?」
「思い出すわ……二人で初めて行ったプールに遊園地、二人きりの勉強会に……そうそう、二人で相合い傘なんてしたのも初めてよ」
「こ、この女……! アタシの存在を記憶から抹消している……!?」
なんて、騒がしく。
アタシたちは、ボールやらシューズやらの用意をしていった。
◆ ◆ ◆
「おっしゃ、ストラーイク!」
一投目で全部のピンを倒して、アタシはガッツポーズ。
「ナイス、優香」
「イェーイ!」
孝平とハイタッチを交わす。
ちなみに先に投げた孝平はスペアで、アタシたちは順調な滑り出しって感じ。
「イェーイ!」
「………………」
青海さんにも手の平を向けると、無言のままだけどペチッと軽くタッチしてくれた。
「んじゃ、次は青海さんね」
「えぇ」
ゲーセンの時の経験を活かして、今回はドヤ顔で「お手本を見せてあげる」とかは言わなかった。
青海さんなら、一投目から完璧に決めてみせる可能性も結構あると思ってるからね……。
「すぅ……はぁ……」
ボールを手にした青海さんは、精神集中するみたいに一つ深呼吸。
そのまま、ゆっくりと踏み出して……おぉっ、なんて綺麗な投球フォーム……!
流石は青海さん、アタシと孝平が投げるのを見ただけで最適なフォームを導き出したんだね……!
青海さんの手を離れたボールは、真っ直ぐな軌道を描いて……。
──ガコン!
……レーンの半ばくらいで、左の溝に吸い込まれていった。
うん、まぁ、ガターだね……。
青海さんは、そのボールの行方を見守ってから振り返って。
「なるほどね?」
ガターなのにめっちゃドヤ顔じゃん……。
えぇ……? それ、どういう感情なの……?
「まぁ最初は上手くいかないと思うけど、玲奈ならすぐ慣れると思うよ」
孝平が苦笑気味にフォローする。
「そうね」
青海さんは短くそう返すだけで、やっぱりイマイチ考えが読めなかった。
「すぅ……はぁ……」
戻ってきたボールを手にして、青海さんはまた一つ深呼吸。
やっぱり隙がないように見える綺麗なフォームで投げられたボールは、今度はちょっとカーブを描きながら………………んんっ!?
──スパァァァァァァン!!
ぜ、全ピン弾き飛ばした……!?
「なるほどね」
青海さんは、それを見届けた後で手をグーパーさせる。
「
「バトル漫画でめっちゃ強い敵キャラが主人公の得意技を逆に会得した時みたいな言い回しじゃん……」
「貴女のその漫画の何々みたいなシリーズ、何なの……? というか、そんな場面は本当にあるあると言えるくらいに存在するの……?」
いや、まぁ、それはともく。
「もうコツ掴んだってことか? 流石だな、玲奈」
孝平も驚いた顔してるけど、これにはアタシもビックリだよね。
青海さん、マジでスペック高いな……。
「己の身体の動かし方を十全に知っていれば、後は脳内のイメージとのすり合わせをするだけだもの」
まぁ、これはドヤ顔でも許される案件かな……。
さっきの「なるほどね?」も、まさか照れ隠しとかじゃなくてマジで言ってたとは……。
「そうだ、玲奈がもうコツ掴んだっていうなら……せっかくだし、ジュースでも賭けないか?」
「私は構わないわよ」
「アタシもオッケー!」
孝平の提案に青海さんが頷いて、アタシもグッと親指を立てた。
「よーし、負けないからね!」
「ははっ、俺だって負けないぞ?」
「元より、何も賭けずとも負けるつもりなんてないわ」
三人、バチバチと視線で火花を散らせて──
◆ ◆ ◆
【青海玲奈】
宣言通り、私が優勝した。
「マジですげぇな、玲奈……初心者脱却どころか完全に上級者の域だぞ」
「ぐぎぎ……! 最後のあの一ピンさえ倒せていれば逆転出来てたのに……!」
感心の表情を浮かべる孝平くんと、悔しそうに呻く紅林さん。
ふふっ、遊びとはいえ勝利というのは心地よいものね。
「やーん、またガターになっちゃったー!」
「ははっ、俺がお手本を見せてやるよ」
とそこで、隣のレーンでプレイしているカップルの会話がふと耳に入ってきた。
「すごーい、またストライク! かっこいいー!」
「任せろ、ボウリングは得意なんだよ」
「私は苦手かもぉ。だって、玉が重いんだもーん」
「ははっ、いいじゃんか可愛くて」
「もぅ、馬鹿にしてるでしょー?」
「んなことないって。ほら、男としてカノジョにスコア抜かれるのはちょっと微妙な気持ちになっちゃうしさ。鬼スコア出す女の子って引いちゃうじゃん?」
「そうなの……?」
「そうなの。だから、お前はそうして可愛いままでいてくれよ。うん、可愛い可愛い」
「むぅ、頭を撫でれば許されると思って……まぁ、許しちゃうんだけど!」
……ふと、思ったのだけれど。
ここは……『初心者の立場を利用して非力で可愛い女を演じる』というのが最適解だったのでは……?
くっ……! 脳筋女には絶対出来ないアプローチ方法を、みすみす見逃してしまうとは……!
「ねぇ、青海さんさ……なんか、アタシに対して失礼なこと考えてない?」
私としたことが、ぬかったわ……!
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