SS3 ゲームセンターでの一幕
これは、俺たちが『三人でのデート』をした日の一幕である。
◆ ◆ ◆
「ねっ、せっかくだし色々遊んでくよね?」
「そうだな」
プリクラを撮り終えて、優香の提案に頷く。
「玲奈もそれでいいかな?」
「え? ……えぇ、構わないわ」
確認すると玲奈も頷いてくれたけど、どこか戸惑った表情に見えた。
「どうかしたか? 何か問題があったら遠慮なく言ってくれ」
「問題、というか……」
少し、言い淀んだ後。
「私、こういうところに来るのって初めてだから……どうすればいいのかわからなくて」
どこか恥ずかしそうに、視線を外しながらそう口にする。
「あれ? 青海さん、まさかゲーセン初めてってこと?」
「そうね」
「はー、そうなんだ。時々……っていうか大体いつも忘れがちだけど、青海さんってお嬢様だもんねー」
優香は、驚きと感心が入り混じったような表情だ。
「別にお嬢様というほどでもないのだけれど……ゲームセンターに来たことがないのも、家が厳しいとかではなくて単純に友達に誘われるようなことがなかっただけなのだし」
「自分からそれ言っていくんだ……」
自ら望んでるわけじゃないとはいえ、孤独を苦にせず堂々と語れるのが玲奈の強さだよな。
「それはそうと、大体いつも忘れがちとはどういうことよ」
「や、だって普段の発言がお嬢様のそれじゃないじゃん?」
「失礼ね、常に品のある言動しかしていないでしょう」
「青海さんの場合、マジでそれを言ってるから凄いよね……」
うん、まぁ……それもまた、玲奈の強さだよな……。
「それよりほら、遊ぼうぜ」
このまま話が続くと険悪な空気になりかねなかったので、パンと手を叩いてそう提案する。
「せっかくだし、玲奈の興味のあるやつにしようか。パッと見の印象で、何か気になるやつとかあるかな?」
「そうね……」
と、玲奈は少し薄暗い店内でピカピカ光っている様々な筐体たちを見渡していく。
「あの辺り、かしら?」
そうして、指差したのは音ゲーのコーナーだ。
「よし、じゃあ行こうか」
初心者には厳しいかもな……とは思いつつも、まずは玲奈の意思を優先しよう。
「アタシ得意だし、先にお手本見せてあげるよ。たぶん、見てたら大体やり方もわかると思うし」
「そうね、ならお願いしようかしら」
優香の提案に、玲奈も素直に頷いた。
「オッケー、任せてよ!」
ウインク一つ、頼もしい表情で優香は筐体に硬貨を入れる。
ステージ選択なんかを、手慣れた様子で進めていって。
「……ふぅっ」
軽快な音楽が始まった瞬間、小さく息を吐いて真剣な表情となった。
そして、音楽に合わせてタイミング良くボタンを押していく。
「おぉっ……」
その見事な手付きに、思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
そのまま、優香はどんどんコンボを繋いでいき……。
「うっし、パーフェクト!」
見事パーフェクトを獲得して、ガッツポーズを取った。
「すげぇな、優香」
「んふふぅ、この曲は結構やり込んだからねぇ」
俺の称賛に、優香は少し照れたように笑う。
「ってな感じなんだけど」
その表情を改めて、玲奈へと目を向けた。
「青海さん、大体わかったかな?」
「そうね……やること自体はシンプルだし、問題ないでしょう」
「うん。とはいえ初心者だと全部のノーツを追うと混乱しちゃうから、まずは半分くらいのボタンだけ意識するようにした方がいいかも」
「アドバイス、感謝するわ」
軽く頷いて、玲奈が筐体の前に立つ。
ステージ選択なんかは、さっきの優香と同じ。
そして、軽快な音楽が流れ始めた。
「おっ、いいじゃん。上手い上手い」
拙い手付きながらもタイミング良く点数を重ねていく玲奈に、感心の声を上げる優香。
「おおっ、そこ乗り切るかー」
徐々にスピードとノーツ数が上がっていく中、玲奈は未だ崩れる様子を見せない。
「んんっ、あれ……? ていうか、これ……」
そのまま、曲は終盤に差し掛かって……。
『PERFECT!!』
結局、玲奈は一度もミスすることなくフルコンボを繋げてしまった。
「ふぅ……なるほど、なかなか楽しいものね」
振り返ってくる玲奈は、満足げな表情だ。
「ちょっともう、人が悪いなぁ青海さんったら」
優香が、苦笑気味に玲奈の肩を叩く。
「やり込んでるならやり込んでるって言ってよ~。ドヤ顔でお手本披露しちゃったアタシが馬鹿みたいじゃーん」
「……? やり込む……? 今、初めてプレイしたのだけど?」
「へ……?」
何を言っているのかわからない、って感じの玲奈の返答に優香は呆けた表情となった。
「実際、最初の方の手付きは拙い感じだったよな……? なんか、見る見る上手くなっていったけど」
「やっていくうちにコツを掴んだの」
「戦いの中で成長するタイプの主人公じゃん……」
「どうして貴女はいつも主人公で喩えたがるの……?」
驚愕が浮かぶ優香の顔を、玲奈が胡乱げな目で見る。
「大体、音に合わせて操作するだけの簡単なゲームに初心者も経験者もないでしょう」
「はぁん……?」
涼しい顔で言う玲奈に、優香がカチンときたような表情となった。
「いやいや、青海さん。今のは、いっちばん初心者向けの易しい曲だから。たまたま上手くいったからって、調子に乗らないでほしいなぁ?」
「難易度が上がったところで、さほど変わらないんじゃない?」
「よーし、そういうことなら勝負だ! アタシも隣で一緒にやるから、徐々に難易度上げていこう! 音ゲーマーとしてその奥深さを教えてあげるよ!」
「別にそれは構わないけれど、どうして貴女が音ゲーマーとやらの代表面をしているの……?」
玲奈はあんまり乗り気じゃなさそうだったけど、こうして二人の勝負が始まった。
◆ ◆ ◆
そして、しばらく後。
「おおっ! まさか、この鬼曲までクリアしちまうってのか!?」
「すげぇ、ここに来て二人共またミスが減ってきやがった!」
「クリアライン、ギリで乗ってるぞ……!」
「なんて集中力だ……!」
白熱する二人の対決は、いつの間にか大勢のギャラリーに囲まれてのものとなっていた。
今挑んでいるのは、どうやら最難関の曲らしい。
二人も、流石に苦戦はしてたけど……。
『CLEAR!!』
見事、最後まで走り抜けた。
『ぜぇ……はぁ……』
二人共、激しい操作の末に大きく息切れしている。
「なるほど……貴女の言う通り、思っていたよりずっと奥深い……さっきの発言、取り消すわ」
「ふふっ、でしょ……? でも、ここまでついてこられるとは驚いた……青海さんの成長速度には脱帽だよ……」
なんて会話と共に、二人は固く握手を交わした。
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
ライバル同士の和解ってな感じの光景に、ギャラリーから大きな歓声と拍手が送られる。
「いやぁ、いいもん見たなぁ」
「女の子同士の熱い友情、か……」
「にしても二人共、すげぇ可愛かったな……」
なんて言いながら、徐々にギャラリーが散っていく。
そんな中。
「……? なんか今日、やけに人が多い気がするな……?」
入れ替わるような形でやってきたのは……金森さん、だよな……?
キョロキョロとどこか不安げに周囲を見回しながら、どうやら目的は二人が今しがたまでやってた筐体らしい。
手慣れた様子で、コインを入れて……曲は、さっきの最高難易度のやつだ。
「あら……?」
「金森ちゃんじゃん」
とそこで、二人も金森さんの存在に気付いたみたいだ。
俺たちの視線の先で、アップテンポの曲が流れ始めて……。
「んなっ……!? 金森ちゃん、なんて素早い手の動きなの……!?」
「ただ速いだけじゃない……あの腕の軌道、完璧に最適化されたものだわ……!」
棒立ちのままそこだけ別の生物みたいに超高速で手を動かす金森さんの姿に、二人は驚愕と畏怖に満ちた表情になっていた。
「そうか……! 金森ちゃんと言えば、小動物的なイメージ! 素早く動くのは得意分野ってことだね!」
「なるほど……普段から周囲を観察することで鍛えられた観察眼によって、最適解が導き出されているということね」
優香と玲奈はなんか急に解説役みたいなこと言い出したけど、その解説は本当に合ってるのか……?
というのはともかくとして。
そのまま金森さんは、完璧にコンボを決め続け……。
『PERFECT!!』
見事、パーフェクトを叩き出した。
「ふぅ……まだちょっと甘いとこがあるなぁ」
だけど本人は、まるでそんなのは当然とばかりの表情だ。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
「ふぇっ!?」
そして、いつの間にか戻ってきていたギャラリーの歓声を受けてビクッとなった。
「すげぇぞ嬢ちゃん!」
「あの曲でパーフェクト出すのなんて初めて見た!」
「つーか……ハイスコアを全部塗り替えたKNMRってまさか君か!?」
口々にそんなことを言うギャラリーに対して。
「ふぇぇっ……!? 私、なんかやっちゃいましたかぁ……!?」
金森さんは、どこぞの主人公のような台詞を言いながらオロオロするのだった。
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スニーカー文庫公式HPに作品ページが出来ました。
https://sneakerbunko.jp/product/322009000058.html
書籍版、2021年1月1日発売です。
イラストは、けけもつ様(https://www.pixiv.net/users/7356311)にご担当いただいております。
まだお見せ出来るイラストがなくて恐縮ですが、イメージにピッタリなイラストを描いていただいておりますのでお楽しみにです。
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