SS2 パンツのお話

「ねぇ、孝平ってパンツ……」


「孝平くん、今すぐ耳を塞ぐのよ。痴女の妄言が脳に到達する前に」


 優香の言葉の途中で、玲奈がそう言ってピシャリと遮った。


「ちょっと、まだ何の話かも言ってないじゃん! なんでもかんでも痴女扱いしないでよ!」


 憤懣やるかたない、とばかりに優香は抗議する。


「パンツ、から始まる話に痴女要素がないわけないでしょう」


「そんなことないって!」


「お黙りなさい。この場においての貴女の発言権は剥奪されたわ」


「何の権限によって!?」


 取り付く島もない様子の玲奈に、優香は「むぅ」とちょっとむくれた顔となる。


「じゃあいいよ、後でこっそり孝平に聞くから」


「……待ちなさい」


 玲奈の眉が、ピクリと動いた。


「無法地帯になるくらいなら、私が防波堤になれる今この場で聞く方がまだマシよ」


 どうやら、それが譲歩ってことらしい。


「……そんなこと言ってさぁ? 青海さんも、ホントは興味あるんじゃないのー?」


「そんなわけないでしょう」


 ニンマリと笑う優香に玲奈はそう返すけど、ちょっと頬は赤くなっているような気がした。


「いいから、聞くならさっさと聞きなさいな。ほら、早く」


「今度はめっちゃ急かしてくるじゃん……まぁいいけど」


 と、優香は気を取り直した様子で俺の方に向き直る。


「孝平って、パンツはブリーフ派? トランクス派?」


「えっ……?」


 出てきた問いに、玲奈が意外そうに眉根を寄せた。


「ん? 青海さん、どうかした?」


「いえ……てっきり、女性のショーツの好みを聞くものだと思ってたから」


「あっ……さてはそれ、青海さんが聞きたかったことでしょー? だから、一旦否定しつつも聞く流れにしたんだ? やっぱ、青海さんの方が痴女じゃーん」


「そんなわけ……というか、男性用下着の派閥を聞く方がよっぽど痴女でしょう!?」


「や、女の子のパンツの好み聞く方が痴女だって! 絶対あとで聞き出した好みに合わせたパンツ履くやつじゃん!」


 うん、まぁ、うん……どうなんだろうね……。


「って、それより!」


 と、優香はもう一度俺の方に向き直る。


「ねぇ、孝平はどっち派?」


 あくまで質問は継続するらしい。


「いや、まぁ、ボクサーパンツだけど……」


「あー、なるほどそっちかー」


 特に隠す意味もないので、素直に答えたけど……。


「それを聞いて、どうしようと言うの……?」


 玲奈の発した疑問に、内心で首肯してしまう。


「ボクサーパンツ……考えてなかったけど、まぁブリーフよりは難易度低めかも……?」


 難易度……?

 いよいよ何の話なんだ……?


「なぁ優香、どういう意図の質問だったんだ?」


 わかりそうになかったんで、本人に直接聞くことにする。


「うん! 孝平に、手縫いのパンツをプレゼントしようと思って!」


『手縫いのパンツをプレゼント……!?』


 初めて遭遇する単語の並び方に、俺と玲奈の声が重なった。


「やっぱりさー、好きな人に手作りの何かを身に着けてもらうのって憧れだよねー」


 一方、ペカッと輝く笑みを浮かべる優香は自分の発言に何ら疑問を感じていない様子だ。


「あー……その……それで、なんでパンツって結論に至ったのかな……?」


 出来るだけ否定の色が混ざらないように、優しく尋ねる。


「や、明らかに手縫いの何かを見えるところに着けるっていうのは恥ずかしいかもでしょ? その点、パンツなら体育の時くらいしか見られないから安心かなって」


「貴女、羞恥心の判定基準がバグっているの……!?」


「ふふっ……いいよね、普段は見えてないアタシの痕跡が限定的な状況でだけ晒されるっていうの」


「違うわねこの子、バグっているのは性癖の方向性だわ!?」


「ちょっともう、なんでそんな酷いこと言うの?」


「貴女の話している内容が酷いからよ!」



 ◆   ◆   ◆



 なお、この後どうにか優香を説得し。


 最終的に、手縫いのスマホケースをプレゼントしてもらうってことで妥協(?)していただきました。

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