SS

SS1 更衣室にて

「ねぇ青海さん、体育でやるのって今日からバスケだっけ?」


「そうだったと思うわよ……厄介なことにね」


「あれ? バスケ苦手な感じ?」


「苦手というか、突き指の危険がある競技はちょっとね……」


「あー、なるほど。美術部ってそういうとこも気遣わないといけないんだ」


「まぁ、仮に指の一本や二本折れたところで筆さえ握れればそこまで問題はないのだけれど」


「メンタルが完全に少年漫画の主人公じゃん……しかも、ぶっ飛びすぎてて最終的に読者から一番やべぇ奴認定される系の……」


「誰が少年漫画のイカレた主人公よ……大体、私が出るのに相応しいのは少女漫画でしょう」


「あぁ、わかるわかるー。主人公のライバルキャラだよね?」


「は? 素敵な恋をする主人公の方に決まってるじゃない」


「相変わらず青海さん、そういうとこあるよねー。見かけによらず意外と可愛いっていか」


「なぜ優しい笑みを浮かべているの……?」


「まーでも、青海さんに少女漫画の主人公は無理だと思うなー。だって、何でも完璧にこなす主人公とか見ててつまんないでしょ? その点、アタシなら適度に苦手分野もあって主人公に最適!」


「今どき、目標に向けてひたむきに努力するような主人公の方が流行らないわよ……大体、貴女の場合はコミュニケーションにほとんど不備が生まれないんだから作劇の幅が狭すぎるわ」


「いや、青海さんの場合はそもそもコミュニケーション自体あんまり生じないんだから余計に作劇の幅狭いじゃん……」


「というか……貴女、その胸で少女漫画の主人公は無理でしょう?」


「はー? この胸の何が無理だって言うわけー?」


「読者のコンプレックスを刺激する主人公なんて、受けるわけがないもの」


「あれれー? もしかして青海さん、アタシに対してコンプレックスを抱えていらっしゃるー?」


「あくまで一般論よ。私は、私の身体に自信を持っているもの」


「チイッ! そのプロポーションで言われてしまうと反論出来ないよね……!」


「主人公としても、私くらいが『ちょうどいい』のよ」


「いーや、その点に関しては完全にブーメランだね! 見た目の話をするなら、主人公が美人過ぎても読者はコンプレックス刺激されちゃもん!」


「大体の少女漫画で主人公は美人だと思うけれど……」


「それは作画の都合で、物語の中じゃ平凡な容姿扱いされてるじゃん! 青海さんに関しては周囲からも美人扱いされてるんだからアウトだよ!」


「それを言うなら、貴女だって大差ないでしょうに」


「あるに決まってんでしょ! 青海さん、前から思ってたけどちょっと自己認識おかしいとこあるよね!?」


「なら聞くけれど……貴女、高校に入ってから何人に告白された?」


「えっ? それは、その……ごにょごにょ」


「ほら見なさい、私より多いじゃないの」


「や、それは青海さんの高嶺の花なイメージが強すぎるからだって! 潜在的には青海さんのこと好きな男子の方が絶対多いもん!」


「観測出来ない存在なんて無意味。というか、語るに落ちたわね。親しみやすさも加味した上で、貴女の方がモテるに決まっているわ」


「はぁー!? 男子は自分の手が届かない存在にこそ憧れるものなんですけどー!? どう考えても青海さんの方がモテるに決まってるんですけどー!?」


「男子は、女子のちょっとした仕草を好意と勘違いするもの。そういう意味でも、普段から男子との距離感が近い紅林さんの方がモテるのは必然よ」


「いーや、青海さんの方がモテるね!」


「紅林さんの方がモテるわ」


「はぁん?」


「はぁん?」


『はぁん!?』




 ◆   ◆   ◆




【金森日和】


 えぇ……? 何これ……?


 この人たち、喧嘩してるの……? それとも、イチャついてるの……?


 表情と会話内容が一致してないっていうか……話の中身はお互いを絶賛してるのに、なんでこんな険悪な雰囲気になれるの……?

 逆に不思議すぎる……。


 何にせよ……この二人、実は仲良いよね……?







―――――――――――――――――――――

新作の『幼馴染をフッたら180度キャラがズレた』が、本日11/20(金)にファンタジア文庫より発売されております。

https://fantasiabunko.jp/special/202011charazure/


内気で引っ込み思案な幼馴染からの告白を断ってから、3年。

再会した幼馴染はなぜか正反対な性格になっていて、「今度こそは、私に惚れさせてみせますからねっ?」なんて言い放ち……!?

ってな感じの、両片思いのハイテンションラブコメでございます。

楽しんでいただけるものに仕上げたつもりですので、こちらもどうぞよろしくお願い致します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る