第6話

〇日高家・リビング(日替わり・夕方)

帰って来た真理奈。

キッチンだけ電気が点いている暗い部屋。

真理奈「(確認するように)ただいま」

絵美子「おかえり、ごはんできたとこだよ」

後姿でキッチンにいる絵美子。

真理奈、荷物を置き食卓に座る。

真理奈「お腹へった! 父さんはー?」

絵美子「……」

真理奈、黙ってテレビを付けると、お笑い番組が映る。

テーブルに料理を並べる絵美子。

真理奈「(努めて明るく)やったーハンバーグだ!(箸で割る)あ! わーいチーズ入りだ!」

絵美子も後から席に付く。

絵美子「合宿はどうだった?」

が、明後日の方を見ながら上の空で聞いている。

真理奈「なまら楽しかった! 芹野コーチっていたでしょ? 電話の――」

絵美子「 (遮り、急に改まって)真理奈ちゃん?」

真理奈「何」

絵美子「 ( テレビを消し)母さん、大事な話あるんだ」

真理奈「何よ、今合宿の話聞いたくせに(またテレビをつけ)」

絵美子「あのね、母さんね――」

真理子「(遮り)うるさい! 聞きたくない」

絵美子「じゃあ、いつ聞いてくれる? 待ってたのよ」

真理奈「やだ! 自分の都合ばっかり。今テレビ見てるし」

絵美子「その何とかって芸人、あんた下品で嫌いって言ってたじゃない!」

真理奈「うっさい! 母さんよりは好きに決まってんじゃん!」

真理奈、テーブルをバンと叩いて立ち上がり、出ていく。

絵美子「……」

チーズと肉汁が皿の上に広がったままのハンバーグ。

一発芸人の渾身のショートコントが虚しく響いている。


〇札幌市・中学校(日替わり・朝)

ぼーっとした様子で授業を受ける真理奈。

チャイムが鳴る。

鞄の中のスマホを見ると、絵美子からラインが来ている。

『昨日は帰ったばかりで疲れてたのにごめんね。母さんと父さんは離婚することにしました』

真理奈「……」

真理奈、固まっている。


〇同・屋上 (朝)

真理奈と大地。

フェンス前に立ち遠くを見ている。

大 地「……大変だな。けど、頑張るしかねえよな」

真理奈「あたし、頑張る! 次の全中予選で全道一になる」

大 地「そうだよ、その意気だよ!」

大地、真理奈に手の平を向ける。

強くパンチを入れる真理奈。


〇札幌市・スキー場・コース(日替わり・夜)

真理奈、滑りに没頭している。

幸雄とスノーバードのコーチがリフト上で見ている。

幸 雄「最近の真理奈、すごいな気迫が」

コーチ「感心、感心」


〇日高家・真理奈の部屋(日替わり・夜)

真理奈、筋トレしている。

ノックの音。

正人の声「入っていいかい」

真理奈「うん」

正人、入ってくる。

正 人「聞いたよね、母さんから」

真理奈「(目を合わせず)ああ、離婚のこと」

正 人「ごめんな。これからも真理奈のお父さんなのは変わらないから」

真理奈「……うん」

正 人「で、真理奈はどうしたい?」

真理奈「どうって?」

真理奈のM「父さんは?」

正 人「父さんはここで今まで通り暮らすよ。母さんは、3月にはおばあちゃんの住んでる東京で暮らすんだ」

真理奈「えっそうなの?」

正 人「真理奈の好きな方にしてもうらおうって母さんと話してたんだ」

真理奈「そんな急に言われても、あたしわかんない……」

正 人「そうだね、考えといて」

真理奈「ねえ父さん」

正 人「何?」

真理奈「……やっぱり、いい」

正 人「うん」

正人、出ていく。

真理奈のM「父さんは、私にどうしてほしい? 浮気してるの? その人と暮らしたい?」


〇日高家・玄関(夜)

スニーカーを履き出ていく真理奈。


〇外・歩道(夜)

夜道をジョギングする真理奈。

途中、雪が降り出す。

濡れながらも速度を落とさず走り続ける。


〇日高家・真理奈の部屋(日替わり・夜)

寝ている真理奈。

両親の怒鳴り声が聞こえてくる。

絵美子がこちらに走ってくる。

真理奈、構えるが……。

正 人「やめろ! 絵美子いい加減にしろ!」

絵美子は声にならない嗚咽をあげる。

が、正人にリビングに連れ戻されていく(ようだ)。

真理奈「(ドアの方を見て)……」

緊張で額に汗。

心臓の音がドッドッと自分の耳に響く。


〇スキー場(真理奈の回想・10年前・昼)

正人(30)の足の間に挟んでもらい一緒にスキーする真理奈(3)。

ふわふわと落ちてくるぼたん雪を珍しそうに見上げている。

真理奈と正人「わあー」

一緒に転んで雪だらけになる二人。

傍で見ている絵美子(25)もそれを見て笑う。


〇日高家・リビング(回想明け・翌日・朝)

起きてきた真理奈、見回す。

いつもいるはずの絵美子の姿がそこにはいない。


〇同・真理奈の部屋 (夜)

机の上に大切そうに立てかけられた芹野の名刺。

を、手に取り通話しようとする真理奈。

が、思いとどまる。

アドレス帳に登録するだけにした。


〇日高家・リビング(夜)

スキーから帰宅した真理奈。

テレビで正月番組を見ている正人。

不機嫌にぶつぶつ言っている。

真理奈、恐る恐る正人に尋ねる。

真理奈「母さんは?」

正 人「(画面を見たまま)多分実家だろ」

真理奈、出ていく。


〇中学校・大地の教室(日替わり・昼)

ドアの前に居る真理奈。

大地がやってくる。

大 地「珍しいじゃん、真理奈から会いにきてくれるなんて(ニコニコ)」

真理奈「(真剣な顔で)お年玉沢山もらったって言ってたよね?」

大 地「はいはい、うち親戚多いからさ、ん?」

真理奈「貸して(思いつめた表情)」

大 地「(キョトンとして)? いいけど」

真理奈「じゃ、放課後借りに行く」

言い終わり、足早に去る真理奈。

が、思い出したように振り向き、

真理奈「それと、明日からインフルエンザになるから」

と、今度こそ去っていく。

大 地「? (真理奈の背中を見送り)……」


〇同・真理奈の教室(日替わり・朝)

真理奈の席だけが空いている。


〇バス・車内(日替わり・夕)

大きな鞄を持ち揺られる真理奈。

スマホのライン画面。

絵美子は既読無視。


〇苫小牧市・フェリー乗り場(夜)

乗り込む真理奈。


〇東京駅(日替わり・夕)

バスから降りてくる真理奈。

路上案内を見ながら電車の乗り場を探している。

地面に雪はなく乾いている。

真理奈のM「雪が」

歩き回る真理奈。

真理奈のM「雪が」

反対側を歩き回る真理奈。

真理奈のM「ない」


〇東京都・絵美子の実家(夜)

庭がある戸建ての家。

玄関前で待つ真理奈。

出てくる祖母、鎌田とし江(68)。

とし江「あら、よく来たねえ、まりなちゃあん」

の後ろに、ばつのわるそうな絵美子。

絵美子「……真理奈、ありがとう」

真理奈「連れ戻しに来たから」

突っ立っている真理奈。

泣きながら駆け寄ってきて真理奈を抱きしめる絵美子。

もらい泣きを制し、絵美子の背中を叩いてなだめる真理奈。


〇同・居間(夜)

真理奈、絵美子、鎌田庄之助(72)、とし江ですきやきの鍋を囲んでいる。

とし江「まりなちゃん、よく食べるねえ」

絵美子「お母さん、真理奈はスキーやってるから沢山動いてお腹減るのよ、ね?」

真理奈「ばあちゃん東京は、雪は降らないの?」

とし江「やだあ、まりなちゃん。こっちは、たま~にだよ」

とし江「雪が降った日は東京の子たちは喜ぶよー珍しいからねぇ」

真理奈「へー」

とし江「こっちで暮らせばいいよ、この辺はのどかだし、東京は学校もたくさんあるしね」

絵美子「真理奈は来年は高校受験よね」

真理奈、黙って聞いている。


〇同・寝室(夜)

寝間着姿の真理奈、布団に入ってテレビを見ている。

東京近郊のスキー場が紹介されている番組だ。

真理奈「わーなんか緩そう」

スマホでスキー場のHPを検索し、コースに関する記事を見て、

真理奈「まじ人工雪で傾斜15度? レースなんてありえないっしょ!(テレビ消し)」

絵美子が、隣の布団に入ってくる。

絵美子「こうやって真理奈と隣で寝るのも久しぶりだね(と電気を消す)」

いつの間にか絵美子はすぐに眠りについている。

真理奈、暗闇の中、目を開けて天井を見つめている。

真理奈「……」


〇機内(日替わり・昼)

真理奈と絵美子。

真理奈「(窓の外を見たまま)母さん、あたし母さんと一緒に東京で暮らす」

絵美子「え」

真理奈「決めたから」

絵美子「……いいのよ、スキーをしたいんなら父さんと――」

真理奈「(振り向き)決めたの! 母さんと居たい。もう何度も言わないから」

絵美子「……」

絵美子、感極まって真理奈を抱きしめる。

真理奈も言葉は出ないまま。

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