第5話

〇練習する真理奈のモンタージュ

スキー場・フリーコース。

片足スキーで滑る真理奈。

×      ×      ×

合宿所近くの歩道。

朝陽を背に真理奈、選手たちとジョギングしている。

×      ×      ×

スキー場・ポールコース。

一人でコースを滑走する真理奈。    ×      ×      ×

休憩所。

自分の滑りをビデオ映像で確認する真理奈。

画面を指さし解説する芹野。


〇スキー場・ポールコース(日替わり・昼 )

芹野、田中、選手に説明している。

芹 野「今日が最終日だ。これまでの集大成としてタイムを計測する」

×      ×      ×

胸を張り位置につく真理奈。

その表情は自信を感じさせる。

スタートする真理奈。

田 中「日高さん、今のところ完璧だ!」

真理奈、そのまま最後までノーミスでゴールする。

拳を振り上げ叫ぶ真理奈。

スキー板に取り付けられている計測器のタイムを見る。

続いて悠利が降りてくる。

悠 利「いくつ? 真理奈」

真理奈「58秒63」

悠 利「うそ、同じ。私も58秒63!」

二人、肩を叩き合い笑う。

真理奈「この勢いで次の全中は絶対勝つから!」

悠 利「そう簡単にさせるかって! でも真理奈すごく見違えたよね!」

真理奈「へっへー!」

芹 野「(目を細め頷き)……」

真理奈「(芹野に笑いかけ)」


〇合宿所・宴会場(夜)

わいわい騒いでいる選手たち。

マイクを持って舞台で歌おうとしている者もいる。

コーチたちは酒を呑んでいる。

ジュースの入ったグラスを持ち芹野の席に向かう真理奈。

芹 野「真理奈」

真理奈「お疲れ様でした」

芹 野「真理奈の方こそよくやったよ」

突然、割って入ってくる大地。

大 地「ていうか、いつの間に真理奈だけ名前なんすか?」

芹 野「そういえばそうだな」

大 地「できてんすか?(笑)」

真理奈「(顔を赤らめ)ちょっと!」

と、大地を肘で突く。

大 地「照れんなって」

芹 野「まあ問題児だからな、親しみはある」

大 地「(真理奈に)だって? 問題児!」

芹 野「(大地に)お前もな」

笑う3人。

芹 野「今日で最後だから何か聞きたい事あったら今のうちだぞ」

大 地「ふーん。あ、コーチ、質問!」

芹 野「おう」

大 地「ずっと気になってたんすけど、吹雪で真理奈を助けた時、コーチが人工呼吸(マウストゥーマウス)したって本当ですか?」

芹 野「……(真顔で)実は、した」

大 地「えっ(ショック)」

真理奈「(真っ赤)」

芹 野「……」

急に、めちゃくちゃ笑いだす芹野。

芹 野「ウソだよ。そんな噂あるのか? 真理奈息してたから。(笑いが)あー、止まんね。俺が中2ん時はお前らほどガキじゃなかったわ」

また皆で笑い合う。

田 中「はーい、宴もたけなわですがそろそろ終了ですよー」

真理奈「(かしこまって)あのっコーチ。本当に色々とお世話になりました。私やっぱりスキーが楽しくて、だから続けようと思います」

と、スウェットでごしごしと汗を拭いてから芹野に手を差し出す。

芹 野「(握手し)真理奈はもっともっと速くなるよ、がんばれよ(と、わざと強くギュッと握る)」

真理奈「わっ 痛っ」

芹野、いたずらっぽく笑った後、

芹 野「これ(と名刺を差し出す)」

真理奈、それを両手で大切そうに受け取る。

芹 野「何かあったら連絡してこい。スキー以外の事でもいいぞ」

真理奈「はい!」

大 地「よかったじゃん、真理奈。ファンだしサインももらっとけばー」

真理奈「(また赤く)うるさい! 余計なお世話――」

芹 野「んーじゃあ書こうか」

と、真理奈の手から名刺を引き取りペンで書く芹野。

芹 野「はい」

と、再び真理奈が受け取ると、その名刺には『Schi Heil!』と書いてある。

真理奈「す、すちー?(読めない)」

田 中「芹野さん、じゃあ締めの挨拶をお願いします」

真理奈「(小声)何ですか、これ」

芹 野「じゃあ、今言う(立ち上がり声を張る)みんな!」

一同、芹野に注目する。

芹 野「強化合宿本当にお疲れ様。俺はみんな位の時はあまり強い選手じゃなくてこういう合宿に出たこともなかった」

真理奈「……」

芹野「だけどずっとスキーが好きな気持ちは変わらずあったから長年頑張って来れた。あれこれ言ったけどみんなにはこれからも楽しんでスキーをしていって欲しい」

聞き入っている一同。

芹野「最後に俺の好きな言葉を一緒に言ってもらって終わりにしたい思う。『シーハイル』いいか?」

ざわつき疑問形の声をあげる選手だたち。

選手1「何だってー?」

選手2「初めて聞くー」

芹野「意味は『スキー万歳、スキーに幸あれ』ってドイツ語のスキー本場での挨拶だ。では、行くぞ。さんはい!」

全 員「シーハイル!」

皆立ち上がって拍手。

真理奈「(感激し名刺を見つめ)しーはいる……」


〇合宿所・廊下(夜)

部屋に戻る真理奈。

芹野目をつむったまま、田中に支えられ歩いている。

田 中「芹野さん酒弱いのに呑むなんて相当楽しかったんだなー」

真理奈「(見て)」

と、芹野、急に真理奈の腕をつかみ、

芹 野「マナミ~」

真理奈「(驚きビクつく)」

田 中「(芹野の腕を引きはがしなら)ごめんねー」

真理奈「マナミ?」

田 中「芹野さん、マナミちゃんの事、まだ……」

芹 野「マナミ……」

と、懲りずに真理奈にしなだれかかる。

真理奈「……コーチ。(ちょっと笑って)私ってマナミさんに似てるの?」

芹 野「(急に正気に返ったように)いや。似てないよ。全然」

真理奈「(凍り付く)……」

それを見て通りすぎる女子1、2。

女子1「(小声)芹野ってバツイチなんだって」

女子2「じゃあ、別れた奥さんかな」

女子1「今の恋人じゃない?」

女子2「何で別れたのかな、浮気?」

女子1「えーそうなのー?」

×      ×      ×

運転席でアクセルを強く踏む正人。

×      ×      ×

真理奈、立ち尽くしている。

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