第3話
○同・コース外・急斜面(昼)
キンとした空気。
斜度40度を超える超急斜面のオフピステ(圧雪されていないゲレンデ)。
見下ろす真理奈と大地。
急すぎてスキー板のトップが雪面に対し大きく浮き、影を作る。
固唾をのむ真理奈。
大 地「うっわゾクゾクする!」
真理奈「……」
大 地「こっから直カリ(ちょっかり)で突っ込んでって、その崖みたいなとこで止まる。崖ギリギリの方が勝ち、ね」
真理奈「下はどうなってんのかな」
大 地「それ確認したら度胸試しじゃない」
真理奈、ゴーグルをかけ本気モードON。
そのゴーグルを見た大地、
大 地「あ、ヒビじゃん」
真理奈「親がうるさいから割れても黙ってることにしたんだ」
大 地「へえ。じゃ、何賭ける? 勝負だからさ」
真理奈「別にいいよそんなの」
大 地「だーめ。張り合いがないっしょ。じゃあさ俺が勝ったら彼女になってよ」
真理奈「は? ふざけないで」
大 地「本気で言ってんだけど。いいじゃん? 勝てば関係ないんだし、それとも自信ない?(と意地悪な笑み)」
真理奈「……だね。じゃいいよ。その代わりあたしが勝ったら(大地の頭上指差し)ゴーグルちょうだい? かっこいいそれ」
大地、目立つミラー調のゴーグルを着けている。
大 地「えっ。いやこれは大事なやつで、お年玉貯めて買ったライヒと同じモデルの……」
真理奈「ふーん大事なの。でもこっちだって(大地の真似で)本気で言ってんだけど。勝てば関係ないんだし、それとも自信ない?(笑)」
大 地「っ……めんどくさいからやっぱこの賭けなし! 俺から行く!」
と、先にスタートを切る。
笑う真理奈。
大地、全速力で滑っていき、すんでの所でブレーキをかける。
大きな雪煙で大地の姿が一瞬見えなくなる。
煙が晴れ、ギリギリのいい位置に止まっている大地。
ストックを振り上げOKの合図。
次は真理奈。
すっと息を吸い、滑り出す。
空気抵抗最小限のクローチング姿勢で加速していく。
風の音がびゅんびゅんうるさい。
真理奈のM「あたしの大事なものって、あったっけ?」
真理奈の瞳、震えている。
真理奈のM「あったっけ?」
突然風の音がやむ。
真理奈「え」
真理奈、ブレーキをかけ損ね……
× × ×
コマ落的な動き。
真理奈の体が宙に浮かんでいく。
を、見ている大地の目、だんだんまあるくなって口はゆっくり開いていく。
舞うダイヤモンドダスト。
その一つ一つが連続して七色のどれかの色に変わっていく。
× × ×
真理奈のM「あたし、死ぬの?」
崖上に大地を残し、真理奈落下する。
○同・崖下(昼)
崖上から5メートル程下。
柔らかい新雪に埋もれている真理奈。
駆け付けた大地が腕を引っぱり上げ、
大 地「まりなっ大丈夫か!?」
真理奈、むくりと雪だらけで起き上がり、笑う。
真理奈「あははははっ」
大地もつられて笑う。
大 地「よかったよ、何でもないんだ?」
真理奈、ぴんぴんしている。
真理奈「うん! あたしの勝ち」
大 地「ちっくしょ負けたわ、落ちるとか裏技使うなよな」
真理奈「ねぇゴーグルちょうだい?」
大 地「いやいやムリムリこれはだめ」
真理奈「え~ケチ」
二人、じゃれ合ってコースに戻って滑り降りていく。
を、リフト上から見ていた芹野。
芹 野「(眉間に皺寄せ)……」
真理奈、ふと真顔になる。
真理奈のM「死ぬって思ったら、不思議と穏やかな気持ちになれた気がして」
○合宿所・ミーティングルーム(夜)
ドカッと机の脚を蹴る音。
ペンが転げ落ちるが、近寄りがたい空気に誰も拾えずにいる。
真理奈と大地、立たされて芹野に説教をくらっている。
芹 野「遊びのつもりならやめてしまえ! スキーヤー失格だぞ」
大 地「すいません……」
真理奈「(無表情)……」
芹 野「記録伸ばす以前に、死んだらおしまいなんだよ。お前らの親御さんも心配するだろ?」
大 地「はい……」
真理奈「(無表情のまま少し首傾げ)……」
芹 野「(真理奈を見)!」
大 地「すいませんでしたぁ!(深々と頭を下げ)」
芹 野「(真理奈に見かねて)もう、行け」
○同・廊下(夜)
真理奈、大地。
大 地「ったく、アイツの言ってることもわかるけど、俺らのリア充感に嫉妬してんのもあんだろ……って真理奈?」
真理奈「(放心状態)あ、そうだね。おやすみ」
部屋に帰っていく真理奈。
大 地「……」
その背中を見送る大地。
○スキー場・ポールコース(日替わり・昼)
強化合宿用のコースにポールが張られ、選手たちは競技用の練習をしている。
が、その中に真理奈の姿は、ない。
リフトを降りる大地。
前方の真理奈に声をかけようとする。
大 地「おい! まりな……」
が、真理奈は気づかないのか前方のリフトに乗り込みさらに山頂へ上っていく。
大 地「……」
コース下、芹野も真理奈を見て、
芹 野「(呟き)馬鹿が……勝手にしろ」
○同・山頂コース(昼)
真理奈、一人で滑っている。
ほとんど直滑降ばかりで暴走している。
滑り降りて、またリフトに乗り、また直滑降をひたすら繰り返す。
虚ろな目。
真理奈のM「今はただそのスピードを感じていたくて」
○同・全景(昼)
黒い雲が垂れ込める。
強い風が吹き始める。
○同・ゲレンデ(昼)
吹雪になってきた。
場内アナウンス。
アナウンス「臨時案内です。天候不良につきリフトの運転を一時見合わせております。無理にコースに立ち入らぬようお気をつけ下さい。繰り返します――」
○同・ポールコース(昼)
芹野、選手たちを誘導している。
芹 野「一旦、撤収! 天候回復し次第再開するから戻るように」
スキーを脱ぎロッジへ向かう選手たち。
芹野、指で選手の人数を数えている。
○同・ロッジ(昼)
ストーブに当たる選手や一般客たち。
ココアを飲む悠利、外を見る。
激しい風音、窓に打ちつける吹雪。
悠 利「……」
悠利、入って来た大地に駆け寄る。
大 地「真理奈だろ、いないよな。さっき上に行こうとしたけど、もう止まってて」
悠 利「……(外を見)見てあれ」
芹野、山頂行きリフト乗り場で係員と話している。
身振り手振りが大きい。
係員、機械室に戻る。
リフトが動き出す。
すぐにそれに乗り込む芹野。
大 地「芹野。あいつ無理やり……」
山頂へ登っていく芹野の後ろ姿。
○同・山頂コース(夕)
濃霧。
ほとんど真横に降っている猛吹雪。
視界が半径30センチ程しか確認できないくらい辺りは真っ白。
真理奈、滑っている。
真理奈のM「まるちゃん、あたし何でスキーしてんのかな?」
× × ×
正人の顔。
正 人「真理奈、スキーは楽しいだろ?」
× × ×
真理奈、首を横に振る。
真理奈のM「楽しいって何?」
× × ×
絵美子の顔。
絵美子「バカバカしいのよ」
× × ×
滑り続ける真理奈。
真理奈のM「わかんない」
× × ×
暗闇。
真理奈のM「でも、やらなきゃ」
× × ×
まるおを持った真理奈(5)、絵美子(31)、正人(36)が笑っている。
真理奈のM「母さんと父さんを……」
× × ×
真理奈、吹きすさぶ雪に包まれ……
○同・真理奈のいない場所(夕)
芹野、ライトを付けたヘルメットで滑りながら真理奈を探している。
芹 野「(辺り見えず)畜生っ! あいつ……どこにも行くんじゃねえぞ」
立ち止まり手あたり次第に光を当ててみるが手がかりがない。
閉口する芹野。
と、遠くから声らしきものが聞こえる。
芹 野「? いるのか? 日高?」
と、耳をそばだてる。
少女の声「(消え入りそうな小さな声)……さん。……さん」
芹 野「……そっちなのか?」
少女の声「こっち……」
芹野、声に導かれるように滑っていく。
一瞬、吹雪の切れ間ができ視界が見渡せるようになる。
白一面の中に真っ赤なヘルメット。
真理奈だ。
芹 野「おい!」
真理奈、木の陰で倒れ気を失っている。
○同・ロッジ(夜)
日が落ちている。
芹野、真理奈をおぶって入ってくる。
真理奈は目をつむったまま。
騒然とする選手たち。
駆け寄る大地、悠利。
大 地「きゅ、救急車は」
芹 野「さっき呼んだ。そろそろ来るはずだ」
芹野、真理奈に暖を取らせるため選手たちに指示し始める。
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