転機

 二〇十五年はブラサカ日本代表にとっては正念場の年だった。来年開かれるリオパラリンピック出場権をかけて行われる九月のアジア最終予選の開催地が、日本に決定したからだ。

 リオの次は東京で大会が開かれる。その自国開催の前に一度もパラリンピックの切符を手にしたことない日本代表は、是が非でもその切符を手に入れようと必死になっていた。

 千夏と巧が参加した合宿の翌週には日本代表合宿が行われ、その翌週にコロンビア代表が来日し親善試合が行われた。

 結果は一対〇と見事に勝利を収めた日本代表は、その後も代表合宿を経て五月中旬に韓国開催の国際大会へ出場したが結果は五位。さらに六、七月の代表強化合宿に続き、七月から八月にかけてスペイン遠征が組まれた。

 そこで親善試合を六試合行い、パラリンピック予選に出場できる代表の最終メンバーが発表されたのだ。

 スペイン遠征は二勝二敗二分で終え、FP八名、GK二名の代表メンバーが決定し、その後八月には三日間の強化合宿を行い、九月二日からいよいよアジア最終予選が始まった。

 パラリンピックへの出場権を得るためには、日本は最終予選で六チームによるリーグ戦を戦って、上位二チームに残らなければならない。だがアジアでは中国とイランが強敵だ。

 それでも開催地がホームである日本は、多くのサポーターが会場である国立代々木競技場に押し寄せ、初めてのパラリンピック出場を夢見てサポーター達が大きな声援を送った。

 しかし最大の強敵である初戦の中国に0対1、次の対イラン戦は0対0に終わり、序盤から苦しい戦いを強いられた。

 三試合目の韓国戦は2対0、次の対インド戦は5対0、最終戦の対マレーシア戦では2対0と日本は勝利した。だがその時点で中国とイランが上位二チームに入り、日本はリーグ戦三位となり、ブラサカ日本代表はパラリンピックの切符を手にすることができなかったのだ。

 日本代表が厳しい戦いを行っている間に、千夏達の動きも並行して活発になっていた。女子ブラサカ練習会は四月、十月、十二月と開かれ、彼女は順調にブラサカの技術を磨いていた。

 一方で巧の所属するフットサルチームは、例年六月から翌年二月まで開かれているリーグ戦の開幕戦が五月に前倒しとなった。翌年二月にW杯予選を兼ねたアジア選手権が開かれるためだ。その為十二月までの約八ヵ月間のシーズンを戦った。

 チーム成績はリーグ一位を逃して僅差の二位に終わり、年明けの上位チームによるプレーオフでは決勝に進出した。だがそこで敗退したため、昨年まで八連覇を続けていたチームは優勝を逃してしまったのである。巧が所属してから初めての出来事だった。

 巧個人の成績は先発で六試合、途中交代で六試合と全試合の約三分の一にしか出場できなかった。けれど昨シーズンよりは良い成績を残したと自負もしていて、シーズン終了後も監督やコーチからは高い評価の言葉を貰った。

 しかし日本一決定戦のプレーオフでは出場する機会がなく、また二月のアジア選手権に参加する日本代表にも選出されなかった。

 その為巧の今年度におけるシーズンは、実質一月で終わった。これからは来季に向けて再び体作りから始め、シーズン開始までの準備に取り掛かることになる。

 同じく代表選出されなかった選手達の中にはチーム契約から外されたり、他のチームへの移籍を打診されたりという動きがあるなど、クラブとしても他からの選手補強を考える時期に入っていた。

 そんな中で巧は正式な形では無かったが、シーズン終了後に来季もよろしく頼むという言葉をかけられた。少なくとも今期でチームから首を切られる心配をしなくて済みそうだった。

 それどころか日本代表選手でもある田上さんがチーム優勝を逃したため、アジア選手権出場後に来シーズンから他チームに移籍するのでは、という噂が飛び交ったのだ。

 それが現実となれば、巧が正GKになるチャンスにもなる。また選手補強のために、まだ若い巧に正GKとして他のチームから声がかかる可能性さえあった。 

 だが巧は来年度に向けて全く別の選択肢を選び、年が明けた一月のプレーオフが終わった後、自分の決意を会社に告げたのだ。

「おい、飯岡。辞めると聞いたが一体どういうことだ? 他から声でもかかったのか?」

 職場の上司には事前に伝えてあったので、巧は彼とともにクラブの監督室に呼び出されていた。

 部屋へ入るとソファに座るよう言われ、監督やコーチ陣に取り囲まれてそう問い詰められたのだ。

「いえ、他のチームとは一切接触していません。それに僕はフットサル自体を辞めようと思っています。この会社には、クラブに所属することを前提で在籍しています。ですから会社自体も辞めなければならないことは覚悟の上です。チームには五年、会社には三年の間でしたが、今まで大変お世話になりました」

 席を立って巧は神妙に頭を下げた。横にいた上司は渋い顔をして腕を組んで黙っている。彼には辞める理由を説明していたが、クラブには自分の口から詳しく話せと言われていた意味がそこで理解できた。

 彼は巧が辞めると言い出したとしか、監督達に伝えていなかったようだ。

「まあ座れ。フットサル自体を辞めるなんてどこか怪我でもしたのか。それとも病気か」

 コーチの一人が心配してそう尋ねてきたが、巧は一度席に座り直して首を横に振った。

「いえ、怪我も病気もしていません。そうではなく、僕は今後フットサルを辞め、ブラインドサッカーのキーパーとして、日本代表を目指したいと思っています。ですからクラブと会社を三月末で辞めさせてくださいとお願いしに参りました」

 クラブはオフに入っている為辞めるのはいつでも良いのだが、職場の方はそう簡単にいかない。新年度が始まる前にけじめをつけるとなれば、三月末かまたは引き継ぎのことを考慮すれば四月末になる可能性もあると思い、巧は早めに退職の意思を告げたのだ。

「ブラインドサッカーだって? それでフットサルを辞めるって言うのか。飯岡、自分が何言っているのか判っているのか。お前は将来の日本代表候補選手なんだぞ。クラブのキーパーで箸にも棒にもかからないレベルの選手が、日の丸を背負いたいから可能性のある別の競技をやると言い出したのならまだ判る。だが今年のアジア選手権には選ばれなかったが、二年後の大会こそは代表に選ばれる可能性は高い。いや、もしこの二月のアジア選手権で日本が勝ち上がってW杯出場が決まれば、また新たに代表選出が行われる。可能性は高くないが、そこで日本代表として選ばれることだってありえるんだ。そんな時期に何を言いだす。何故今辞める必要があるんだ。しかもブラインドサッカーって、」

 そこまで言った監督は、千夏の存在を思い出したようだ。彼は昨年三月に開かれたブラサカ若手育成合宿に巧が同行する許可をくれた人だし、彼女のことを昔からよく知っている。

 女子サッカーU-二十一代表に選ばれる頃よりも、ずっと前から才能のあるサッカー選手として注目していた数少ない理解者の一人だ。

「お前、もしかしてあの里山がブラサカの女子日本代表チームを立ち上げるために頑張っているから、そっちの手伝いをしようというんじゃないだろうな」

 監督の言葉に千夏を良く知らない一部の他のコーチ達が、驚きの声を上げていた。

「自分の生活はどうするつもりだ。社会人として働いている今でも、決して楽では無いだろう。うちのクラブだって、完全なプロチームじゃないからな。ブラサカならなおさらだ。ボランティアもいいところだろ。平日、会社で働きながら土日の休みを練習や試合に費やし、移動や遠征がある度に自腹で交通費を払うような生活をするとでも言うのか。この会社も辞めると言ったが、別の就職先はもう決まっているのか」

 憮然とした監督の言葉に、巧は否定した。

「いえ、それはこれから探します。まずは就職先を決めてから会社とチームを辞めた方が堅実なのでしょうが、それも何か違う気がしまして。僕は会社とチームの方にきちんと説明しけじめをつけて辞め、それから探したほうがいいと思っていたものですから」

「何だって。それでこれからの生活は大丈夫なのか」

「とりあえず僕は実家暮らしですし、当面は今まで働いた分の貯金もあるので大丈夫だと思います。失業保険もでるでしょうから、その間に働き口を探そうと考えています」

「それはどこまで、誰にまで相談して決めたんだ。飯岡の両親はなんて言っているんだ。里山には相談しているんだろうな」

「いえ、今のところは両親にも里山にも言っていません。自分一人で決めました。ただ里山の後見人である彼女の祖父の棚田さんには、少しだけそういう話をしたことはあります。でも本気で会社を辞めるとは、まだ思っていないかもしれませんが」

「おいおい、大丈夫なのか。そんなアバウトな考えで、こんな将来の大事なことを決めて。それに良く考えたら飯岡がブラサカで日本代表を目指しても、里山とは一緒に代表としてプレーできないだろう。里山は女子代表チームができたら、そこで活躍できるように頑張っているんだったよな。それでもお前はブラサカの男子日本代表を目指すのか」

 監督は呆れたように、巧の顔をじっと見つめた。上司は腕を組んだまま黙っている。

「はい。きっかけは確かに里山なんですが、それだけじゃないんです。以前監督にはお話したと思いますが、昨年彼女に同行してブラサカの合宿に参加した際、ブラサカのグラウンドに立ってキーパーをさせて貰いました。あの時から徐々に決心が固まっていたんです。正直言うと、最初はただ里山がまだ設立もされていない女子日本代表を目指して頑張っているのを見て、もっと身近で応援できないかと考えていました。でも今のままだと僕がクラブと会社を辞めない限り、彼女のサポートも中途半端にしかできないと悩んでいたました。でも去年僕がブラサカのキーパーをやり、里山の応援だけでは無く自分自身があのグラウンドに立ってみて、僕の居場所はここなのかもしれないと感じました。僕も日本代表になって、世界の人達と戦ってみたいと思ったんです。彼女と共に互いが男子と女子の代表を目指しながら、国内チームでは男女共に参加できますから二人で協力し合っていこう。それなら同じチーム、種目で彼女のサポートができ、自分の目標も追いかけられると考えたんです。勝手言って申し訳ございません」

「いや、それにしてもだな。もったいないとは思わんか。俺はそう思えて仕方がないんだよ。お前には才能があるし、まだ若い。今年で二十二歳だろ。せめて今年のアジア選手権が終わって、W杯の進出を決められるかどうかを待たないか。その後の代表に選ばれるかどうかに挑戦してみてからでも遅くはないだろう。いや今年が駄目でも、せめて再来年の選手権や次のW杯までフットサルを続けてみる気はないのか。そこまでやっても、お前はまだ二十六歳だぞ。選手としては一番脂が乗る時期じゃないか。それでも代表に選ばれなかったなら、その後に考えても遅くはない。それとも会社やクラブが嫌いになったか」

「いえ絶対そんなことはありません。決してフットサルが嫌いになったとか、このクラブや会社が嫌になったとかではないんです。それどころか僕はとてもこの会社もクラブも大好きですし、大変感謝しています。これまではずっとここにいながら、田上さんのような日本代表選手になりたいと本気で思ってきました。でも今の僕には、それ以上の目標ができてしまったんです。それを目指すのにフットサルが駄目になってから、なんて半端な気持ちではブラサカの選手達に失礼ですから。僕は本気でブラサカのチームの一員として日本代表に選ばれ、二〇二〇年東京パラリンピックの舞台に立ちたいと思っているんです」

 巧はもう一度席を立ち、今までの感謝と勝手を言う巧の我儘に関してのお詫びのつもりでもう一度頭を下げた。

 ずっと頭を下げたままの巧を見ていた監督はしばらく何か考えていたようだが、巧にまた座るよう言った後、それまで黙って聞いていた上司に声をかけた。

「正直、どう思います? 確かにフットサルのクラブ監督としては別の競技で代表を目指したいと本気で頭を下げられたら、止めることはできないですよ。確かに飯岡の実力ならブラサカのキーパーとして、日本代表に選ばれる可能性は高いと思います。いや私はブラサカの試合自体よく観た訳でもないですが、フットサルの日本代表候補も夢じゃない飯岡なら逆に選ばれないと困る。ですから本気でやると言うのなら個人的には応援はしたいとは思いますが、会社の方はやっぱり辞めないといけませんかね」

 意外な言葉が監督の口から出たため、ソファに腰を掛け俯いていた巧は思わず顔を上げた。すると今まで隣で沈黙し続けていた上司が、初めて口を開いた。その内容もまた、全く予想していなかった言葉が発せられたのだ。

「職場の上司としては、三年で辞められるのは正直困りますね。飯岡は真面目に働いていたので職場での戦力としてもこれから、という期待をしていましたから」

「怪我等でクラブを続けられなくなった選手でも、仕事を続けている者はいますよね」

 監督がそう話を促すと、上司は強く頷いてさらに別の提案まで出してきた。

「確かにいます。もちろんその人物の職場での能力を加味してのことですが、飯岡なら大丈夫でしょう。だから彼が仕事を続けることは問題ないと思います。でもそれだけだと、もったいないとは思いませんか。彼はただフットサルを辞めるだけじゃない。ブラサカに転身して、しかもうちのクラブで活躍した力を持って、日本代表を目指すのでしょう? 会社としても、宣伝効果は見込めると思うんですけどね」

「確かに会社がうちのクラブのスポンサーになっていただいている意味から考えても、今後の新しい戦略の一つとして、飯岡が所属するブラサカチームに会社として応援するという手があります。しかも里山選手という抜群のマスコミ効果が見込める選手がいますから。なんならうちの会社が、飯岡とセットで囲い込めるといいんですけどね。そうなれば八千草のブラサカチームは設立されたばかりですし、地元地域への貢献と福祉への支援という名目もできます。宣伝効果は十分見込めると思いますよ」

「前に監督は里山選手がマスコミに騒がれ始めた頃にも確か、そういう提案をされていましたよね。残念ながらあの頃の彼女の扱いは、ワイドショー的な側面があってリスクもありました。そこで会社も後援するには時期尚早と判断し、保留になりましたね。しかし今なら飯岡を全面押しにして、里山選手はついで位に扱えばリスクを減らせるじゃないですか。飯岡が日本代表入りする可能性は高いでしょうし、女子のブラサカはあの頃よりもずっと本格的に活動しているようです。少なくとも日本女子の代表選抜を待つよりも、飯岡がパラリンピック日本代表選手として決まれば、それだけでもいい宣伝になると思います。しかも障害者に対する支援にもなる、となれば社会的イメージは悪くない」

「いきなり里山選手押しで、ブラサカという障害者スポーツ支援をしだすと売名行為と言われかねません。ですがあくまでうちに所属する飯岡が転身するからと言えば、いい口実になるかもしれませんね。いやそっちの方がいいな。彼女は前回の時に名前を売り過ぎましたから、飯岡とセットでその辺りの批判を相殺できればいいかもしれません」

「じゃあ早速、上の方に掛け合ってみますか。監督も一緒に来ていただけると助かります。まずは広報を担当している、総務部長あたりから攻めてみましょう」

「総務部長とは私も懇意にしていますし、話を最初に持っていく相手にはいいですね」

「ではよろしくお願いします」

 そう言うと上司と監督は二人とも立ちあがり、そのまま部屋から出ていこうとする勢いだったので巧は慌てて声をかけた。話の展開が余りにも突然で意外な方面に進んでいたことに困惑を隠しきれなかった。

「あ、あの、話が唐突過ぎてよく判らないのですが、結局僕はどうすればいいんですか? しかも里山にはこの件について何も言ってないので、いきなり僕とセットでと言われても、」

 だが巧の話は途中で上司に遮られた。

「まあ、飯岡君の考えと説明は今聞いたから。今後どうするかは、こっちで話を進めて検討してみる。それまで君は待ってなさい。少なくともまだ三月末ではないし、辞めることも認めたわけじゃない。だから君は引き続き職場に戻り、仕事をしてください。クラブの方は今、シーズンオフでしょう。だったら体を休めるなり、体がなまらない程度に軽く自主練習でもしていればいい。それでいいですね、監督」

「はい。ああ、チームの他のメンバーには、正式にこっちの話が決まってから説明するからそれまで絶対黙っていろよ。去年と同様、今まで通りのオフの過ごし方でいいから」

 そう指示すると二人は外に出ていった。部屋に他のコーチと一緒に残された巧は、茫然とするしかなかった。そこでコーチの一人が声をかけてくれた。

「良かったじゃないか。まあ飯岡がフットサルから引退して、チームを辞めるのは残念だ。でもあの調子だと、このまま会社にもいられそうじゃないか。話がうまくまとまれば、会社と別途スポンサー契約を結べるかもしれないぞ。しかも里山選手と一緒にな」

 するとまた別のコーチが、横から話に加わった。

「聞くところによると、里山選手の家はいろいろあったけど、そのおかげでと言ってはなんだが経済的に裕福で、今は働かずにブラサカをやっているんだろ? でも後見人は祖父母だっていうじゃないか。それだと将来的には困るだろ。それをうちの会社がスポンサーになる話になったら、ブラサカを続けていくにしても少しの助けにはなるんじゃないか? 今までだって、貯蓄を切り崩しながら遠征しているんだろ?」

 巧はそう尋ねられたので、知っている範囲内で答えた。

「確かに全て自腹ですね。彼女の祖父母の家も比較的裕福なので今のうちはいいですが、ずっと今の状態を続けるとなれば、将来的には心配しているとは聞いています。ブラサカを続けている他の選手達も、平日は働きながら土日の練習に参加しています。だから大会への参加や遠征の交通費も自腹で、みんな経済的には決して楽ではないようです。」

「それはそうだろ。マイナー種目をやっているスポーツ選手はみんなそうだ。それに障害者だと、働き口も限定されてさらに大変だろうな」

「そうなんです。特に視覚障害者は按摩あんまはり、おきゅうなどの職に就く人が大半だと聞きました。後は美容マッサージ師なんかもあるようですけど、採用枠も限られていて、それほど給料も高くないらしいです。それで国内遠征はもちろん海外遠征も自己負担となると、同行する人がいればその分もお金がかかります。だからなかなか厳しいようですね」

「それを会社がある程度補助してくれるのなら、助かるじゃないか。まあスポンサー契約と言っても最低限の交通費とかユニフォーム、シューズなんかの必要経費程度だろうけど、自腹よりはマシだろ。飯岡だってそうだ。実家のあるこの地元で会社勤めしながら、しかも特別に補助が出るとなれば経済的な不安は減るだろう」

「それはそうですが、でもそんなうまい話ってありますか? 僕はもうこの会社を辞めるしかないと思っていたんですけど」

「いや監督が里山選手のことを、以前からよく知っているのは飯岡も聞いているだろ。それに飯岡がうちに来てからも、里山選手がブラインドサッカーをやり始めたと知って、なんとかうちでスポンサー活動できないか、何度か上の方と話をしていたようだから」

「僕は全く知りませんでしたが。そのようなことを先程おっしゃっていましたね」

「うちのクラブの運営でさえ、それ程余裕がある訳ではない。里山選手への注目も、以前は一過性で騒ぎも大きくなった分リスクがあるから保留にされた。だけど一時期はかなり進んでいた話なんだ。それが今回飯岡の話が出てきたから、再交渉するきっかけになって良かったんじゃないかな」

「そうなんですか? たしかに彼女は華がありますし、マスコミ受けするのはこれまでの実績があるから判ります。だけど僕がブラサカに転身するだけで、そんなに話題性がありますかね? しかもまだ日本代表に選抜されたと決まった訳でもないんですよ」

「いや、飯岡が去年里山に同行して帰ってきてから、向こうの話をしていただろ。その後監督がブラサカ協会の方に連絡を入れて、詳しく話を聞いたらしい。そうしたらすごく評価が高くて、いますぐにでも日本代表の強化選手に選びたいほどだってさ。ただそんなことしたら、そちらのチームに迷惑がかかるでしょうし、フットサル協会の方にも怒られてしまうでしょうから諦めますけど、って言っていたらしいよ」

「本当ですか? 監督が協会に連絡したんですか?」

「ああ。そしたらコーチの竹中って人とか監督も電話口に出て、褒めまくられたって苦笑していたよ。監督は当たり前だ、飯岡は将来のフットサル日本代表候補なんだぞって」

「そんなことが。僕はそんな話を聞いていなかったので、全く知りませんでした」

「だからお前が辞めるって話を聞いて俺達は驚いただけだったけど、あの二人の頭にはそれならそれで打つ手があると思ったんじゃないか。監督もお前のところの上司もある意味、策士だし。でも良く考えてみれば、結構いい話になりそうだと俺も思うけどな。」

「いやこんな展開になるなんて、考えてもいませんでした」

「お前一人だけなら、こうはいかなかったかもな。飛びきり商品価値のある、里山選手とセットという点がミソだろう」

 そう言われてハッとした。巧がフットサルと会社を辞めて、ブラサカに専念したいという考えはまだ千夏に内緒だ。正男さんにすら仄めかしている程度だから、会社が先走って二人セットと決めつけられても彼女が困る。

 それだけではない。ただでさえ巧がフットサルを辞めてブラサカに転身する話を黙って決めたと聞いたら、彼女には激怒される覚悟をしていた。だがここまで話が大きくなったら、それだけでは済まされないかもしれない。

「僕の話だけじゃないんですよね。今、会社から彼女に接触されると困ります」

 巧は事の重大さを徐々に理解し始め、冷や汗が出てきた。こういう時に臆病な一面が出てしまう。そのことをよく知るコーチが、様子をみて落ち着くよう声をかけてくれた。

「大丈夫。心配するな。まずはあの二人に任せておけ。飯岡がどれだけ焦って抵抗しても無駄だ。会社としてどう動くかの方向性が決まって、飯岡と里山選手をどう扱うかの方針が固まれば、あとは交渉事だから。飯岡や里山選手と会社が話し合い、受け入れられる条件なら受け入れてもらって、駄目ならどうするかは今後三者で話を進めていくしかないんだ。今からあれこれ考えてもしょうがない。なるようにしかならんさ」

 そう肩を叩かれた巧は、なんとか落ち着きを取り戻そうとしたがまだ表情は硬いままだったようで、さらにコーチは話を続けた。

「決して悪いようにはしないと思うよ。うちの社長も福祉関係や地域振興への関心が高い。監督も里山選手のことを昔から知っているだけに、マスコミ関係の交渉は慎重に進めると思う。今までも周囲に騒がれすぎて、潰れたスポーツ選手は多い。そういう選手に限って、間に入る人がいなかったり金儲け優先の事務所に利用されてしまったりするんだ。だったらうちの会社が間に入って、マネジメントした方が絶対いいだろう」

 話を聞いて冷静に考えてみると、そうかもしれないと思い始めていた。今までこの会社にお世話になってきたが、日本代表選手も数多く輩出しているだけあってマスコミや協会などとの交渉やマネジメントはしっかりしているし、経験値も高い。

 なにより巧が会社を辞めなくてよく、職場を変えずにブラサカがやれるならそんないいことはない。会社での仕事もやっと慣れて職場の人間関係も良好だし、今のところ何の不満も無かった。

 それどころか、中途半端な形で辞めることを申し訳ないと思っていたほどだ。それなのに居てもらわないと困ると上司に言われた時は、涙が出そうなくらい嬉しかった。

 こうして他人に認められることがあるからこそ頑張れるし、やり甲斐や生き甲斐も出てくるものなんだな、と改めて思う。

 もしコーチ達が言っていたように、会社からブラサカに対する援助まで得られるようになれば助かるなんてものじゃない。

 日頃から様々な人の援助や寄付やボランティアに頼りながらも苦労している八千草のブラサカチームやブラサカ協会の現状からいえば、とても喜ばしいことだ。千夏も歓迎してくれるに違いない。

 ただどういう条件になるかにもよるだろうが、巧とセットで会社の支援を受けマネジメントを任せるとの話に、彼女が首を縦に振るかどうかは大いに疑問を持つところだ。

「巧は勝手にやりたきゃやればええけど、私は私でやるからええよ。巧とセットで世話されるなんて同情されているみたいで嫌や」

と、鼻であしらわれるのがオチではないか。巧はそれが一番の心配事なのだと、そこで改めて気が付き体中に悪寒が走った。

 だが四月に入り新年度が始まった頃には、あの時の心配はなんだったのだろうと思うほど、会社と巧と千夏を中心とした交渉はトントン拍子に進んだ。

 巧は引き続き同じ職場で働きながら、基本的に毎週土曜日か日曜日のどちらかはブラサカのチーム練習に参加し、チーム練習が無い日や平日の早朝と夕方遅くは千夏との練習に明け暮れることになった。

 ちなみにフットサル日本代表は、結局二月のアジア選手権ではW杯の切符を勝ち取ることはできなかった。その為巧がフットサルを辞めるという結論を先延ばしにしたからと言って、その後日本代表に選ばれてW杯に出られたかもしれないとの夢は夢のまま終わっていた。 

 一方ブラサカ界では二〇十六年に入って二月、四月、とブラサカ女子練習会が開催されていた。四月から五月にかけては昨年開かれたように、十歳から二十三歳までの若手を中心としたブラサカ・アスリート合宿が再び行われたのである。そこに始めて巧は選手として千夏と二人で参加することができたのだ。

 もちろんそこに至るまでに、ひと悶着はあった。会社の総務部とクラブの監督と巧の上司が、巧を引きつれて千夏の家を訪問した時の事だ。

 事前に訪問することは正男さんを通じて伝えていたし、奥さんの朝子さんと谷口たにぐちという千夏の所属する八千草のブラサカチームの主催責任者兼監督にも同席してもらうようお願いをしていた。

 正男さんは千夏に交渉内容の詳細を告げていなかったらしく、何の話が始まるのかと彼女は最初からいぶかっていたらしい。そこで最初に会社の上司が口火を切った。

 巧が会社を辞め、フットサルを辞めてブラサカをやりたいと言ってきたと、ことの始まりから説明しだしたから大騒ぎだ。それを聞いた途端彼女は、怒りと戸惑いと悲しみなど様々な感情が入り乱れたのか、百面相のようにコロコロと表情を変えながら、顔を真っ赤にして怒鳴り始めたのである。

「巧! あんた何考えとんの! 私に相談もせんと勝手にそんなこと言い出して!」

 慌てて正男さんや朝子さん、谷口が止めに入ってやっと彼女を落ち着かせた。そこからまず巧の処遇は、クラブを辞めてもそのまま職場で働き続けてもらい、ブラサカチームへの参加を会社として認めたと告げて、ようやく彼女は少し大人しくなった。

 そこから会社の総務部から、飯岡というフットサルの日本代表候補クラスの選手がブラサカに転身するのだから、ただ送り出すだけでなくこれを機に応援したい、だから飯岡選手のマネジメントも含め、小額ではあるが八千草のブラサカチームへの援助もしたいと告げたところ、これには千夏も谷口も大いに喜んだ。  

 チームが日頃から、協賛金を募って苦労しているとは聞いていた。ホームページを作成して寄付金を募り、その集めたお金で最近やっと自前のサイドフェンスを購入することが出来た。

 今度はフェンスに広告を載せることで、企業からの収入を得ようと動き出していることも聞いている。また練習参加してくれる人や、お手伝いしてくれる人を常に募集をしていた。

 八千草のチームは、今年の秋に始まるブラサカ協会が正式に認可する西日本リーグに参加しようと動き始めたばかりで、まだ実績はなく選手層も薄い。

 現在ブラサカ協会に正式登録されているチームでさえも参加者が思うように集まらず、年によってはリーグ戦に参加できないこともあるという。障害者達や健常者で参加している人達にも、それぞれの生活があるからだ。

 コンスタントに練習を続け、チームを運営し続けるというのはなかなか困難らしい。だから安定して参加できるチーム作りの為に、谷口は選手集めを始めとして協力してくれる企業回りなどいろんな所に顔を出していた。

 千夏もその運動に協力して取り組んでいる最中だったのだ。よって巧ほどの選手がチームの一員として参加してくれるだけでもありがたいのに、協賛してくれる会社を紹介してくれるなんてそんな喜ばしいことはない、と谷口は涙ぐんだ。

 これでまた夢に一歩近づくことになったと千夏もまた喜んではくれたが、巧がフットサルを辞めるという点にまだ納得していなかったのだろう。複雑な表情を浮かべていたが、話にはまだ続きがあると聞き、そのことは深く掘り下げずにとりあえず耳を傾けていた。

「協賛するといっても、例えば海外に遠征できる程の大きな支援は期待しないで下さい。最初はせいぜい、そちらのチームで使用されているサイドフェンスに広告を載せる程度でしょう。ただですね。そちらのチームには、飯岡選手が転身するきっかけにもなった里山選手がいらっしゃる。そこでご相談なんですが、里山選手にも当社とマネジメント契約を結んでいただけないかというのが、次の提案でございます」

 そう説明し始めると、千夏はそれこそ目を丸くしてキョトンとしていた。そんな反応にかまわず、今度はうちの監督が説明しだした。

「これは私から会社に提案をしたんですがね。里山さんのことは、八千草サッカークラブに在籍していた頃から注目していました。その才能は素晴らしかったが不運な事件に巻き込まれて今の状況に至った。でもそんなあなたが、ブラインドサッカーをやり始めたという。しかも女子日本代表チームを作る為に協会が開催する練習会に参加し続け、さらにこの地元で実績のないチームに協力して頑張っている。ならば細かいルールは違っても、同じサッカーをしている人間として、応援をしたいと思うのが人情じゃないですか」

 そこから監督は熱く語り、一昨年に始まったブラサカ女子練習会に千夏が参加し始めた時のマスコミ騒動の頃から会社の方で支援しないか、と打診していた話やその計画を断念するまでの経緯も説明し、今回の再打診にいたるまでの流れを説明した。

「私は飯岡がうちのクラブを辞めたいと聞いた時は、真っ青になりましたよ。でもその理由を聞いたら、ブラサカで日本代表になることを目指し、東京パラリンピックに出たいというじゃないですか。フットサルで世界と戦えるレベルの選手が、ですよ」

 監督は巧が辞めると言い出した時の話を細かく説明した。その話を聞いていた千夏は俯いた。正男さんと朝子さんは喜んでくれたのか目に涙を浮かべ、谷口は感動した! と大きな声を出して騒ぎだす始末だ。

「こいつがこんなに本気だったら、応援したいじゃないですか。そこには里山選手もいる。会社も慈善事業じゃないので、宣伝効果や社会貢献度が高くないものにお金は出せません。でも二人一緒なら応援もでき、うちの会社が窓口に立つことで、以前のように里山選手がマスコミの馬鹿騒ぎに巻き込まれることも防げます。これで八千草のチームが西日本リーグに常時参加でき、活躍すれば言うことはありません。ここにいる二人が揃って日本代表として日の丸を背おう姿が見られるのなら、会社もこんな宣伝効果と高い社会貢献が見込める事業はありません。どうですか、里山選手。条件面の細かい点は詰めなければいけませんが、ご了解いただけませんか?」

 以前から自分を売りだし、大きな企業のスポンサーを見つけようと考えていた彼女にとっては、当初の予定より小規模からのスタートにはなったのだろう。だが結局監督の熱弁と会社からの誠意ある条件提示を受け入れ納得した。

 その上で後見人である正男さんに代筆してもらい、巧のいる会社と契約を結んだ。そうなると話は早い。会社は新年度早々記者会見を開き、巧と千夏とのマネジメント&スポンサー契約を結び、新たに地元のブラサカチームに協賛することを発表した。

 これは全国ニュースでも割と大きく報じられ、ネットニュースでも上位に食い込むほどの注目を集めた。

 やはり当初は見た目もよく、話題性のある千夏の元に取材が殺到した。だが会社のマネジメント担当者により、当面は本人の精神面と体調面を考慮し、直接取材を受けつけないと跳ね除けたのだ。

 千夏と事前に打ち合わせたコメントだけを流すことで、過剰なマスコミの動きをブロックしたのである。これにはマスコミ各社から多少の不満の声も上がったが、ネットでは以前の馬鹿騒ぎを起こしたマスコミを非難し千夏を擁護する人達もいたらしい。

 またブラサカ協会や障害者支援をする福祉団体からも、行き過ぎた取材を自制すべきとのコメントが出されたおかげで、それほどの騒ぎにはならずに済んだ。

 ただそのおかげで、次の標的は巧になった。障害者では無いため遠慮はいらないだろうと、連日取材申し込みが押し寄せたのだ。

 それに対して会社は取材を受ける媒体を選別し、地元のテレビ局や新聞社を中心としたものに限定することでなんとか対応してくれた。その程度で済んだのは、巧がフットサルの世界でもそれほど有名だった訳でもないし、日本代表候補にも選ばれたこともないため、それほど盛り上がりはしなかったからだ。

 この一件で、世間の目はなかなかに厳しいものだと思い知らされた。巧自身が黒人のような見た目だという以外、取り立てて珍しいキャラでもない。

 将来のフットサル代表候補と期待されている若手が、幼馴染である里山選手の影響でブラサカのキーパーへと転身したという、やや珍しい話題性だけで大衆の関心を引くには印象が薄すぎたのだろう。

 おかげで地元の知名度だけは上がったが、一部では視覚障害者と健常者の幼馴染がスポーツを通じて恋に落ちる? と言った下世話な記事が流れ、ブラサカチームでも冷やかす人達が増えたのには閉口した。しかしそれも千夏の乱暴な一言で片付く。

「アホちゃうか。そんな訳あるか、ボケ」

 こう言われてしまえば、周りは逆に巧が相手にされず振られたと思ったのか同情されたのかは知らないが、多くの人がそっとしてくれた。

 言われた当の本人である巧は心中穏やかでは無かったけれど、まずは巧達がブラサカチームでの練習に力を入れることが先決だ。

 会社の支援も受け、大阪への遠征も続けながら日本代表に選ばれるべく練習し続けることで頭の中は一杯だった。それは巧達にはハンデがあったからだ。

 二人には話題性も実力もそれなりにあったが、所属チーム自体はまだ経験が浅い。そんなチームの選手が、代表に選ばれるというのは常識的に難しい。

 野球なら日本プロ野球十二球団の下位チームに所属する選手がWBCの選手に選ばれるか、またはサッカー日本代表候補に海外リーグではなくJ3クラスの選手が呼ばれるか、と考えてみれば判るだろう。

 規模やレベルは違っても、ブラサカ協会では東日本と西日本などのリーグ戦を開いている。実際そのリーグで活躍している選手が、代表選抜に呼ばれているのだ。

 それなのに協会から代表強化選手に指定されている訳でもない巧達にスポンサー企業が付いたからだろう。単に注目を集めたいだけの客寄せパンダ、または障害者スポーツをダシにした売名行為だと、騒ぎだす人達も少なからずいた。

 中には第三者だけでは無くブラサカ関係者でさえ、巧達のことを名指しで非難する人達が出てきたことも事実である。

 その人達の気持ちも判らない訳では無い。リーグに参加している選手達はこれまでみな真剣に取り組んできた。その中の多くは、日本代表に入りたいと日々努力している。

 それなのにいきなり余所からポッと出てきた部外者が、日本代表を目指していると言い出したのだ。

 しかも外見だけで世間に騒がれるような視覚障害者の女性選手が、将来の女子日本代表を目指していると聞けば、確かに面白くはないだろう。特別扱いされていると誤解した人達が不公平だと騒ぎ立てるのも無理はない。

 逆にフットサルの日本代表を目指している巧が、突然元サッカー日本代表候補だったキーパーが転向してきて代表の一枠を奪い取られ、そのせいで自分が候補から外されたとしたらどう思うか。素直に自分の実力不足だと巧は考えられるだろうか。

 だから巧達はそんな周りの偏見や嫉妬を押しのけて実力を示し、多くの人達に納得して貰う必要があった。日の丸のユニフォームを着る姿を見て、素直に喜んで応援される立場を目指さなければならないのだ。

 特に千夏にはまだ、女子代表チームすら立ちあがっていないとの現状がある。実力があってもブラサカの種目が男子と女子に別れているため、今の環境での彼女は国内リーグで体力的に勝る男性達に交じり、結果を出すしか手段がない。

 巧の方は強化合宿に参加した時の協会の人達の反応や、その後のブラサカチームに参加しての大阪遠征時の活躍からかなり高い評価をもらっている。これで世界に対抗できる強い武器が一つ手に入った、とさえ言われていた。

 よって怪我さえしなければ、このまま代表に選ばれることはそんなに難しいことでは無いと、周りからは思われていたらしい。

 だがブラサカの日本代表も、大会に出られる最終メンバーはFPが八人に対し、GKは二人と狭き門なのは他の競技と同じだ。第一ブラサカでの経験値が圧倒的に少なく、長く関わってきた他のキーパーからすれば、そう簡単にポジションを譲ってはくれないだろう。

 それでも巧が目指すところは、ただ日本代表になって東京パラリンピックに出場することではない。今まで世界に通用してきたとは言えない代表チーム力の底上げに貢献し、今度こそ正GKとして世界トップレベルの選手達と渡り合いたかった。

 素早い動きとドリブルから打たれる強烈なシュートを阻み、メダルを勝ちとりたいと真剣に思っていたのだ。

 また千夏には女子日本代表作りに貢献し、選抜されて世界に通じる日本のブラサカを見せつけたいという大きな野望があった。

 その為に巧は日々ブラサカ特有の、選手に対する守備の声かけを一から学んだ。セービングの技術もさらに磨きあげる努力をしつつ、千夏とのコンビネーションの練習を重ねた。

 まずは国内リーグの強豪チームからゴールを奪うための、まさしく武器となる技術の習得に二人は励んでいたのである。

 一つは千夏に対するスローイングだ。千夏が無音のパスを習得したように、巧も音の出ない、それでいてボールスピードの速いスローイング方法を毎日のように練習していた。

 キーパースローは、ハーフウェイラインまでに一度バウンドさせなければならない。だが成功すれば、大きな武器となる。

 相手選手が千夏のトラップによりボールの位置を把握したり、相手監督による指示によって反応されたりする前に、フリーで受けてゴール前に上がることができるからだ。しかも守備陣が整う前に、有意な態勢でシュートを打つことも可能となる。

 またこの練習には、千夏の持つ武器を生かすためにも大きな意味を持っていた。彼女は無音のパスを味方選手がどう受けとめられるかを、巧による音の出ないスローを受けることで自らが体験できたからだ。

 そのコツを他の選手に伝えられるようになった点は大きい。今までは無音のパスを出すことばかりを練習してきたが、味方がそれを受ける練習は八千草のチーム内でもできていなかった。

 それは千夏自身が受け手ではなかったため、他の選手に教えることができなかった為だ。しかし例え八千草のチームでこのパスのやり取りが成功したとしても、受け手が代表選手でなければ国際試合で使うことはできない。

 その為現在は、千夏が習得しつつある武器の一つをほぼ使えないでいた。それでもこの練習にはかなりの時間を費やした。

 これまでの練習により、千夏は巧の投げる速いスローイングのトラップを高い確率で成功していた。後は何度も打ってシュートの精度を上げるだけ、というところまで来ている。そこに今度は無音のパス、サイレンスパスを受ける練習が加わると、一気に難易度が高まった。

 巧も最初の頃は当然、無音のスローイング習得には苦労した。だから何度も千夏の出すサイレンスパスをキャッチングして確認した。

 さらにカメラを置いて彼女のキックの様子を撮影し、後で動画を繰り返し再生することでボールの回転を見たりもしたのだ。千夏のキックがボールのどの辺りを捉えているか注視し、様々な工夫もしてみた。

 そうした努力の甲斐もあり、何度かに一回はサイレンススローを成功させることができた。しかし今度は、千夏がそのボールをトラップできるとは限らない。

 サイレンススローが毎回成功する訳でもないので、千夏は繰り返しトラップしてコツを掴むことができないでいた。それでも何度も繰り返すことで、巧も千夏も体で覚えていくしかない。まさしく練習あるのみだ。

 その他に、日常生活において巧は新たに取り組んだことがある。それは正男さんが持っている多くの蔵書を借り、本を読む習慣を身につけることだった。

 これは視覚障害者である千夏の同行時に痛感したのだが、巧自身が余りにも無知で、想像力が足りないという大きな欠点に気づいたからだ。そのことを正男さんに相談したところ、まずは本を読むことだと教わった。

 読書は知識と知恵の習得と想像力の構築に最適だという。そこで読書家で特に退職後は様々な本を読んできた正男さんの持っている本を、毎日少しずつでも借りて読むようにした。

 知識や知恵はともかく、想像力を養うことはブラサカの競技にとても重要な要素である。よって巧は日々の練習と同じく、読書という習慣を自分に課したのだ。

 そんな中、八千草のブラサカチームにおける選手の動員も整い、十月開催の西日本リーグへの参加が決まった。それだけでなく記念すべき第一戦の開催場所が、地元八千草で行われることになったのだ。

 巧達はようやく練習の成果を出す場を与えられたことになる。また国内リーグ戦が開催される前に、リオパラリンピックが開催された。

 その大会で行われた数々の試合を動画により観戦したことで、巧と千夏は大いに刺激を受けた。特に優勝したブラジル選手のプレーを自分の目で見た巧は、そのドリブルシュートの凄まじさに興奮させられた。千夏も視覚障害者用に実況を入れられた解説の声を聞きながら感動していた。

 そこで東京大会は無理でも、次の大会では女子ブラサカもパラリンピックの種目になるかもしれない。だからその時には絶対出場して、ブラジルのようなレベルの高い選手達と対決するんだと息巻いていた。

 巧も早く日本代表に選ばれてブラジルの選手達と戦い、そのシュートを止めてみたいと強く思ったのだ。

 その後西日本リーグが開幕し、四チームによる総当たり戦で行われるリーグ第一戦で巧は何度かサイレンススローを成功させた。それをトラップした千夏も、敵の選手を翻弄し見事にシュートを決めたのである。

 またサイレントにはならなくても、スローからのトラップと振り向きざまのシュートを、彼女は二本決めたのだ。圧巻だったのは彼女のドリブルだ。

 ブラサカの場合、まず選手同士の細かいパス交換が難しい。その為試合の流れの中で、四人のFPの内一人が攻撃し、残り三人が守備について相手からボールを奪う戦法がどうしても多くなってしまう。

 ただそうなると、得点源になる一人の攻撃選手能力が高くないと点は取れない。それが巧達のチームの構成には幸いしたのだ。

 絶対的な攻撃能力を持った千夏は、後ろ向きのドリブルからのシュートもさることながら、普通のドリブルでも相手ディフェンスの間をするすると抜けだした。さらに相手選手を右へ左へと揺さぶる。

 時にはサイレンスパスの要領で、ボールを浮かして音を消すドリブルを交えた。すると大きな体をした男子選手の守備をもろともせず、彼女は面白いほど抜き去った。しかも普段から巧を相手に練習しているシュートの成果が出たのか、見事な得点を何度も決めることができたのだ。

 結果西日本リーグに参加して初めての年に、なんと巧達のチームは三戦全勝で優勝することができた。さらに千夏はリーグ最多の八得点をマークし、得点王にも輝いた。

 また優勝したことで、他のリーグでの上位チーム同士と対戦するKF杯という日本一のチームを決めるトーナメント戦への出場も決定したのだ。

 しかも二〇十七年三月末に開催されるその大会には、あのブラジル代表のチームも参加するとの連絡があったから驚きである。

 協会はKF杯直前の三月二十日に、日本代表と国際親善試合を組んでいたブラジル代表と交渉し、日本一決定戦への参加も打診して承諾を得たようだ。

 昨年はそこに韓国代表を招くなど、ここ数年海外チームを招待しているとは聞いていた。だが今年はパラリンピック四連覇中で世界ランク一位である、あのブラジル代表と戦える可能性が出てきたのだ。

 そのニュースを聞いて、巧達はまた一つ自分達が持っていた大きな夢が実現するかもしれないと心躍らせた。

 だがそのブラジル代表と八千草のチームが対戦するには、当然ながらKF杯におけるトーナメント戦を勝ち上がらなければならない。例年開かれている国内リーグの日本一決定戦では、圧倒的に強い東日本リーグの優勝チームが最大の敵だ。

 なぜなら西日本リーグでは参加チームが例年三から五チームであるのに対し、東日本リーグでは七チームから八チームが常に争っていて、選手層も厚くレベルが高いからである。また当然ながら東日本のチームには、日本代表に選ばれている選手達が数多くいる。 

 その後巧はその大会前である、二〇一七年一月開催の日本代表合宿に招集された。それまでに二〇一六年六月開催の日本代表選手育成合宿に参加してはいたが、その後の八月に行われた合宿や十一月のドイツ遠征に向けた代表合宿には呼ばれなかった。

 だが西日本リーグでチームが優勝してその活躍が認められたのか、ようやく本格的に日本代表候補として声をかけられるようになったのだ。

 また次の二月には再び代表合宿が行われ、そこで三月のブラジル代表と闘う日本代表最終メンバーを絞り込んで発表するらしい。そこで選ばれた選手達だけが、二十日のブラジル戦直前の三月十八,十九日の代表合宿に参加できるとのスケジュールになっていた。

 千夏の周りでも大きな動きがあった。いよいよ五月にはオーストリアで開催される国際試合に、女子日本代表の初参加が決定したのだ。そのため一月から三月まで毎月二日間の日程で代表選手育成合宿が組まれ、そこへ千夏も召集された。とうとう長年の夢であった女子日本代表が誕生し、代表候補として召集されるまでになったのである。

 巧は日本代表に入りブラジルと対戦すること、千夏は五月の初の女子日本代表国際試合に出場することが当面の目標となった。また二人の共通目標は、八千草のチームで日本一を決めるトーナメント戦を勝ち上がり、二人でブラジル代表と闘うことだ。

 どんどんと夢が現実に近づき、巧達は胸を躍らせながらさらに日々練習を重ねることとなった。



「ねえ、望はいつまで実らぬ恋を追い続けるの? 一サポーターとして選手に交際を申し込むのは、ルール違反というのも判らないではないよ。でも望は巧君のことが好きになったのが先で、サポーターになったのはその後じゃない」

「そう言われると微妙なんだよね。確かに知り合ったのは絵里と一緒にいたあの時だけど、好きになったのはフットサルをやっている彼を見るようになってからのような気がする」

「もうどっちだっていいよ、面倒くさい。だからいつまでこうしているのかって聞いているの。ファンとしてずっと見守り続けるだけ? それとも告白する?」

 絵里は望のここ数年の煮え切らない態度に業を煮やしたのか、二〇十五年のシーズンが終わったら巧を食事に誘い、思い切って告白しろと迫ってきた。

 今シーズンの巧はかつてないほど出場機会が増えて活躍もした。しかも現在正GKの田上選手が、来シーズンから移籍するのではないかとの噂がサポーター内でも流れ始めている。それが本当なら、巧は来季こそ正GKになるのではないかと囁かれていた。

 だったら今以上に、注目を浴びることになるだろう。だから一層近づき難い存在になってしまう前に決着をつけろ、というのが絵里の見解だった。

 巧と初めて会ってから、約五年が経とうとしている。その間望は他の男性と付き合うこともなく一途にサポーターとして、熱烈なファンとして巧だけを見つめ続けてきた。

 一方の絵里とジュンとの交際は、その後も順調だ。付き合いだして丸五年となる彼女の誕生月であるこの六月に、二人は結婚することになった。ジュンが四月生まれだから二人が二十二歳になって夫婦になるのだという。

 絵里はこれまで住んでいた望と同じアパートから、半年前に彼の家へと転がり込んだ。そこで彼の母親と一緒に三人での生活を始めていた。

 まだ早いようにも思えたが、絵里の妹がこの春で高校を卒業し就職先も決まり社会人になるらしい。その為後は高二の弟だけだから、南沢家もようやく経済的に余裕がもてるようになったからだという。

 絵里は高校を卒業してから地元の中堅企業に就職し、事務員として働きこの四月で丸三年経ち、ジュンは社会人になって丸六年になる。

 結婚しても共働きのままだろうが、彼の家も絵里の家も経済的に安定してきたらしい。そこで真剣な交際を認めてきた両家では、そろそろいいだろうという話になったようだ。

 年が明けて、本格的に式を上げる準備に入った絵里の相談相手となっていた望は、そこで巧とのこともそろそろ真剣に考えろという話題に移り、急かされる羽目になってしまったのである。

「私は望のことを思って言っているんだよ。おばさんだってすごく心配しているんだから。あんたの家では一番下の妹がまだ高一だけど、その上は去年高校を卒業して働き始めたから、あんたの家もうちと同じで生活面では楽になっているはずだよね。それなのに一番上の姉は彼氏も作らず、黙々と働いて時々サッカーを見に行くだけが唯一の趣味だと思っているんだよ。ああ、でも大丈夫。巧君のことは喋ってないから」

「本当に止めて。お母さんや他の人には、絶対言わないでね。言ったら本当に絶交よ」

「言わないよ。約束したもんね。この事はジュンにさえ言ってないから。六月の結婚式に望は必ず呼ぶけど、彼は巧君とは縁が切れているし、いまさら呼ばれても迷惑だろうって呼ぶつもりはないみたいだし。それに巧君のことは、私が結婚するから言う訳じゃないからね。今までずっと言ってきたことだから。でも本当に私が結婚を決意したように、望も決断する時が来たんじゃないのかなって思うんだ」

 そんな絵里の熱意に押された訳でもないが、十二月二十日のリーグ戦最終日を迎えた日の試合終了後、他のファンに交じってクリスマスプレゼントと一緒にファンレターを忍ばせた望は、ドキドキしながら練習後の巧に会うことができ、直接手渡した。

 強豪チームとはいえ、フットサルはまだまだマイナースポーツだ。その為ファンも収拾がつかないほど集まるケースはほとんどない。

 その分クリスマスやバレンタインデー等、ファンが集まるイベント事がある際には、選手と接する機会を設けられており制限されることもなかった。

 ただプレゼントなどを持ち込む際には簡単なセキュリティーチエックをされる場合もあって、食べ物だとクラブ側から持ち込みを拒否されることは知っている。 

 だから今回は普段の練習時で使えるような、テーピングと膝などに巻くサポーターのセットを用意した。あまり高いものだと、選手から引かれる。

 また経済的には決して恵まれているとはいえない選手達にとっては、よく使う消耗品の方が喜ばれるだろう。何より望の懐事情からしても、その程度が精一杯だからだ。

「ああ、喜多川さん。プレゼント? ありがとう。いつも応援に来てくれて嬉しいよ」

 以前から顔馴染みである望に、巧は微笑んでくれた。巧の追っかけである他の女性ファン二人に睨まれている視線を感じながらも、望は思い切って彼に告げた。

「今回はファンレターも入れておいたので、是非読んでください」

「うん、判った。ありがとう」

 望の重大決意とは裏腹に、巧は軽く手を上げて他のファンからもプレゼントを受け取るために背を向けた。望は手紙の中にメールアドレスと電話番号を記入し、

“年明けのプレーオフが終わって完全にシーズンが終了して休みに入ったら、一度食事をしませんか。連絡下さい。待っています。”

という一文を書いた。今までにない大胆な行動だ。連絡してくれますように、と望は願う気持ちで彼の背中をしばらくじっと見つめていたのだ。

 だが年が明けてシーズンオフになっても、彼からの連絡は来なかった。それが答えなのかと諦めていた時、望の耳に入ってきたのは、巧がフットサルチームを辞めるという信じ難い噂だったのだ。

 しかもただ辞めるのでなく、彼はブラインドサッカーのチームへ移るらしい。しかも今までクラブをサポートしていた巧が勤める会社が、新たにそのチームとスポンサー契約を結ぶというではないか。

 また会社は、彼と盲目の女性のブラサカ選手ともマネジメント契約を結ぶという。その噂は結局真実となり、四月に入って巧の所属する会社とクラブの担当者が記者会見を開き、実際の目で見聞きした望は愕然とした。

 しかも当面は本人の精神面と体調面を考慮し、直接取材を受けつけないらしく、記者会見の場に二人の姿は無かった。

 ネットで検索をしたが、巧と一緒のチームに所属して同じマネジメント契約を結んだ里山千夏のことはもちろん望も知っている。

 学年は望や巧よりも一つ上だ。将来有望なサッカーの女子選手が母親の再婚相手による暴力で目を失明し、悲劇のヒロインとして大々的なニュースとなっていたまさしくその人である。

 その後東京からこの八千草に移り住み、視力障害者が行うサッカー選手として活躍しだして悲劇の美人アスリートと一時期ちやほやされていた。しかしその後はネットで、彼女がただの客寄せパンダとして利用されているとの批判的なものが多くなり、そのまま騒ぎは収束していたはずだ。

 母親とは別に暮らしているようだが、お金には不自由していないと聞く。目は見えないことは気の毒に思うが、美人の彼女は働かずに好きなことをやっているという。

 望には仲のいい家族がいて五体満足の体ではあるが、人に羨ましがられる容姿でもなく決して高くない賃金で、一生懸命働いても経済的な余裕などない。

 そんな女がいるチームに巧がフットサルを辞めてまで入り、また彼のいた会社がバックアップまでするのか意味が判らなかった。だがネットで記者発表を詳しく読んでみると、その背景が書かれていた。

 彼女と巧は幼い頃からの友人で、近所に住んでいることから彼女が障害を負ってからも献身的にサポートしてきたらしい。

 そんな中、健常者である彼とともに障害者である彼女とが同じフィールドに立てるブラサカというスポーツに魅了され、共に日本代表を目指すという目標を持ったという。

 許せなかった。巧はこれまで付き合っている女性などいないと公言しており、そんな気配をファンやサポーターにも全く見せてこなかった。そんな彼が、目の見えない女性と親しくしていただけでなく、その後のスポーツ人生をも変える決定を下したことにショックを受けた。  

 しかも彼は今年こそ逃したものの、近い将来のフットサル日本代表として有望視されている選手だ。そんな彼がその未来を捨て、健常者なのに障害者のスポーツで日本代表になることを目指し、東京パラリンピックに出場することを目標と掲げているという。

 こんなことがあっていいのか。望は怒りを覚えた。望の食事の誘いに反応しなかったのは、選手として一ファンを特別扱いしなかったとも取れる。だからしょうが無いことだと諦めていたのに。

 それでも心の底では、一時期共に同じ時を過ごした仲間であり全く知らない関係ではないのだから、断るにせよ彼からなんらかの反応があってもいいのではないかと思っていたのだ。

 しかし時期的には望が心悩ませていた頃、巧はクラブを辞めることを決心しており、活動の場所を他に移すことを考えていたことになる。

 しかもその理由があの千夏という女と、ブラサカを盛り上げるという共通の目標を持っていることが特に許せなかった。

 ずっと遠くから見守っているだけでもいいとさえ思っていた望の気持ちなど、全く知ることなく、彼は見事に期待を裏切り、望の前から姿を消そうとしているのだ。

「でも千夏って子と巧君が、付き合っている訳じゃないのよね。テレビでは流れなかったみたいだけど、会見で記者から二人はお付き合いをしているのかと質問が出たみたい。その時会社の人達は、そう言う関係ではありませんと否定したって、ネットニュースでは流れていたけど」

 望も社会人になって自分でお金を稼ぐようになってから、携帯はガラケーのままだが家には購入したパソコンを置いてネット回線を繋げていた。それでようやくネットから、様々な情報を見られるようになった。

 絵里も同様だが、ジュンとの連絡を密にしたいからと携帯はスマホを使っていて、ネットを駆使しての情報収集の早さは望よりも進んでいる。

「だからって、ずっと応援してきたフットサルのファンを裏切る行為だと思わない?」

 六月の式が間近に迫り、その相談という名目で絵里とはいつものファミレスで頻繁に会って話すようになっていた。

 だがどうしても、話題は別の方向へと逸れていく。ざわざわとしている休日の店内で、式の話を途中で切り上げ、今日もまた巧の話ばかりをしていた。絵里はややうんざりとした顔をしている。

 彼女の言いたいことは判った。今まで散々巧に告白するよう促していたのを、頑なに拒んできたのは望の方だ。それが今さら何を言い出しているのか、だから言ったでしょと心の中では呆れているに違いない。

「まだフットサルのファンの一員としてとか言っている訳? 正直にいいなよ。個人的にずっと思い続けてきた巧君に女の影なんてなかったのが、突然現れて驚いているって」

 絵里はフリードリンクで今日三杯目のリンゴジュースに口をつけ、望の顔を睨めつけるようにして言った。望がすぐには本音を出さず、表向きの発言しかしないことにいい加減腹を立てているようだ。

 何も言い返せずに黙っていると、彼女は話を続けた。

「だったら今度は巧君が参加している、そのブラサカとかいうチームの練習を見に行けばいいんじゃない? サポーターとしてさ。ついでにその女とどんな関係なのか、じっくり観察してくればいいじゃない。そこで本当に二人が恋人関係じゃないって判ったら、今度こそ面と向かって告白しなよ。クリスマス前にした、中途半端な行動じゃなくてさ。喜多川望という一人の女として勝負しないと、ずっとグチグチ言っていることになるよ」

 望も巧達が行っている練習を一度見に行かなければ、とは考えていた。彼の所属するチームが作っているブログを見て、毎週土曜か日曜日のどちらかの昼間に練習をしていることは知っていて場所も判っている。

 それにフットサルよりずっと知名度の低いスポーツだから、または八千草のチームが創設から間もないこともあるのか、練習に参加する人やサポーターを随時募集していた。

 健常者でも男女問わず参加できるようだが、サポーターの方はサッカーやフットサルのように応援する人達という意味とは少し違う。ブログを遡って読む限り、まさしく障害者達のサポートやボール拾いなど、練習を助ける仕事などが含まれているようだ。

 もちろんただ見学するということも可能らしい。そのことを絵里に説明すると、彼女はにたりと笑った。

「なんだ、ちゃんと調べているんじゃない。実は私もそのブログ、読んだわよ。ジュンも巧君のことがあれだけ大きくニュースになったものだから興味を持ったらしくて、こんな活動をしていたのかと、驚いていたけど実は他にも色々聞いたの」

 そこでジュンと昔出会った時にもいた、サジという巧の同級生から仕入れた情報を耳にした。

 千夏という女性と巧とは小学校の頃、彼が所属していた八千草のクラブに彼女が入部してからの付き合いらしい。家も近所だったことから、二人でよく練習していたという。

 その後の二人の関係を断続的ながら聞いた望は、やはり自分の目で確かめる決心をして、絵里にお願いした。

「今度の土曜日、一緒に巧君の練習を見に行ってくれない?」

 そこで次回の絵里との打ち合わせの場所は、ファミレスではなく巧達が練習をしているグラウンドで行うことが決まった。

 望達はグラウンドのある最寄り駅で待ち合わせをし、練習場へ向かった。事前に見学希望とブログ宛てに連絡してあった二人は集合時間より少し早く着き、そこで主催責任者兼監督である谷口という人を見つけ挨拶をした。

「見学希望の方でしたね。興味を持っていただく人が増えるのは、とても嬉しいです。今日は初めてですから、見るだけでも結構ですよ。ただメールでご連絡したように強制ではありませんが、もし何かお手伝いしていただけるようであれば、とても助かります」

 そう言った彼は集合時間になったことを確認し、全員を集めて私達を紹介してくれた。記者会見の影響もあってか、他にも同様の見学希望の参加者が複数いた。その為一人一人の自己紹介は短めに行われたが、巧はすぐ私達に気付いたようだ。

「喜多川さん。見学に来てくれたんですね。南沢さんもお久しぶりです」

「何? 巧の知り合い?」

「はい。昔の友達で、喜多川さんは僕がいたフットサルチームのサポーターなんです」

「なるほど。今日は彼の応援に来たって訳だ」

 谷口は巧との会話で納得したようだ。間違ってもいないため、望達は黙って頷いていた。すると背の高い巧の側に立っていた小柄な女性が彼の腕を掴み、何やら小声で話しかけていた。その人が今日の見学に来た目的の一人である里山千夏だ。

 彼女の事をネット動画で初めて見た時も、可愛いとは思った。だが実際に目の前で見ても顔は小さく、ほとんど化粧はしていなくても、整った奇麗な顔をしていた。

 視力を失う前から、伊達に美人アスリートとして世間から注目されていた訳では無いことを思い知らされる。巧と談笑した時に見せた彼女の笑顔は、同じ女性から見ても魅力的だった。

 対して望自身は地味だ。ブスと言われることはなかったが、決して可愛いとか美人など他人から言われたこともない。

「それでは練習に参加する人はこちらに来て、アイマスクをそれぞれ装着して下さい。見学する人達は、少し離れたところで練習している人達を囲むようにしてください。ボールが転がってきたら拾って、一声かけてからゆっくり転がし返してあげて下さい」

 事前に動画などで見てきた限り、ブラインドサッカーの試合をする時は周りにフェンスのようなものに囲まれた中でプレーを行うようだ。

 しかし練習時では使用しないらしく、代わりに周りにいる人達が壁の代わりをするのだろうと理解した。練習の風景などもブログにアップされていたため、だいたい判った。

 だがブラサカが初体験という人や、経験の浅い人達も多くいたからだろう。アイマスクにより目隠しされているため、ボールがどこに行ったのか判らず右往左往していたり、空振りしていたり転倒したりする人が散見された。

 フットサルのチーム練習風景を見学していた時のような緊張感やスピード感は全く無く、望は正直退屈なスポーツにしか見えない。

 しかし練習内容が変わるにつれて気づいたが、中には目隠しをしているとは思えないような動作で華麗にボールを操り、強いキックを放つ選手が数人いた。

 その中でも千夏の存在はずば抜けている。キーパーの巧に対し強烈なシュートを打ったかと思うと、“ボイ、ボイ”と声をかけながら近づいてボールを奪おうとする大きな男性選手の間を小さな体で難なく交わし、両足の内側を使った細かい独特なドリブルをしながら前に進んでいた。

 そんな姿を見て、悔しいが格好良いとまで思ってしまった。フットサルやサッカーのルールの違いも良く知らない素人の絵里でさえ、千夏と他の人達とのテクニックやスピードの差は見ていて判るらしく、すごいと時折呟いていたほどだ。

 それ以上に腹立たしかったのが、時折厳しい表情を見せながらも生き生きとプレーをしている巧の姿である。フットサルのクラブ練習や試合とは緊張感が違うからだろうが、それにしても楽しそうにしている彼を見ているのがとても辛かった。

 なぜ彼はフットサルで代表入りの可能性を捨ててまで、障害者スポーツを選んだのかが不思議でならなかった。

 視覚障害者の千夏が、ブラサカを選ばざるを得なかったことは当然だろう。しかし記者会見でも健常者である巧が、なぜブラサカを選んだのかという質問に対して述べた彼のコメントだけではまだ納得がいかない。

 望はここまで来たのだから、やはり直接彼に聞こうと決心した。巧達の練習が終わり、見学者を含めて全員が集まって解散を告げられた時、望はまっ直ぐ彼の元に向かった。

 だが当たり前のように、彼の右肘に掴まり誘導されて一緒に歩いている千夏が傍にいたため、話しかけようとしたが一瞬躊躇した。

 すると彼女の方が、先に望の気配を感じてその存在に気づいたらしい。こちらに顔を向けてはいるが、微妙にずれた視線で望の方を見て彼の腕を引っ張った。

 前を向いていた巧は立ち止り、何と後ろを振り向こうとして望に気づいた。

「喜多川さん。今日は見学に来てくれてありがとう」

 だが望の顔が強張っている様子を見て察したのか、すぐに頭を下げて謝った。

「ごめん。フットサルクラブに入った頃から長い間応援してくれていたのに、僕の勝手で辞めてしまって申し訳ない」

 彼がしばらく顔を上げなかったので、望はすぐに切り出した。

「どうしてなんですか。どうしてフットサルじゃなく、ブラインドサッカーを選んだんですか。あの記者会見の内容だけではどうしても納得できないので、直接聞きに来ました」

 顔を上げた巧は、戸惑った表情で何と答えていいものかと悩んでいる様子だった。それでも望は彼の口からどのような言葉が発せられるのか、じっと待っていた。

 その間に後から絵里がついて来て、横に並んだ。周りの数人が尋常では無い空気に気づいたようで、遠巻きに望達の様子を見ている。

 そこに周辺から様子を聞いた谷口が間に入り、望達に向かって言った。

「見学だというから来てもらったんだけど、あなた達は巧の知り合いなんだよね。でも飯岡選手に対するチームに参加した経緯の質問となると、会社のマネジメント担当者を通してもらわないと困るんだ」

 しかし望も後に引くことはできない。谷口を無視して巧の目を見て言った。

「私は直接巧君の口から聞きたいんです。自分自身で書いたコメントでしょうけど、そんなものを他人に読み聞かされただけで、昔の遊び友達であり長年サポーターをしてきた私には全く理解できません」

「そうよ。望はずっと巧君を追いかけてきたんだから、それぐらい本人が直接聞く権利ぐらいあるんじゃない」

 絵里も望を応援するために、谷口の間に立塞がってそう言い放った。しばらく睨み合うように五人の間に沈黙が流れたが、それを破ったのは意外な人物だった。

「喜多川さんでしたね。本当に今日の巧の練習を見ていて、理解できなかったんですか?」

 千夏が合わない視線のまま、望に向って言った。おい、と止めさせようとする彼の言葉を遮り、彼女は話を続けたが口調は先ほどより乱暴になっていた。

「巧がフットサルをやり始めたのは、私の目が見えなくなってからなの。だからあなたの方が彼の練習をしている姿だったり、試合に出ていたりする様子をちゃんと見てきたはずよね。それを踏まえて今日、巧がブラインドサッカーをやっている姿を見て、あなたはどう思ったの? 本当にフットサルから転身した、彼の決心が理解できないというの?」

 彼女の言葉に、望は言葉を詰まらせた。しかし彼女の態度が気にくわなかった絵里が、先に言い返した。

「判らないから聞いているんじゃないの。あなた、何様? ちょっとマスコミからチヤホヤされていい気になって、目が見えなくなったからって、誰もが同情すると思ったら大間違いなんだからね」

「おい、それは言いすぎだろ。お前こそ何様だ。何を判ってそんな口を聞いてんだよ」

 それまでどちらかといえばオドオドしていた巧が急に低い声で、それこそ以前望達を助けてくれた時のような迫力で絵里を睨んだ。

 これには彼女もかなわず、後ずさりして望の背中の後ろに隠れた。しかし千夏も負けてはいなかった。

「何様って言われても、私は里山千夏様よ。マスコミがチヤホヤしようがしまいが、私には見えへんし関係あらへん。それに目が見えへんようになったからって、なんであんたらに同情なんかされなあかんのや。そっちの方がむかつくわ」

 それまで可愛いと思っていた彼女が突然関西弁で啖呵を切ったものだから、絵里はもちろん、望まで怯んでしまった。こんなに怖い女性だとは思いもよらなかったからだ。

 さらに彼女の怒りは続いた。しかもその矛先は巧に向かったのだ。

「巧も巧や。はっきり言ってやりぃ。あんたがウダウダしているから、こんなこと言われるんやないの。しかもこの子はどこがええんか知らんけど、あんたに好意を持っとるみたいやから、余計はっきりさせんとあかんで」

 巧は目を丸くしていたが、彼女の発破が効いたのか少しして望の目を見て口を開いた。

「僕はフットサルを嫌いになった訳じゃない。でもずっと好きだった訳でもないんだ」

 衝打の告白に望は固まった。あれだけ見守り続けて来て応援してきた巧が、未来の日本代表候補とまで言われるほど活躍していた彼の口から、そんな言葉が出てくるとは想像を超える発言だった。彼は言葉を続けた。

「僕は小学校の時から今と同じ見た目は黒人みたいな子で、よく弄られてきたんだよ。それでブラジルのクウォーターだといったら、何故かサッカーに誘われた。でも足が遅くて器用じゃなかったから、キーパーばかりやらされることになってさ。でも反射神経と瞬発力だけはあったらしく、誰かさんからも鍛えられたおかげで、なんとかチームの邪魔にはされない程度の選手にはなったよ。でもずっとレギュラーにはなれずに、一時期腐ってサッカーを辞めたんだ。その頃かな。喜多川さん達と会ったのは。高一の終わり頃だったよね」

 高一の終わりの春休みと望は言い、絵里も頷く。千夏はそうだったんだという顔をして聞いていた。彼女はその頃のことを、詳しく知らないようだ。巧はさらに続けた。

「それでもサッカー自体は嫌いじゃなかった。そんな時、ここにいるサッカー大好きの天才少女の目が見えなくなり、サッカーができなくなった。それを知って僕はもう一度サッカーをやろうと思って、以前から勧められたフットサルクラブを紹介してもらったんだ。サッカーよりも小さいゴールを守る方が、僕には合っていたんだろうね。それからなんとか活躍できるようになったけど、でもやはり何かが違ったんだ。必要とされていないというか、僕じゃなくてもいいんじゃないかと心のどこかでずっと思っていた」

「そんなことない! だって日本代表候補の実力があるって、クラブの人も言っていたじゃないですか!」

 望は巧の言葉を強く否定したが、彼は首を横に振った。

「評価されたのは確かだけど、でも僕じゃなきゃいけないってことはないんだよ。代わりはいくらだっている。キーパーというポジションは一つだから、競争が厳しいことは知っているよね。正GKだって試合に出続け信頼を積み重ね、そのポジションに居続けなければならない。第二GKは試合に出た時は当然だけど、日々の練習での信頼を積み重ねていかなければいけない。第三GKも同じだ。僕はサッカー時代を含めると、十年程そういう経験を積み重ねてきたんだ」

「それが嫌になったというんですか。サッカー部時代はそうだったかも知れないですけど、フットサルをやっていた巧君は、その積み重ねてきた信頼の成果がもうすぐ実るところまで来ていたのに。それをどうして捨てるんですか」

「嫌になった訳じゃないし、捨てたわけじゃないよ。ただ僕はその競争に疲れていたんだろうと思う。そんな時、里山さんのブラサカの練習に付き合っている内に、僕は多くの人から必要とされ始めたんだ。もちろんブラサカのキーパーだって、代わりは他にもいる。でも知ってしまったんだ。人から必要とされ、さらに僕自身が心から楽しむことができるスポーツに出会ったことをね。あと当たり前だけど、ブラサカをやっている選手の多くは目が見えない。だから僕の外見を気にする人が、ここにはまずいないんだ。それに見た目で判断できない人達と接しているからか、その周りにいる健常者達もまた僕を変な目で見る人はほとんどいない。そんな環境が、僕には居心地良く感じたのかもしれないね。だから僕はフットサルでは無く、ブラインドサッカーを選んだんだ。これを逃げだと言う人もいるかもしれない。でも僕は自分の新たな居場所を見つけたと思っているんだ」

 望はそこで千夏の言っていた意味が理解できた。ずっと巧を見て来て何が違うと聞かれたら、真っ先に浮かぶ言葉は彼が心から楽しんでいたことだ。

 望は気づいていたのに、嫉妬心から認めたくなかっただけだった。だから巧の口から違う理由を聞きたいと思い、彼を問い詰めてしまった。しかし結局教えられたのは、望が感じたことだったのだ。

「それと、ごめんなさい。喜多川さんのことは、サポーターの一人としてしか見てこなかったし、それ以上の感情は持てないんだ。申し訳ない」

 再び頭を下げられ、突然目の前で振られてしまった望だったが、そのこと自体は覚悟していたのでそれほどショックは受けなかった。

 ただ周りにいた人達の方が巧の言葉に動揺していた。谷口はなんてことをと慌てふためき、絵里などは今このタイミングで言わなくてもと顔を真っ赤にして怒り、千夏はあんたデリカシー無さ過ぎと彼を叱っていた。

「ご、ごめん、こんな時に。でもクリスマスの頃に貰ったファンレターを読んでから、どうしようかと迷っている間に、いろいろ周りがドタバタし始めちゃったものだから、つい今の今まで返事をすることを忘れていたんだ」

「はあ? 何? クリスマスっていつの話よ。だいぶ前の話やないの。そこであんた、告白されていた訳? それで返事もせんと、今までほったらかし? それは誰でも怒るわ」

 千夏が望の思いを代弁するかのようにキツイ口調で問い詰め、巧の脛を蹴り始めた。

「い、いや、はっきり告白された訳じゃないんだけど、ね、あの、」

 巧はそれ以上手紙の中味のことを言っていいのか迷ったようで、望の顔をチラチラと見ながら、千夏の蹴りを避けている。望はもう笑うしかなかった。

「いいんです。こうなることは判っていたんですけど、私がいつまでもぐずぐずしていたんで、けじめをつけようとしただけですから。そうそう、絵里が六月にジュン君と結婚するんですよ」

「え? そうなの? ジュンってあのジュン? そうか。最近は彼らと全く連絡を取っていなかったから知らなかった。それはおめでとう。あいつはいい奴だから、良かったんじゃないかな。お似合いだよ」

 千夏の脛蹴りが止み、彼は絵里を見て微笑んだ。褒められて祝福された彼女は、怒りの感情から照れ笑いの表情に変わってありがとうと小声で答えていたが、顔はやはり赤いままだった。

 そこで張り詰めていた空気が少し和らぎ、谷口も良かったと口にはしていたが、目は泳いだままである。千夏もジュンって誰? 結婚? と首を傾げていた。

「絵里も新たな生活を始めることになって、私もこの機会を利用して自分の気持ちにケリをつけたかったの。ごめんなさい。もう巧君を追っかけることは止めます。今までありがとう。巧君の頑張っている姿を見て応援してきて、私も勇気を貰っていたことは間違いないし。巧君がこれからやることを直接応援はできないけど。私は私で、また別の道を探すことにする。お邪魔しました」

 望はぺこりと頭を下げ、彼に背を向けてグラウンドから小走りで離れ、駅に向かった。その後を絵里が追いかけてきていたようだが振り向くこともできず、まっすぐ前を向いて溢れだした涙を拭きながら望は走った。

 もう今後彼に会うことはないだろう。それでも彼の言ったことは忘れない。彼のように自分を必要としてくれて、自分が心から望むようなことを何でもいいから見つけたかった。

 それが恋人なのか、趣味なのか、仕事なのかは判らない。だがとにかく前向きになれる、心から楽しいと思える事に出会いたい。望は彼から遠ざかりながらそう強く思った。 

 その何かが発見できればその時こそ、望が二年前から始めていたネット上に千夏への誹謗中傷を書き込むことが止められるだろう。だがそんな日がいつ来るのか、望には判らなかった。

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