第16話

 車は美琴のマンションの少し手前で止まった。

「そうだ!…希夢」

 そして車から降りようとする希夢を、金森が呼び止めた。


「これを渡しておかなきゃ…」

 金森が内ポケットを探る。


 金森は、怪訝そうな顔をし…はっ!とした。


 取り出して来たのは、焦げの様な穴が空いたハンカチ…その中には表面が僅かに欠けた希望石が入っていた。金森はそんな状態になった希望石に気付かずにいたのだ。

 金森が前川ともみ合っている時に撃たれた銃弾は、内ポケットの希望石に命中し、弾道を変えていたのだ。


「ああ…和也に守られたな…」

「石は磨けば元通りになる、少しばかり小さくなるが…とにかく返しておくよ」

そう言い、ハンカチに包んだままの希望石を希夢に渡した。

「ありがとうございます!」あの時、自分を見失っていた東京の片隅で、拾い上げ、投げ捨てた父親の形見が今、再びその手に戻って来たのだ。希夢は万感の想いでハンカチに包まれた希望石を握りしめた。


 希夢は、車を降り際、振り返り

「今夜、屋敷で待ってます!必ず来て下さいね!」

と金森に言った。



 家に着いた二人は、琴絵に今朝あった出来事の一部始終をを話した。


 琴絵はその出来事に非常に驚き、二人が無事帰った事に胸を撫で下ろした。が、それ以前に金森が現れた事に異常に動揺したのだ。…それがなぜかは、大久保が提案した食事会にて明らかになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る